5 異世界の厳しさ
「まぁ、転移したくてした訳じゃ無いですもんね」
魔力測定器の部屋から移動した部屋で、シエルの車のボンネットに落ちてきた時と同じ服に着替える。気絶?意識の無い人間を運び込んできて丁寧に服を脱がせてくれたのだろう。元の世界の救急病院なら服はそのままか、切り裂かれるだろう。
「着替え終わりました?」
「あ、はい」
カーテンを開くと、教授はスーツ姿を下から上にじっくりと観察してくる。
「正装の様式はそんなに変わらないんですね」
別にスーツが珍しい訳ではないようだ。ソファに座る様に促され、対面するように座る。
「まず基本的なことを伺います。この保険証と言う物で確認も出来るのですが、この世界には無いものでして、直接。加藤一さん、45歳。ご職業は?」
「公認会計士です」
「公認、会計士?この世界にも会計士と言う職業は存在しますね」
やはり似た世界なのだろうか。
「ではスキルはどうですか?」
スキル?技能?簿記とかそういう事を言っているのだろうか。
「特に…」
「ステータススキルでも構いませんよ」
ステータススキル?知らない言葉ばかりだ。あ、剣道とかそれになるのか?
「剣道をやってました」
「道?剣術とは違うのですか?」
あー、そこからか。外国人に説明するような感じだ。
「剣道は剣を持つ人間の在り方を追求するものです」
「座学中心をいうのですね。で、レベルは?」
そう来たか。定期的に通っていたが稽古ばっかりで、昇段試験は全然受けてないからなぁ。
「初段でして、6級から1級まであります。それ以降が初段から段位が八まであります」
「中間位ですか」
その認識でいたもらった方が良いだろう。何か悪魔がいる世界みたいだし、戦闘させられるのも嫌だし。
「それ以外はどうです?」
うぐっ!特に出てこない。このままでは新しい世界で役立たずの烙印を押されてしまう。
「…無い、ですね」
「う~ん、スキルなどが明確化されていない世界だったんですね」
この世界はスキルとかステータススキルがはっきりしているのか。何かゲームみたいだな。
45歳にして、会計士と剣道しかない男。しかも魔力は持ってても使えない。ヤバい、完全に役立たずだ。
「何か、すみません…」
「いえ、謝らなくても。大丈夫ですよ。研究所から放り出したりしませんから」
教授の笑顔に安心することが出来た。