49 チートを知る
カレンに案内されて研究所に入ると、休憩中の研究員や職員が正面玄関に集まっている。
各々、魔力障壁や物理障壁を展開しようと身構えている。
シエルは厄災か何かの類で認識されているのだろうか。
「あなたが、ビーさんですか?」
廊下を進みながらカレンが反転し、後ろ歩きでビーに尋ねる。
「そうだ。お前は人の類じゃないな」
ビーはカレンの正体を見抜いた。それもかなりの速さで。
「あー、分かっちゃいました?教授の言った通りですねー。でも、そのことは内密でお願いしますー」
「まぁ、いいだろう」
カレンの正体を鑑定抜きで見抜ける力。正直、カレンを鑑定しても分からなかったが、キューブを教授に入れて貰っている姿を見て気付いた位だ。ビーの観察力なのか。
ある研究室に入ると、教授が研究員と話しながら、機器の具合を見ている。
「教授ー。お連れしましたー」
「1名はちゃんと抑えられてるのね」
「警備員総出で抑えてますから、後1時間は持つと思いますよー」
「最悪、通報しなさい」
「警備に連絡しておきますー」
カレンは敬礼すると、部屋を出て行く。
教授も、後は任せる、と言い残し、別の部屋へと案内し始める。
「あなたは変わらないわね。それにしてもBランク冒険者だから、ビーなの?」
「お前はコロコロ変わるな」
ビーって名前、そんな安直なネーミングだったのか?!
教授は国家認定の転生者なのだ、それをコロコロ変わることを知っている、と言うことは。
ビーも転生者なのか?
「ところで一ちゃんは、初の結界都市はどうだった?」
結界都市の感想は、近付くにつれて濃くなる魔力。特大の魔術も使った。
正直、興奮の日常だった。
結界都市での出来事を語って聞かせた。
初めての魔獣討伐、魔物との接触、冒険者の実態、ギルドでのランクアップ。
「って!GランクからBランクまでこの短期間で上げたの?!何?賄賂?」
「一応、順番にちゃんとこなしました。大分援助はしてもらいましたけど」
「援助って、よく冒険者ギルドは何も言わなかったわね」
「大分苦しそうな表情はされましたけど…」
「試験はあったでしょ?あれはどうやってクリアしたの?」
「鑑定眼がありましたし、戦闘では魔術で何とか…」
「はぁ、まぁ、鑑定眼は良いとして、魔術は一ちゃんの領域だものね」
領域?まぁ、魔力総量が悪魔並みなのだから、自在に使いこなせれば、自分の領域と言えるだろう。それには勉強が必要なのだろう。
「魔力の使い心地はどうだった?」
「使い心地?」
「使った後の感触ってことよ」
「大きいの使ったときはごっそりいった感じですね」
「だからその後よ!」
「いやまぁ、別に気分が悪くなったりはしなかったですね」
何が言いたいのだろうか。
「まぁ良いわ。一ちゃんは魔力水槽で育ったの、覚えてる?」
小さいのから大きいのに徐々に移った記憶がある。
「魔力水槽で育つと魔力総量の調整が出来るの。それと同時に魔力吸収力も変化するの」
つまり、この身体は濃密な魔力水槽で成長したお陰で、全身の魔力吸収効率が良いと言うのだ。
魔力の濃い結界内なら魔力を消費しても、その側から魔力が自然吸収され、勝手に回復していくと言うのだと。
結界都市を離れたこの都市においては、魔力ではなく、もっと細かい単位の、魔素が漂うらしい。それも吸収している様で、回復量は少なくとも魔力は回復する。
ここに来てやっと異世界に来たと。
漫画やアニメの様な展開になってきた。
芽生えたチート体質。
少し…
否、大分嬉しい!
否、超絶嬉しい!
「固定化された詠唱?」
「どうやったら勉強できますか?」
「そう言えば前も聞いて来たわね。残念ながらここには殆ど無いわね」
「本屋に行けばその手の本は買えますか?」
「固定化された詠唱の勉強をするのに、本を買ってたら、財布が痛くなるわよ?」
「今、懐事情には自信があります!」
「クエスト報酬ね。それにしても防具とかどうしてたの?」
「最初は祝いで買って貰ったんですけど、その後はシエルさんから買いました」
シエルから買ったスカイドラゴンの防具一式を包んだ風呂敷を持ち出す。
中身を教授が検分している。立ち上がって胴の部分を眺めている。
「これ、いくらで買ったの?」
「1,000万です」
「桁が間違ってるわよ」
え?やっぱり貴重なものだった?
「そもそも、スカイドラゴンは日本に生息してないし、その生息域も限られてるし、数も少ない。防具一式に使うなら、2匹は狩らないといけないわね。それにこれただの防具じゃないでしょ。デザイナー工房の逸品とかじゃない?」
デザイナー、何かそんなことも言っていた気がする。
「億、ですか…」
「違うわよ、もう一桁」
「10億?!」
「それ位してもおかしくないわよ。防具と言うより、美術品級ね。まぁ、下手に壊して修繕費に気を付けることね」
10億の修繕費…怖い。
先程のチート体質感涙物語を返して欲しい。
「ちょっと持ち歩くのが怖くなったので、自室に置いていきます」
最適解な選択な気がする。それにしても、光魔術や闇魔術、空間魔術の適性が欲しい物だ。
どうしようもないとは分かっているが、希望は捨てたくない。
「そう言えば昔、錬金術師として錬成具を作った時の渾身の逸品があったはずだから、それを探しといてあげるわ」
何やら貰ってばかりな気がする。
「まぁ、本屋は止めて、魔導図書館に行くことをお勧めするわ」
「普通の図書館では無いんですか?」
「そうね、それなりの研究クラスと研究目的が無いと入れない特別な図書館よ」
「研究クラスって何ですか?」
「地下階層に分かれててね。魔法使いは1階層、魔法士は2階層、魔術師は3階層、魔導士は4階層、賢者は5階層、大賢者は6階層、7階層は禁書保管庫よ」
じゃあ、偽装しなければ5階層まで入れると言うことか。
しかし、研究目的は何か申告しなければいけないのだろうか。
ただ、魔術の勉強をしたくて、では入れないかもしれない。
「入館登録の推薦状は私が書いてあげるわ。それを持って行けば入れるはずよ」
これは書いて貰うべきだろう。
「館内の案内は…ビーだと務まらないわね。カレンの担当する研究は一段落してるから、案内で外出して一ちゃんに付けるわ」
「俺はしばらく、ここで休ませてもらおうか」
何故、研究所に入れていない人間が検討されていないのかは、聞かないでおこう。




