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42 他人任せの調査クエスト

ビーは意外にすぐ目を覚ました。首を痛めたのか、首をボキボキと鳴らしている。痛めた時って鳴らさない方がいいのでは…とも考えたが言わないでおいた。

時間をおいて、シエルのアイテムボックスから着替えを取り出して変装する。

対戦自体はそんなに長くなかったし、今は帯剣している訳でもないので、そう目立つことは無いだろう。

闘技場の裏口から脱出だ。

「んで、これからどうする。ハジメの買い物か?」

シエルの合流もあったし、街中の雑貨店へ行きたい。あと、生地屋。ゴブリンの腰布だ。

「雑貨屋と生地屋、もしくは防具屋に行きたいです」

「お?ハジメちゃん。手持ちがあるから早速防具を新調したくなっちゃったのかな?」

まぁ、今の財産状況なら防具はまた新調できるだろうけど、つい最近のことでいきなり新調したいとは思えない。財産の手に入れ方が気に入らないのだ。

「防具って言うか、ゴブリンみんなの腰布を新調してあげたいんです」

「ゴブリンの腰布って、防具じゃないから。生地屋の布。裁縫もしなくていいし、切ってもらうだけだね」

ゴブリンの腰布は防御力が無いとは思っていたが、防具屋ではないか。インナー扱いなのだろう。裁縫もしなくていい、と言うのは、腰に縛り付けているからだろう。

「後、雑貨屋では何が見たいの?」

「石鹸ですね」

「石鹸?」

宿の風呂場でボディーソープを使ったら、まだまだ汚れていたことを話すと、シエルとビー2人に笑われた。

「知能はあっても身体を清潔に保つことを意識する魔物なんて、かなり珍しいよ?」

「居るには居るんですか?」

「西東京結界都市にはいないけど、セイレーンとかかな?」

セイレーンが居るのか?!歌声で魅了的なあの定番の?

「海にも迷宮があるんですか?」

「小笠原迷宮ってのが、あってね。深度が深くて結界が張れないんだよ」

街中に戻る道すがら小笠原迷宮について聞いてみた。

どうやら、この世界の迷宮は大半が結界を張っている。ただ、海の結界だけは張れないようだ。その為、冒険者は近付けず、魔物、魔獣の対応は海軍が行うことが多いらしい。

しかし、海軍の中には、獣人、それも水生系獣人である、人魚族が多く所属しているようだ。

あくまでも軍の管轄ではあるが、人魚族も冒険者と同様の働きをすると言う。それで漁業関係者と上手く連携して水産加工業が成り立っているようだ。


「ハンドタオルサイズで、何度洗ってもくたびれない、それでいて透けない素材で、縫製して無くても解れにくい生地ってありますか?」

我ながら無理強いした質問をしてしまった。

「何だい、小窓のカーテンでも探してるのかい?」

気さくな女主人が対応してくれた。

いや、それにしても言って良いのだろうか。

『あなたの店の生地をゴブリンの腰布にしたいんですけど』

何て言ったら、侮辱されたとか言われそう。

「いやちょっと従魔用に…」

「ん?もしかしてアンタがゴブリンの親玉を従魔にしたって言う噂の?」

そんな噂が速攻で流れているのか、この街は?!

ってか、真後ろに張り付いたゴブリンロードを見ての発言か?

「何でも酔っ払いに絡まれても一撃だったらしいじゃないかい」

女主人に背中をバンバン叩かれる。この街の噂は光速度なのだろうか。

「じゃあ、良い物を揃えてやらなきゃね」

女主人が出した生地は、鑑定上、綿とポリエステルの混紡素材だ。それでいて漂白・消臭魔法が掛かっている。

「漂白・消臭魔法?」

「おや、説明する前に気付くとは、あんた目利きだねぇ」

いえ、鑑定眼ユニークです。すみません。

「漂白・消臭魔法ってのは、どんな洗剤ででも、洗ったら必ず元の色に洗い上がる、臭いも消える優れものだよ」

おぉ、確かにこれは優れものだ。

「んで?どれ位必要なんだい?」

「予備も含めて200枚ってところですかね」

「こりゃ朝から大仕事だね。1枚800円、と言いたいところだが、ここは600円にまけとくよ。12万でどうだい?」

まぁ、想定の範囲内だ。むしろ安い。会計を済ませる。

「切るだけとは言え、少し時間をくれるかい?」

「大丈夫です。すみません、雑貨屋の場所、教えて貰えます?石鹸買いたいんですよ」

「それなら店を出て右に3軒目だよ」

簡単な作業とは言え、時間も掛かるだろう。石鹸を買うくらいにはちょうど良い時間になるだろう。

雑貨屋はすぐ見つかった。軒先にところ狭しく生活雑貨が並んでいる。

店内に入るとお目当ての石鹸はすぐに見つかった。

しかし。

「すみません、天然石鹸みたいなの、ありますか?」

「敏感肌か何かかい?」

雑貨店主は品出しをしながら教えてくれる。

目の前にあるのは1個100円と安いが、この価格では環境に配慮されたものとは思えない。

従魔のゴブリンが環境汚染を起こした、何て言われたら最悪だ。

「いやぁ、結界内でも使える物を探してまして」

「そんなに長期間潜るのかい?大変だねぇ。隣の棚のが、いわゆる環境配慮石鹸って奴だ」

そのまんまのネーミングで売られていた。さすがその名の通り、値段も高い。500円だ。

「これって在庫どれ位あるものなんですか?」

「そんなに売れる商品って訳じゃ無いからね。裏の倉庫を見なきゃ何とも言えないけど、100個も無いと思うよ?」

「全部買います」

……。

「全部、か?」

「全部です」

「分かった、全部出してくるから、待っててくれ」

いきなり、売れ筋ではない商品がいきなり全部売れるとは思ってもいないだろう。

生地屋と雑貨屋、双方にとってはありがた迷惑な客になってしまったかもしれない。

90個の会計を済ませ、シエルのアイテムボックスに収納してもらう。

生地屋に戻ると、切り出しは終わっていた。シエルのアイテムボックスに収納してもらい、店を出る。

ハジメちゃん。それをゴブリン達に届けるにしても、なんらかのクエストを受注しなきゃね」

どうやら結界内に入るにはクエストを受けていないと入れないようだ。でもBランク以上は例外。

これがシエルとビーが早くBランク上げさせたい理由だろう。

「調査クエストしか無かったんじゃないのか?」

「今回は別行動するか」

シエルとビーとで冒険者ギルドへ向かう。

「調査クエストはやっぱり時間の掛かるものなんですか?」

「んー。危機回避能力があれば、難しくは無い、でも時間はどうしても掛かる。そして報酬は低い」

危機回避能力。調査するわけだから、危険な場所にも行く。それを報告するのに生きて帰ってくる。それでいて報酬は高くない。

冒険者ギルドのクエスト発注書を見てみる。


『迷宮東区の魔物、魔獣の生息調査』

『迷宮西区の魔物、魔獣の生息調査』

『迷宮南区の魔物、魔獣の生息調査』

『迷宮北区の魔物、魔獣の生息調査』


ここに張られていると言うことは、ギルドは冒険者派遣会社にも依頼を並行して出しているのだろうか。

1枚をよく見る。


報酬50万円。


やっとことが無いから高いのか安いのかの判別がつかない。と言うより前のクエストの報酬をちゃんと確認していなかった。

「とりあえず、一番遠い西区以外の調査を引き受けますかね」

シエルは発注書を取り、受付で受注登録書を受け取り、戻ってくる。

冒険者ギルドを出ると、シエルは徒歩で検問所に向かっていく。何か手元でマップを見ている。

「支給されたマップですか?」

「このマップをね。この端末に読み込ませて、マッピングさせるんだ」

衛星とでもリンクしているのだろうか。タブレットにマップをスキャンさせていく。

流れ作業のままシエルはアイテムボックス内に入って行く。

「取り付けはこれでいいかな」

シエルは大型のオフロードバイクを押して出て来た。

「それで行くんですか?」

「うん、新型のアドベンチャーバイクだよ~。乗りたい?」

自転車は乗れてもバイクなんかの、車の免許すら持っていなかったのに。

「む、無理です。操作がよく分からないです」

「まぁ、スクーターなら乗れそうだけど、危なっかしいからやめとくか」

シエルはバイクの横で屈み、何かの工具でバイクを調整しているようだ。

「これなら、ビーが乗ってもクッション性は大丈夫だろう」

大きなバイクに見えたが、ビーが近くに来ると、さほど大きくは見えなくなった。

「俺1人か?」

「あぁ、宜しく~」

「まぁ、いい。最高速度はどれ位だ?」

「100が限界かな。あんまり深い水に突っ込むなよ?何かあったらトランシーバー使え」

「いいだろう」

ビーはバイクのエンジンを掛ける。シエルはアイテムボックスから前と同じオフロード車を出す。シエルもエンジンを掛けると、ビーが後に続く。

「はぁーい。入りますよー、道開けてー」

再び、結界内に入る。この空気感、魔力の密度、嫌いじゃない。

って、加速度が違う!ビーが乗ってないだけで、この車、こんなに速いのか。

それにしても、パーティーとは言え、ここまで別行動をしてもいい物だろうか。

「いいんですか?ビーさん1人に頼んで」

「フリーにしてやった方が文句言わないから。それにあいつのバイクはオートマッピングだから、走る分だけ仕事してくれるわけだし」

完全にビーさんに丸投げして、シエルと一緒にロードの村へと行くのだった。

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