40 絶えない有象無象
宿に戻り、ベッドに寝転ぶ。
溜息をつく。
ゴブリンは入口で立っている。
「何で立ってるの?マットレスあるよ?寝ていいよ?」
「マットレス?」
そうか、ゴブリンロードは結界から出たことが無いのか。人間社会の情報など持ち合わせていないのだろう。
「ここで寝ていいんだよ」
ロードはマットレスに乗り、感触を確かめている。
「スライムのような感触なのである」
マットレスはスライム感触なのか。そう言えばスライムはまだ遭遇したこと無かったな。
「明日も明後日も泊まるから慣れてね」
「…」
既に寝てしまっている。食事もしたし、簡易的な戦闘もあった。疲れただろう、このまま寝かせてやろう。
防具を外し、武器を置き、こちらも寝てしまおう。
ゴンゴン!
んん?あっさり寝付いたようだ。ロードはまだ寝ている。
ドアを叩く音に起こされた。
「はーい」
「ハジメか。もう起きてるか?」
ビーだ。二日酔いしてないのか?ドアを開けると、至って普通のビーが立っていた。
「もう朝だ。朝飯食いにいくぞ。ロビーで待ってる」
ドワーフ殺しはもう残っていないのか。どんな肝臓能力だよ。
慌ててロードを起こし、防具を身に着ける。
シエルの部屋はドアノブに札が出ている。「清掃願います」
もう起きて出掛けたか。
しかし、ロビーにはビーしかいなかった。
「さて、朝飯行くか」
ビーと一緒にホテルを出た。
街の朝は早いようだ。既に多くの店が開店している。と言っても、先ほど開けたばかりで、開店準備を並行しているような感じだ。
一軒のカフェのテラスに席を落ち着かせた。
「アイスコーヒー、一番デカいサイズ。このサンドイッチを3つくれ」
まぁ、ビーの体格からしたら朝食でもこれ位は普通だろう。こちらは…
「僕もアイスコーヒー、通常サイズで。このモーニングセットをお願いします…あと…」
ロードの生肉セット何てある訳ないか。
「従魔用のメニューでしたらこちらです」
さすが結界都市。テラス席のある飲食店はどこも従魔用の飲食メニューがあるようだ。
さすがに生肉は無いか。燻製肉のセット、干し肉のセット、飼い葉のセット。種類はあまり多くないようだ。せっかくだし、燻製肉を注文しよう。
「ハジメ、明後日の認識票が出来るまで、どうするつもりだ?冒険者ギルドに顔を出すか?」
「そうですね。ランクアップの為にもそうしたいとは思いますけど、後は買い物とかしたいですね」
「そうか」
石鹸とゴブリン達の腰布を用意してやりたい。でも量が多くなりそうだし、シエルと合流してからの方が良さそうだ。
「シエルさんはどっか行っちゃいましたけど、ビーさんは行きたいところとか無いんですか?」
テーブルに置かれたモーニングは前の世界と似ていた。トーストにゆで卵。ビーはサンドイッチを頬張っている。
「そうだな、ここの闘技大会にでも顔を出してみるかな」
そう言えばここには闘技大会が開かれている場所があると言っていた。常時開催されているものなのだろうか。
「でも、ビーさん、大剣はシエルさんのアイテムボックスに預けっぱなしじゃないですか?」
「まぁ、本大会とかならまだしも、結界都市で開かれる程度なら無くても大丈夫だ」
そうだ。結界内で広域挑発を使った時も普通に素手だった。ビーが大剣持って戦ったらどんなことになるんだろうか。殺戮の光景しか思い浮かばない。
「んじゃあ、闘技場を探してみるか」
会計を済ませて、カフェの店員に闘技場の場所を聞いてみる。場所的には少し郊外のようだ。
先に、冒険者ギルドで新しいクエストが出ていないかチェックしてみることにした。
冒険者ギルドの正面玄関を通ろうとしたとき、別の出入り口、報告窓口でも無い場所から騒ぎ声が聞こえた。
「釈放だ、これからは身の程をわきまえて、軽率な行動は控えるように!お前らみたいなのがいるからロクな冒険者志望が来ないんだよ!」
警察、と書かれた腕章をした冒険者が説教をしている。説教されているのは昨日の5人だ。」
内1人がこちらに気付き、怒鳴り声を上げる。しかし、その怒鳴り声は警察冒険者の警棒により黙らされることになる。
「あ、テメェは!…ごぶっ?!
「貴様、またランクを下げられたいのか!もしくは罰金で冒険者ギルドに儲けさせてくれるのか?」
逮捕されると、内容によってはギルドランクを下げられたり、罰金刑があるのだろう。
「何何~。騒がしいよ~。朝から盛ってんのは誰よ~」
正面玄関から出て来たのはシエルだった。
「あ、シエルさん。何してたんですか?」
「朝飯食って、新しいクエスト無いか見に来ただけだよ」
「クエストはどうでした?」
「ダメだな。調査クエストばかりだ。時間が掛かるのばかりだ。パスだよ、パス!」
「なら闘技場だな」
「そうした方が良いかもですね」
冒険者ギルドを後にする。何か忘れているような気がする。あ、そうだ。
「テメェら!昨日の落とし前だ!決闘、決闘だ!」
あぁ、こいつらを忘れていた。
決闘って何だ?
「あぁ、一ちゃん。結界都市には、結界都市の法律があってね。本来、通常の都市では決闘は罪になるけど、ここで決闘は認められてるんだよ。だからね、おい、ビー」
「こっちは3人と1匹のパーティーだ。そちらは5人で構わないか?それでも構わないなら受けてやろう」
え?数の優位は向こうにあるのに、それを明示していいのか?
「勿論構わない!提案したのはこちらだ、死んでも文句言うなよ」
「死んだら文句は言えないことも分からないのか、このバカは」
ビーは肩に手を置き、冷たい目で5人を見据える。
「圧力」
5人の抜刀の動きが鈍くなる。何だ?
「威圧」
5人は武器を手にしようとする手が落ちる。
「中威圧」
5人は片膝をつく。
「強威圧」
5人は地面に伏してしまう。
「ここで極威圧でもしたら、圧死しちまうな。おい、ゴブリン、お前がトドメを…って」
ロードも地面に伏している。
「すまんすまん。お前も耐性が無いのか」
自分を鑑定してみると。
圧力無効
威圧無効
中威圧無効
強威圧無効
肩に手を触れていたからだろうか。耐性ではなく、無効スキルか。これはビーと行動を伴にしている以上、偽装する必要のないスキルだろう。有難いスキルだけど、取得状況があまり嬉しくない。
ビーは威圧スキルを解除する。
フラフラと立ち上がり始める。すかさず動いたのはロードだった。
「ヒィ!こ、降参だ!」
「降参?最後の言葉か?死んでも、どうたらこうたらか?」
ロードは5人の速攻で武装解除をしている。警察冒険者に駆け寄る。
「あの!決闘の決着って生死不問ですか?」
「あぁ、別に生かしても構わない。財産没収でも構わないけど、こいつら罰金刑でスカンピンだぞ?」
「じゃあ、冒険者ギルド警察権限で冒険者資格の剥奪も可能ですか?」
「ランクも下げられてるから、今のこいつらなら可能だ」
「じゃあそうして下さい」
唖然とする5人。笑う警察冒険者。
「一ちゃん、なかなかエグイ落としどころを見付けるね」
「有象無象は減るだろうな」
ゴブリンを甘く見た罰にしてはこれで十分だろう。
ちょっと厳しいかもしれないが、こちらに死を覚悟させたのだから、その代償として失職する位は当然だろう。




