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39 有象無象

「ビーさん、ビーさん!」

呼び掛けにも応じない。ロードも身体を揺すっているが、起きる気配が無い。

これじゃあ石像だ。ビーの体格からして担いで帰るなんて無理だ。

シエルはレッカー車でも出す気でいるのだろうか。

そう言えば治癒魔術を使えば、酒を分解できたりしないだろうか。

…ダメだ。

ならば、再生魔術ではどうだろう。

「…ん」

お、効いた?

「ビーさん?大丈夫ですか?」

再生魔術を掛け続ける。

「ん~」

「ビーさん!身体戻せますか?」

再生魔術を結構な出力で掛けているのだが、効果が薄い気がする。

「んあ?」

ビーの体勢が戻った。

「寝てたのか?」

「ちょっとだけ寝てました。一気飲みが原因ですかね」

正直、ドワーフ殺しだからだろう。

「最後の日本酒は味が違った気がするが…」

ドワーフ殺しだもの。

「すまんな、ハジメ。お前、解毒魔術が使えたのか。助かった」

解毒魔術?そんなのがあるのか。

「いえ、再生魔術を掛け続けただけです」

「そうか、大分強引な魔術の使い方をしたな。魔力残量は大丈夫か?」

「いえ、総量が多いので大したことありません。それより、解毒魔術ってどういう魔術ですか?」

「あぁ、光魔術の中の1つだ。文字通りどんな毒も分解してくれる」

高位魔術だったか。くぅ~、どうやったら習得できるのかいまだに分からない分野なんだよなぁ。

「高位魔術ってどうやったら習得できるとか、知ってますか?」

「知らん。と突っぱねるのも可哀そうだから教えてやるが、あれは産まれ付きの要素がデカいと聞いた。光も闇も、1,000人に1人。空間魔術に関しては10,000に1人と聞く。更に持って産まれても魔力総量が多いとは限らないことから、それを便利に使える人間は、国で非常に厚遇されると聞くな」

その例がシエルか。肩書もそうだし。あれだけの得体のしれない容量のアイテムボックスだし、魔力総量は偽装されて1にしか見えない。謎が多い。

「あれ?何で起きてんの?」

シエルが会計を済ませたのだろう。驚きつつ戻ってきた。

ハジメちゃん、酔い覚ましの薬でも持ってたの?」

「いえ、再生魔術で無理矢理」

「あはははは、大分強引だね」

酔い覚ましの薬か。研究所生活で回復薬の類一式はカレンから貰ったが、そんなのは無かった。確かにそんな薬があってもいいだろう。シエルは持っていそうだけど、全部おんぶにだっこもよくないだろう。自分で手配できるものは自分で手配しよう。

「シエルさん、やっぱり高位魔術の習得は難しいですか?」

「あー。前もそんな話したね。まぁ普通は出来ないんだけど、ハジメちゃんは賢者ユニークだし、不可能とは言えないんだけど、可能とも言えないんだよねぇ」

その答えは前も聞いた。現状の魔術精度を高めてから挑戦しよう、と言う話で落ち着いていたのだ。でもやはり欲しい。

「やっぱアイテムボックスが使いたい?」

「それもそうですけど、まぁ、第一段階としてはそれを目指したいな、と」

「ぶふっ!アイテムボックスが空間魔術の中で一番難しいんだよ?」

えぇ?マンガや小説なんかでは主人公が初期で持っているステータスな分野じゃないのぉ?

「簡単に言うと、別次元の空間を作って、そこを現実のこの世界の空間に繋いだり閉じたり、理解が及びますか?賢者ユニーク様?」

多分ざっくり言われている。そのざっくりでも半分分かる程度。理解、などと言われると及ばない。

くそぉう。


テラス席を出る。

結局シエルはグラスワイン1杯しか飲んでいない。

自分は2杯飲んだが、酔うほどではなかった。

ビーはまだふら付いている。相当再生魔法を掛けたが、焼け石に水療法だったのか。だってドワーフ殺しだしなぁ。明日は二日酔いだろう。

「おい、俺の大剣出せ。杖にする」

「バカ。街中をお前の大剣抜き身で歩けるか!」

シエルはアイテムボックスから、車輪の付いた歩行補助具を出す。

あれは杖が欲しい人と言うより、介護用品では無いだろうか…。何でそんなものまで持ってるの?

「おおぅ。肘が置けて楽だな」

車輪もゴムタイプではなく、自転車のような空気を入れる類の車輪で大き目だ。どんな使い方をする想定の介護用品なのだろうか。

ドンッ!

横を歩いていたロードが尻もちを付いている。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫である。ぶつかってコケただけなのである」

ニヤ付いた冒険者5人がそこに居た。嫌な予感がする。


「なんだよ、ゴブリンを身綺麗にしてシャーマンの格好させてんのか?だっせぇー」

わざとぶつかられたこと確定。

「しょぼい防具。従魔はゴブリン。テイマーも質が落ちたな」

「可哀そうだろ、頑張ってテイムしたんだろうから」

全世界共通、異世界にもこう言うテンプレートなチンピラがいるのか。勉強になる。

「道の端を隠れて歩いてろっ!ての」

1人の冒険者のブーツがロードの頭にヒットする。ロードが意識的に、首を後ろに振ったのか、攻撃は浅い。先制攻撃を受けたことは確定だ。

「腕輪から攻撃の制御が消えた気がするのである」

ロードは肩幅程度に足を広げる。

「殺すのである」

優しい口調でとんでもないことを言い出すロード。

「ここは結界外だから殺しちゃダメ!1発蹴られただけだから、1発蹴るだけ!胴体!腹部ね!腹部…」

あれ?ロードの脚ってあんなに筋肉逞しかったっけ?あれじゃあゴブリンチャンピオン並みじゃないか?

蹴り飛んだロードは、そのまま飛び蹴りの姿勢で、蹴られた冒険者の腹部に、蹴りを命中…いや、めり込ませる。腹部装甲が歪んでいる。

「ぐぇ」

飛び蹴りを受けた冒険者はくの字に曲がり、吹き飛ぶ。胃の中身をまき散らしている。

それらを浴びないように、すかさずこちらに下がってくるロード。

身のこなしが速い。

「ロードってあんなに強いんですか?」

「はぁ?ハジメちゃん。弱い奴に統率される奴がいると思う?ロードだって最初はゴブリンベビーから進化してるんだよ?段階的に力を付けて、最終的に大軍勢を指揮することが出来る能力を獲得しただけで、単体としては当然チャンピオンより強いし、シャーマンより魔法は使えるよ?」

道理だ。個別進化ではなく、段階進化なのか。

「…!このクソゴブリンが!」

他の冒険者による殴り掛かり。空を切る拳。ロードによる腹部へのジャンピングナックル。また腹部装甲が歪む。今度は吹き飛ばなかった。

「あいつらバカだな。ゴブリン1匹に順番に当たってやがる。最初は良いにしても、連携して一斉攻撃だろう、普通。ゴブリンのスピードも知能も理解してない。ゴブリンベビー以下の知能だな」

ビーの痛烈な批判。

ロードは指示通り、蹴りには腹部への蹴りと、言ったことは守っている。ただ、一撃が強力過ぎる。

しかし最後のはマズい。

冒険者は剣を抜いたのだ。そして突き、薙ぎ払い、振り下ろし。それを余裕で避けるロード。反転攻勢の姿勢を取るロード。

「ダメ!腹部に蹴り!」

「承知である!」

飛び蹴りクリーンヒット。

倒れる冒険者。

下がってきたロードの頭部の蹴り傷に再生魔術を掛ける。

「この程度、かすり傷。痕も残らないのである」

とは言うがこれも監督責任だろう。傷位治してやらないと。

冒険者の方は、自己責任、と言うことで無視。


ピーッ!!!!!!


耳をつんざく様な笛に驚く。

兵士だ。兵士が小銃を手に走ってくる。

時間的に5分程度?誰かが通報でもしたか?対応が速い気もする。

「そこの3人と1匹!両手を上げろ!」

小銃を構えてくるので、仕方なく、両手を上げる。ゴブリンも見様見真似で手を上げてくれる。シエルもビーも既に上げている。

「そこでくたばってる連中に絡まれて、従魔が攻撃を受けたので1撃1対応で、俺らは何もしてない」

「右に同じ」

弁明する人間に銃口が向き、シエルとビーはあっさり回避する。処世術上手い。

「えぇっと…何と説明したらいいのか…、一応、絡まれて、先制攻撃を受けたので…こちらとしても」

細かい説明をしようにも銃を向けられたまま冷静に言葉を発することが出来ない。


「そこにくたばってるのが悪い!」

「そうだ!そうだ!」

「寧ろゴブリンは手加減してたくらいだ!」


他の飲食店のテラス席から声が飛んでくる。

ありがたい!


「何事ですか!!」

うわー、今度は別の一団が来たよ。

「軍の犯罪者対応はまず、冒険者ギルド警察機構の要請の基、行われるものでしょう!」

「そちらの対応が遅いからこちらが先着したまでだ!」

「では何故、銃を向けて尋問する必要があるのですか!」

うわー。対立してるよ。軍と警察の対立って、発展途上国じゃないんだから…。勘弁してよ。


結果。警察側の事情聴取に応じることになり、事情を説明するとその場であっさり解放された。

「いや、ゴブリンロードを従魔にしている方ですからね。信頼度が違いますよ」

そうか。それは良かった。さすがテイマーギルド。ちゃんと冒険者ギルドに情報を上げて周知徹底してくれていたのか。


しかし、逆にその夜の酒場のネタは、ゴブリンロードを従魔にした新人Dランク冒険者に手を出すと、とんでもない報復が待っている。などと言う情報が流れてしまったのは、致し方ないことだ。


ビーが前に言っていた、有象無象、これで少しは減るかなぁ。

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