36 冒険の報告
「ゴブリンを従魔にした」
結界の出口で兵士に説明したが、困惑された。しかしゴブリンロードは兵士に目を合わせようとはせず、堂々と運転席と助手席の間に収まっている。
しかし、ギルドカードのランクを見て納得せざるを得ないのか、通れた。
それが自分のギルドランクでなのか、シエルのギルドランクでなのかは分からない。ゴブリンを従魔に出来るのは凄いのか、凄くないのか、よく分からないが、ロードは別格だろう。
兵士もゴブリンとしか認識していないようだ。
不審がられたものの、兵士は結界の出口へと誘導してくれた。
「さて、昔は、冒険者ギルドにテイマーギルドが併設されてたけど、今はそんな感じじゃなかったなぁ。独立したにしても、どこかなぁ」
テイマーギルド、従魔術士のギルド。冒険者ギルドの下部組織のようだ。
すぐに見つかった。ギルド総合庁舎。冒険者ギルドの向かいにあった。
1階は商業ギルド、2階は生産ギルド、3階は鍛冶ギルド。
確かに看板は出ているが、テイマーギルドは見当たらない。
「裏だな」
総合庁舎の裏手には広い庭が広がっており、様々な魔獣が大人しく、暴れる様子もなく、繋がれている場所があった。平屋建ての建物。ここがテイマーギルドだ。
「おい、幼稚園児の社会見学か?」
「ってかあれ、よく見るとゴブリンじゃないか?」
「ゴブリンなんて従魔契約出来ないだろ」
「いや、スライムの従魔契約より、簡単なのか?」
庭を渡るだけで、様々な声が聞こえてくる。
ゴブリンはさすがに、無い、と言う認識なのだろう。
建物の中に入ると、カウンターの職員が二度見してきた。
「一ちゃん、1人で登録位できるでしょ」
促されるままカウンターに向かう。受付に立つのは老紳士だった。
「従魔登録は初めてですか?」
老紳士はゴブリンだからと言って特に態度を変える様子は無かった。
従魔登録をすると、従魔の行動責任は全て契約者が負うこととなる。従魔が何かを壊せば、それは契約者が壊したことと同義であり、監督責任も追及されること。特定の従魔以外は結界都市から出してはならない。結局、ゴブリンは結界都市からは出せないらしい。まぁ、普通の都市で見掛けたら騒ぎになるだろうし、当然と言えば当然だ。
「従魔契約の登録に際して、職種はどのようになさいますか?」
職種?
「ゴブリンシャーマンですと、やはり支援職と言うのが通例ですが、いかがですか?」
「あ、シャーマンじゃないです。ゴブリンロードです」
なぁ!!!
他の窓口の受付は固まり、珍しそうに入って来ていた他の人たちが絶句した。
『あなたはゴブリンロードですか?』
老紳士は念話に切り替えていた。その念話はこちらも聞こえている。
『ロードに進化したばかりなのである』
『あなたの契約者は後ろの方ではなく、本当にこの方ですか?』
ロードは黙ってうなずき、杖をこちらに向けてくる。
『ロードとなると、統率はどの位いますか?』
『156である』
「156っ?!」
老紳士も思わず、念話ではなく、声に出してしまっている。
その数字に建物内がざわついた。
「ちょっと、その、認識票の在庫の問題が…」
「認識票はどこで作られているんだ?」
シエルが歩み寄ってきた。
「鍛冶ギルドを通して下位の工房に発注を出している、と言う流れです」
「特殊な材料は?」
老紳士はカウンターに腕輪を出す。
「腕輪自体は通常の錬金鉄です。中央には小粒の赤魔石をはめ込んであります」
「今からだと、納期はどれ位になる?」
「数も数ですので、特急で3日は掛かるかと」
シエルは頷くと、腕輪を渡してきた。
「これは一ちゃんがロードに付けてやるのが、最初の仕事だな」
ロードの右手に腕輪を嵌めると、最初はブカブカだったのが、ジャストフィットする。
「こちらの従魔契約認識票により、従魔は冒険者を攻撃できないようになります。しかし、逆に攻撃を受けた際はその制約は解除されます。効果は配下全体に適用されます」
認識票を冒険者に見せることにより、誰かの従魔であることが認識される。それにより攻撃を控えさせる抑止力になる。それでも攻撃してくるなら、先制攻撃を許すことにはなるが、迎撃は可能。それでもゴブリンは全体で認識されているので、1匹攻撃したことで、残りの155が迎撃可能となるのだ。シエルの戦略指導や武器供与などにより強力になった今のゴブリン達なら、そうそうやられないだろう。
「では3日後にまたお越しください」
「あ、それって全員連れてこないとだめですか?」
「いえいえ!、代表の登録だけで、認識票の授与は結界内でお願いします!」
慌てる老紳士。そりゃそうか、156の行列を作る訳にはいかないか。
ちなみに職種は、ゴブリンロード、と言うことで前衛戦闘職とした。
冒険者ギルドに向かう、途中、とは言っても、道を渡るだけだが、腕輪をしたロードは目立った。小さいのに目立った。噂の流れは速いものだ。誰かが触れ回っているのではないかと思うくらいだ。
冒険者ギルドの入口ではなく、報告専用の窓口のある入口に向かった。
「えぇ~っと、受けたクエストの終了報告をしたいんですけど」
報告専用の窓口は正面の受付と違い、女性ではなく、ゴツい前掛けをしたおじさんだ。
「じゃあ発注書とギルドカードだしな」
慌てて発注書とギルドカードを出した。
「なんだ、新人さんかい。んで?納品の品は?外かい?」
「シエルさん、出してもらえます?」
「ほいほい」
シエルはカウンターに次々と納品の品を出してくれる。
「おいおい、新人さんのツレはアイテムボックス持ちかい、スゲーな」
やはりアイテムボックスを使える人間は少ないのだろうか。シエルは納品物をずらりと並べている。
「ランクアップの為の共同作業ってとこかい?」
「そうですね、手伝ってもらいました」
「いや、まぁ、それはそうだけど、クエスト分はこの子1人で達成してるよ」
シエルはレッドボアの頭とグリーンボアの頭を取り出し、比較させる。
「この頭だけを切り落としたのは俺。この鼻が陥没してるのは、後ろのデカいの。んで、この頭蓋を上から刺してるのが、この子の分」
おじさんはじっくりと検分している。討伐納品は牙だが、頭ばかり検分している。
「なるほど、確かに同じ倒し方に見えるな」
「俺らは別のを狩ってたから、それはそれで買取をお願いしたいんだけど」
「まだあんのかよ!」
おじさんの納品の検分は手際が良かった。鑑定眼でも持っているのかと思ったが、目利き(レア)スキル持ちだった。
「報告は完了だ。それにしても結構な依頼をこなしたな。これは昇格になるんじゃないか?これ持って表の受付に行きな」
おじさんはギルドカードと達成完了書と別のカードを渡してきた。
「これは?」
「なんだ、そんなことも知らないのか。通貨カードだ、報酬を入金しといたから、それで買い物するんだよ」
あ、そう言えば、ゴブリンに復讐された冒険者の財布にもあった。
「あの。フィールドで拾ったこれって…」
「あー、また面倒なもの拾ったな。それも表の受付に出しな」
面倒になると思って、拾ったことにしたのに、それでも面倒なことだったのか。ただの拾得物とはいかないのか…。
「一ちゃんは表の受付に行きな。俺らは俺らの分を買い取ってもらうから」
シエルはカウンターではなく、その場に狩った獲物を次々に出している。
「おいおい、どんだけ狩って来たんだよ!生態系とか考えてるか?!」
「何だよ、買取拒否?えぇ、別の結界都市に行けってこと?」
シエルとビーは置いて、受付に行こう。
勿論、ゴブリンロードはこちらに付いてくる。
ちょっと異質な雰囲気の報告窓口をそそくさと逃げ出した。




