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35 ゴブリンの巣穴

特に指示だとか、お願いだとか、命令だとかはしていないのだが、ゴブリンリーダーは時折ゴブリンチャンピオンに、採掘を中止させ、穴の中の岩を運び出させている。ただ掘るだけでなく、排出も行っているのだ。

結構な採掘量である。

自分でも採掘できるようにはなったが、チャンピオンの採掘量が多いので、止めた。岩山を正方形に固める土魔法を使う。そこから魔結晶を適度な純度で、適度な大きさにして抽出する。そしてレンガに形状変化させる。この繰り返しである。

チャンピオンが1時間ほど掘り進めた結果。4つの穴は合流してしまった。

「まっすぐ掘っていたつもりなのだー」

「どうしてこうなったか分からないのだー」

長い時間掘り進めたのだ。多少の誤差はあるだろう。しかし、シエルの意見は違った。

「やっぱりな」

どうやらゴブリンは単独行動するようだが、チャンピオン程に進化すると連携を意識するらしい。その為、適度な間隔を作って穴を掘り進めても、無意識化で集まる習性があるようだ。

それがまさにこの結果の様だ。

シエルはチャンピオンたちの排出作業を終えるのを待って、穴へと入って行った。

それに付いて行くと、シエルは最奥。合流した地点で、岩壁を触っている。

「ここをまっすぐチャンピオン1匹で掘ってみろ。残りは適度な横穴を沢山掘ってくれ」


結構な魔結晶が集まった気がする。

重量の換算はどうしたものかと悩んでいると、シエルがアイテムボックスから大きな籠と何かを取り出した。

「これは…もしかして重量計ですか?」

「そうだよ。純度の問題もあるけど、多めに持って帰ることになるだろうから、一応の目安ね」

シエルのアイテムボックスには何でも入っているのか?いや、防具の時、無い、と言う発言もあったから、持っていない物もあるのだろうが、逆に何が無いのか気になる。

籠に魔結晶を適量入れ、重量計に載せる。

1籠25キロと言ったところだろうか。

シエルに同じ籠の追加を願い出ると、10個ほど渡された。

計算上は6個でいいのだが、なぜかシエルは数に関しては雑な気がする。

その間もチャンピオンが岩を運んでくるので、魔結晶作りの工程を適宜行う。

これで念のための7個の籠がいっぱいになった。

「た、大変なのだー」

最奥で穴の採掘を進めていたチャンピオンがつるはしも持たずに出て来た。

「何があったのだー」

「村の洞穴と繋がったのだー!」

「どえらいことなのだー」

シエルは頷いている。

チャンピオンが出て来た穴とは別の穴から1匹のゴブリンが出て来た。

「なんと!貫通したのである!」

ゴブリンロードだ。

ロードが駆け寄ってくる。

「説明して欲しいのである!何故貫通したのであるか!」

ロードは怒っている様には見えない。むしろ喜んでいるように見える。

何と説明したものか…あれ?シエルがいない。

「これは…その、ですね?みんなが雨の日も風の日も、凌げる洞穴に住んだ方がいいかなぁ~、と思って?」

それ程大した丘では無かったのだろう。だから貫通できた、とは言えない。

他のゴブリン達も続々と穴から出てくる。

「全員が洞穴で暮らせるのである!」

いやいや、嬉しそうにしているが、つるはし持ってたなら何故拡張工事をしようと考えなかったのか。

「キングの家族だけでは今の洞穴では狭かったのだー」

あー、一定の階級以上は洞穴には住めなかった様だ。しかし、裏の丘から掘り進んだ結果、こうなったのだ。

シエルが横穴を作る指示をしたのは居住スペースや警戒スペースとしての活用を考えてのことだったのだろう。

ゴブリン学者かっ?!

「でも入口が増えると守る場所も増えると言うことになるのである」

ロードがまともな考えに直面した。

「じゃあ、あのレンガで防壁を築いたら良いんじゃないですか?木の策よりは頑丈に作れるんと思うんですけど」


ゴブリン公共事業。

ゴブリン達は大量のレンガを規則正しく積み上げて4つの穴を覆う2重壁を建設した。

セメントなどは使っていないが、試しに蹴ってみても、ビクともしない壁が出来上がっている。

階段もあり、壁の上ではゴブリンイエーガーが辺りを見渡している。木の衝立も置かれ、まるで

防衛砦だ。

途中からはレンガ持って穴に入って行くゴブリン達も居た。反対側の、昨日居た場所にも拠点を構築する様だ。

確認の為ゴブリンの掘った穴に入ってみる。ゴブリンにとっては十分な高さだが、人間には低すぎる。そして何も見えない。ゴブリンは暗闇でも生活できるのか、手を引いて案内してくれる。

「多分ここが真ん中なので広くしようと思うのだー」

ゴブリンの集会所か。

賛成、拒否は考えず、一番近い出口を案内してもらう。空気が淀んでいる。悪臭と言ってもいい。ゴブリンの衛生観念は人間のそれとは別次元だ。


やっとのことで出られたゴブリンの新居から解放される。腰が痛い、でも空気が美味い。

ゴブリンリーダーはイエーガーやチャンピオンやシャーマンを交えて警戒監視計画を説明している。

昨日のシエルの戦術が既に浸透している…。

4つ穴防壁の前に何故か小川が出来ている。シエルが小川沿いに歩いている。

「シエルさん、どこ行ってたんですか?!」

「ちょっと上流の川探しにね。用水路を引いてみた」

見渡してみると、レンガで敷き詰められ、レンガで護岸を守られた…用水路と言うには立派過ぎる気が…。

それにしても魔法は便利だ。今まで戦闘のことしか考えていなかったが、土魔法の使える人間は土木業に向いているのでは無いだろうか。

他にも色々と魔法は生活に活用されているのだろう。

「ちなみにこの用水路はどこまで続いてるんですか?」

「もうちょっと先に大穴掘って池造った。溢れたら大変だから元の川に戻るように、適当に用水路つないだよ」

シエルも公共事業を行っていた。

ゴブリンの生活改善は良いことかもしれないが、冒険者ギルドに敢えて報告しない項目が増えた。


シエルは牽引車と7つの魔結晶籠をアイテムボックスに収納し、ロードを呼び寄せる。

「ちょっとお前、外出するから身綺麗にしろ」

「外出であるか?」

ロードはシエルに連れられ、用水路に入って行く。シエルはロードが流されないように網を仕込み、ロードはシエルの水魔法による水流で洗浄されていく。

ロードは、と言うより、ゴブリンは水浴びをする習慣が無いからか、網より下流の水は相当茶色い。

そして気付く、ゴブリンは茶色い肌ではなく。薄緑の肌だった。髪も黒ではなく、白だった。

「ロードの威厳が増したのだー」

「これからは全員威厳を持つためにも水浴びをするのだー」

「水浴び奨励なのである」

ゴブリン達の水浴び行列が出来ている。ゴブリンケンプファー程になると流されないのだが、ゴブリンは完全に流されてしまう。網は必須の様だ。

シエルはアイテムボックスから、女性用のショールの様なものを取り出し、ロードに被せる。

鑑定上は、魔導士のショール。銀色のショールは人間の女性用だが、ゴブリンの体格からすれば、もはやマントだ。そして杖も渡される。鑑定上は、回復魔石の杖だ。

「じゃあ、ちょっくらクエスト報告に行きますか」

「え?連れて行くんですか?」

「テイマーギルドに登録もしないといけないしね、登録しないと他の冒険者に狙われちゃうし、抑止力になるんだよ」

ロードが杖を掲げる。

「我のいない間はキングに全権を任せるのである。狩りは控え、防衛を主とするのである!」

「ははぁー」


ビーは無収穫で帰ってきたが、そのまま帰る旨を伝え、乗車。ロードを真ん中にして一行はゴブリン村を出発!

「シエルさん、クエスト発注書、貸してください」

シエルからクエスト発注書を受け取り、念入りに精査する。

必要な報告事項を確認し、それ以外は一切報告しない。これが重要だ。

何度も確認した。

これでもかと言う程、現状と報告事項を確認した。


余計なことは報告しない。

余計なことは報告しない。

余計なことは報告しない。

余計なことは報告しない。

余計なことは報告しない。

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