表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/66

32 魔物

全てを諦めて放心状態の時に、ゴブリン村の外から声が聞こえてきた。

「た、助けてほしいのだー」

走ってくるゴブリンは傷を負っていた。片腕を抑えながら必死な様相だ。

「隣の村の奴なのだー」

傷付いたゴブリンが村の入口付近で倒れた。

ゴブリン村の住人は総出で、傷付いたゴブリンの元へと駆け寄る。

「何があったか教えるのだー」

「お前の村の近くはオーガの縄張りに近かったはずなのだー」

「オーガから逃げられたのは幸運なのだー」

半身を起こしたゴブリンは泣いていた。魔物でも泣く、と言うことがあるのか。

「人間に襲われたのだー」

その言葉に反応した、シエルがいきなり割って入ってくる。

「お前の村はゴブリン何匹いる?」

「30位なのだー」

「襲ってきたのは何人だ?」

「10なのだー」

30匹の村に10人の冒険者?ゴブリンの戦闘力がイマイチ分からないが、どうなんだろう。

「シエルさん、10人って多いんですか?」

「少な過ぎる」

シエルは立ち上がり、アイテムボックスから日本刀を取り出す。

「隣の村まで案内できる奴は出てこい、一番足の速い奴だ」

シエルの顔が少しニヤけているように見えた。

「おらが最速で案内できるのだー」

出て来たのは、クロスボウを装備したゴブリンイエーガーだった。

「よし、ハジメちゃん、走るぞ。他は来たい奴だけ適当に付いてこい!」

イエーガーが走り、シエルが走り出す。慌てて走り出すが、イエーガーは予想を遥かに超えて速い。シエルは問題なく、付いて走っている。でもこちらは防具の重さもあるし、満足に走れない。

とりあえずは見失うことなく、遅れて走る。10分程度だろうか。全速力だった。疲れる。

イエーガーは木の上で隠れて様子見しており、木の下ではシエルが隠れている。

息を切らせていると、シエルに口を閉じるように手合図され、近寄るように手招きされた。

ハジメちゃん、ランタンを持った連中が居る。何してるか見えるかい?」

…装備からして冒険者?何か地面にしゃがみ込んで…探し物?短剣やナイフを使って掘り返している?

「っ?!」

声を出しそうになったところを、シエルに口を塞がれた。

冒険者達はゴブリンの死体を漁っている。明らかに死んでいるであろう、ゴブリンの死体に剣を突き立てたり、抉ったりしている。

数は確かに10人だ。杖を持った奴は魔法が使えるのだろうか、2人いる。槍持ち、両手剣持ち、弓持ち、片手剣持ちが数人、大盾を担いでいるのもいる。

武器は様々だが、戦闘職ばかりで、獣人もいるように見える。

ハジメちゃんは、ここで待機だ。絶対に姿を見せるな。イエーガー、合図するまで後続を待機させてろ」

シエルはそう言って木の陰から出て行った。日本刀だけでなく、いつの間にかアダマンタイトのフルプレートメイルに身を包んでいた。


「よう、お前ら、モグリの魔石ハンターか?」

シエルが歩きながら集団に向かって声を掛けている。

10人は一瞬、臨戦態勢を取り、ランタンとライトをシエルに向けるが、シエルが1人なのを見てか、武器を下げた。

「まぁ、かく言う俺もモグリな訳だが」

「夜中に単騎とは、あんたCランクか?」

「いや、Bランクだ」

何のための嘘だろうか。シエルはSのはずだ。

「俺も魔石集めで、ここらのオーガの縄張りをうろついててな。ハグレを狙ってたんだ」

「そうか、スゲーな。成果はどんな感じだ?」

「昼からで5、6個だな。割と運が良い」

夕方、林でオーガを跳ね飛ばした感じからは強そうには思えなかったが、あれは別で、真正面からなら中々手ごわい相手なのだろうか。

「こっちは全然だ、羨ましいぜ。なぁ、俺らと組まないか?俺らじゃオーガは厳しい。こっちからは牽制と援護が出来る。分け前は俺らは3で、あんたが7でどうだ」

どうやらシエルに共闘を申し込んでいるようだ。シエルは何やら露骨に検討しています感が見て取れる。

「ところでお前らの中に、テイマーはいないのか?」

「いないぜ」

テイマーって何だ?

「魔石でゴブリン狙うなら、最低でもチャンピオンだろう。テイマーに決闘を煽ってもらうのが、楽だろう」

魔物と決闘?冒険者同士ならともかく、魔物と決闘するような形式があるのだろうか。

「最近のテイマーはノリが悪いのが多くてな」

「じゃあ、索敵はどうしてるんだ?探知スキル持ちが居れば、魔石持ちの魔物、魔獣の区別位付くだろう」

ん?何だか説明がましい。もしかしてシエルはこの会話をわざと聞かせてくれているのか?誘導尋問?

「いたら、モグリの魔石ハンターなんて出来ねーよ」

「確かに。それにしてもやっちまったな。ゴブリンの村を潰したのは」

「まぁ、そこはお互いモグリ同士ってことで、よろしく頼むよ~」

「最近の事情には詳しくは無いんだが、ハグレもんは狩っても良くて、村潰しは無しだよな?」

「あんた、おカタイ系?」

空気が変わった。10人が武器を手にする力が増した気がする。目つきも変わった。

シエルは頭防具ヘルムのガードを開ける音がした。

「いやいや、俺は柔軟なタイプだよ」

シエルは日本刀を左手にしたまま、右手を上げる。交戦の意思は無いと言う主張だろうか。

「でも、お前ら…挟まれてるよ?」

右手を回した瞬間、頭上のイエーガーが矢を放つ音が聞こえた。

矢は大盾を持った冒険者の肩に刺さった。

いつの間にか後ろに居たゴブリン達が一斉に飛び出して行く。

反対の林からも飛び出している。

挟撃だ。

飛び出したケンプファーが鉄の短剣を大振りに落とす。

しかし、冒険者は冷静にそれを盾で受け止めている。

ケンプファーの後ろから3匹のゴブリンが冒険者の後ろに回り込み、装甲の関節部にダガーを突き刺す。素早い連携だ。あの冒険者の失態は、ケンプファーの攻撃を受け止めたことだ。流すべきだった。動けなくなった冒険者はチャンピオンによって首を切断される。

片手剣持ちの冒険者はこの要領で各個撃破されている。

少し離れた場所に位置していた杖持ちの冒険者、おそらく魔法使いは、詠唱を始めている。

しかし、別の角度からであろうイエーガーの矢によって、詠唱中断となってしまう。

そして森の中からファイアーボールが複数放たれ、魔法使いは火だるまになって地面を転がっている。トドメとばかりに矢が放たれている。

槍持ちは、接近をさせまいとしている。薙ぎ払いを放ちつつも、ゴブリンの動きが早く、囲まれつつあった。槍持ちの足にイエーガーの矢が刺さり、片膝を付いた瞬間だった。ゴブリン一斉の飛び掛かりで血しぶきが漏れ出てくる。

残った両手剣持ちはしぶとく戦闘を繰り広げているが、1匹も倒せていない。各個撃破された仲間の死に様に恐怖してか、叫んでいる。

手の空いたゴブリンは残りを囲む。イエーガーも位置を変え、援護射撃体勢を整える。シャーマンは詠唱に入っている。

燃え盛る冒険者に容赦ない矢の雨。チャンピオンによる強力な一撃。

10人の冒険者は死んだ。


ただ、人が死ぬのを見ていることしか出来なかった。シエルに言われたからではない。本当に動けなかった。

ゴブリンは決して弱くない。体力は低いかもしれないが、素早く、しぶとい。

頭上の木の枝から降りてきたイエーガーが近付いてくる。


怖い。


「復讐完了なのだー」


「この村の埋葬準備をするのだー」


「人間の装備を持ち帰るのだー」


ゴブリン語が喋れるから、意思の疎通が出来たから、ただそれだけだ。

これが、魔物の姿なのだ。


ハジメちゃん、分かった?これが魔物だよ」

へたり込んでいるとシエルから声が掛かった。

「冒険者には冒険者のルール、魔物や魔獣にはお互いのルール、冒険者と魔物の生存調整。まぁ、色々、あるってことだ」


「沢山肉をくれたお礼なのだー」

「使えないから貰って欲しいのだー」

ゴブリンが何かを渡してきた。財布だ。

折り畳み財布の中身は3枚だけだった。ギルドカード、戦闘要員派遣会社の身分証、あとはクレジットカード?それらが10個。


「い、いつも人間を襲うの?」

財布を渡してきたゴブリンに聞いてみる。

「え?別に人間の肉は美味くないから、襲わないのだー」

「でも獲物を運んでいる人間が居たら、人数によっては襲うかもなのだー」


ハジメちゃん。これが非力だけど知能を持った、魔物本来の姿だよ」

シエルに念押しの様に肩を叩かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ