3 状況を知る
現状確認をしたかった。険悪ムードを解除して欲しかった。そんな気持ちで発した言葉。
「ここは私の研究所唯一の病室みたいな部屋よ」
「どれ位寝てたんでしょうか」
「いつから意識が無いのか分からないけど、まぁ5時間かしら」
「午前中に運び込んだからね~」
男と白衣の女の態勢は変わらず、額を突き合わせている。険悪ムードは解除されていない。
「立てそうなら立っても良いわよ。検査したけど異常は無かったわ」
ベッドから起き上がってみると、前開きの患者着みたいな服に着替えさせられていたみたいだ。
ベッドから足を下ろしてみて、立ってみた。特にふら付くことも無かった。
「あの~、状況を」
「信号で停まってたらボンネットに加藤さんが降ってきた。救急病院に運ぼうかと思ったけど、状況が状況だからそのまま、ここに来たんだよ」
え?ボンネットに落ちた?山奥の橋から飛び降りたはずなんだけど。
「状況?」
「ビルから飛び降りてきたにしては、ボンネットそんなに凹まなかったしね。精々数メートル。あ~保険出るのかなぁ~」
「車の1台で煩いわねぇ」
「納車されて1週間だぞ」
「救急病院行きなさいよ。ドライブレコーダー警察に出しなさいよ」
まだ額は突き合わせたままだ。
「あの~、先生?そちらの方ももう少し状況を…」
「あなたに先生って呼ばれる身分じゃないんだけど」
「混乱してる加藤さんに失礼だろうが、それでも教授かよ」
「はぁ~」
やっと額の突き合わせが解除された。
え?教授?この歳で?外見上は若い、どう見ても20代半ば。こちらを向き、白衣の女は溜め息交じりで近付いてくる。
首から提げたパスには名前「松本K彩」と書かれている。
純粋な日本人には見えないが、ミドルネームがあるところを見ると、外国の血でも入っているのだろうか。
「加藤さん、身体に問題は無いから帰って下さって結構ですよ」
え?帰って良いって。
「いやでもさ、加藤さんの魔力変な感じがするんだけど」
「はぁ?普通の人間にしては多い程度で、別に変じゃないわよ」
魔力?
「ボンネットに落ちてきた時も特に魔力残滓を感じなかったし、転送魔術の類も確認できなかった」
「なによそれ、先に言いなさいよ」
「ほれ、この保険証って言うの、見てみ」
「見たこと無いわね。一応日本語だけど」
「改めて加藤さん、どこ出身?」
「ニホンデス…」
「日本の?」
「トウキョウデス…」
訳が分からない。言葉は通じるけど、保険証を見たことが無い人。
それに魔力って、聞き違いか?
「もしかして加藤さん、転移者?他の世界、並行世界とか」
へ?