20 きほん、の、ん
剣術5から剣術9は意外に早かった気がする。基本なのだから、習得も早いのだろう。
でも、その最後の1はなかなか難しい。
数日間、巻き藁を斬空で斬っている。とりあえず、斬空は使いこなせている気がする。
練習の傍ら、シエルを鑑定してみる。
剣聖10
多分これも偽装だ。本来のシエルの実力はもっと高いだろう。しかし、この動きを鑑定し、見極めることも習得の一部になるだろう。
「巻き藁も少なくなってきたし、掃除するのも飽きたな」
巻き藁の後始末は全てをシエルに任せていた。魔法を使って搔き集め、ごみ箱に移している。大変そうではないが、面倒ではありそうだ。
シエルは木剣を手にし、近付いて来た。
「今後は俺で」
シエルの魔力なら魔力を纏わせた木剣でも、真剣には斬られないと言う自信があるのだろう。
そこは心配しないが、シエルは剣術9の自分を底上げしてくれるだろうか。
「よろしくお願いします」
「別に斬空は使っても良いけど、今は剣術をどうにかすることを考えてね~」
言われてみればそうだ。剣術に魔力を合わせては実戦は良いかもしれないが、現状の課題はこなせない。
シエルはこちらの打ち込みを避けたりせず、左右に捌く。多彩に斬ることは出来るようになっている。コンビネーション的なことも出来る。
しかし、全て捌かれる。ここまで捌かれるとは悔しい。力押しの問題ではないのは分かっているが、刃を合わせる競り合いも出来ない。
「良い感じだよ~、良いコンビネーションだ」
そう簡単に言いながら、やはり全て捌かれる。
横薙ぎの一撃を予想以上に振りぬいてしまう。シエルに軽く捌かれ、咄嗟に回転から右の蹴りを入れる。
「おっ?!狙った?咄嗟?」
「咄嗟です」
良い評価をしてくれたのか?
「剣術ってのは、足捌きが重要。足癖の悪さも強さの内。足癖の悪さを矯正し、正し強くするには、体術が重要だ。一ちゃん、自分を鑑定してみな」
剣術10
体術1
おぉー。剣術が10になった!
それに体術1が追加されていた。剣術9から剣術10になるには、体術の要素が大きかった、と言うところだろうか。
「色々と分かったでしょ、剣聖への挑戦権は獲得したけど、それは一旦保留ね。今後は体術でーす」
シエルを鑑定する。
聖体術10
剣聖術10が消えている。この人は随分ややこしい偽装をしている。
「それにこれは、全物理攻撃適性のある一ちゃんに重要なんだよ。斬、突、打。本来、武器になんだけど、一番習得が早いのが、体術なんだよ」
斬は、手刀。
突は、突手。
打は、拳や蹴。
確かに体術には全ての要素がある。
「ところでさぁ、一ちゃん、さぁ、素朴な疑問なんだけど」
「何ですか?」
「いつまでその格好なの?」
格好?服装、あぁ、患者着のことを言っているのか。
「研究所では教授の親戚の難病患者ってことになってまして、一応研究所内ではこの格好です」
「いやぁ、体術にその格好ってのも…。蹴りもある訳だし、常にヒラヒラするのもどうかと思うんだよね~。ん~」
シエルがアイテムボックスに上半身を突っ込み、何やらジタバタしている。探し物か?
それにしても羨ましい。シエルの出す課題を進めて行けば、空間魔術も使えるようになりたいものだ。
「これと、これと、これとか、どう!」
シエルはアイテムボックスからジーンズと靴とTシャツを取り出して寄こしてくる。
「最強。なんです、このTシャツ」
ダサい。外国人観光客向けのお店にでも売っていたのか。
「それを目指す一ちゃんにはピッタリだ!」
「却下で」
シエルに付き返す。これでは着る者の品性が疑われる。
「なんで?!」
「他に無いですか?」
再びシエルはアイテムボックスに上半身を突っ込む。
「じゃあこれ」
必勝。受験生かよ。
「却下で」
「じゃあこれ」
寿司。ネタって意味で出してるのか?
「言葉が書いてあるんじゃなくて、柄物とか無いんですか?」
「そんな普通のでいいの?」
「いや、普通のが良いんですよ!」
改めてシエルはアイテムボックスに上半身を突っ込む。
「こんなもんでどうよ」
無地やボーダーやら結構な数を出してくれる。これで良いのだ。これが良いのだ。
とりあえず着替える。でも靴が大きい気がする。
「シエルさん、足のサイズが…これは30センチ位ありますよ」
「それは冒険者向けの魔法装備だから履いたら勝手に合わさるんだよ」
そんな便利な物まであるのか!とりあえず履いてみる。
やはりブカブカだ。でもスルスルと縮み、丁度良い所で止まり、ジャストフィットする。
「これってこのジーンズも何ですか?」
「いや、そのジーンズは普通の既製品だよ。インナーは基本的に既製品で、防具とかを魔法装備に頼るんだよ」
そう言うものなのか。それにしてもこのジーンズ伸縮性があって動きやすい。前の世界にも似たようなものはあったが、それよりも丈夫な気がする。
「体術は防具を付けた状態でするんですか?」
「まぁ、追々はそうした方が良いけど、今は無しで良いよ」
それにしても動きやすい。このジーンズ最高。
着替えも済ませた、いよいよ体術だ。
しかし、シエルはまたアイテムボックスに上半身を突っ込んでいる。そしてなにやら防具?を出している。
よく見ると、格闘技のプロテクターだ。
「これ付けて」
え?シエルが付けるのではなく、こっち?
「んで、これ持って」
両手持ちのクッション?蹴りを受けるやつか?
「じゃあいくよ!」
今度はこっちが防御か?!なんか難易度上がった?!慌てて両手でガードする。
「蹴り、ね」
シエルは軽く飛び、ステップを刻み、右蹴りを放ってくる。
「うわっ!?」
飛ばされた。壁まで飛ばされた。2、3歩横によろける程度かと思ったが、これはクッションが無ければ腕を折られるレベルだ。あれ?立ってもいられなくなった。
「ごめん、ごめん、衝撃が脳までいったかな」
「こ、このレベルでするんなら、衝撃吸収用のロープとかで囲ってもらえません?リングとか」
「今日明日では準備できないなぁ。俺が加減するしかないか」
良かった。もし、アイテムボックスから引っ張り出してこられるとヤバかった。
「でも蹴りの受け方は悪くなかったよ。次は胴への突き、いくよ」
「待って待って!いきなり突きは無理ですって!どうやって受けるんですか?!」
「はぁ?突きは、こうだよ!こう!」
何だこのアバウトな指導は。今までと全然違う!?
「今回もシエルさんが防御側で教えてくれません?シエルさんの防御の仕方を見て教わりますので」
我ながら良い言い訳だ。シエルもフムフムと頷いてくれている。
これで良かったのだ。
安全は確保されたのだ。




