17 鍛錬
教授は不機嫌だった。
カレンにシエルを呼んでもらったのだが、色々と問題が重なったようだ。
確か、最後の記憶では新生児の頃に新しい布を手にしてやってきた…のはずだ。あの時は額を突き合わせて口論していたはずだ。
それ以降は、どうやら教授の立ち会いなく、研究所には入れないように警備に伝達されていたらしい。シエルは研究所の警備と揉めているのが見えていたし。
「で?あんたは何しに来たのよ!」
「俺は一ちゃんに会いたいって言われたからで、彩に用はない!」
結局、教授は昼寝の機会を逃したのだから、不機嫌なのだ。エントランスで教授はシエルを通さないようにし、シエルは教授の隙を伺っている。
「一ちゃんは今、色々勉強している最中よ、あんたが来ると邪魔だわ!」
「どうせ、カレンに押し付けてるんだろ。きっと行き詰まったか、今後のことに付いて悩みが出来たに違いない!どうせ、お前が研究に没頭しているかだろう!」
騒ぎを聞きつけた職員や研究員が集まってくるが、手を出せないでいる。しかし皆、手をかざし、魔力障壁を展開し、施設を守ろうとしている。教授とシエルの居るエントランスは高密度の魔力で満たされている。これは可燃性ガスみたいなものだ、いつ爆発してもおかしくない。
「シ、シエルさん!」
思い切って声を掛けてみる。
「…?患者?お会い…って、まさか一ちゃん?!」
「ですです!」
「何で大人になってんの?!…彩ぁぁぁぁぁ!!!!」
エントランスが吹き飛んだ。
しかし、大勢の手による魔力障壁が守ってくれた。施設の損害も皆無だ。しかし、これ以上の被害を恐れた職員や研究員が我々関係者を魔力試験場に押し込んだ。押し込まれた。ここなら被害が最小限に抑えられるのだろう。
結果、教授、シエル、カレンの3人が集まっている。
「んで、一応は、一ちゃんの了承も得て、成長促進した、かなり強引な!」
「私の研究成果で考えれば、そんなに強引じゃないわよ!」
「とりあえず、一さんのデータです。見ますか?」
カレンの差し出したパネルをシエルが見ている。どんどん表情は険しくなっていく。
「なんなんだ、この魔力。変なスキル持ってるし、それに何段階か飛ばしてるな」
「なるべく順序立てて習得、獲得しようとはしているんですけど」
一応は事実だ。魔力支配と言うすっ飛ばしてしまってどうしようもないところはあるが、鑑定偽装もあるが、相談事項でもある。
「とりあえず、どの程度の上級魔法で立ち回れるか見るとしよう、今回も防御しかしないから」
そうなるか。やはりそうなるよね。剣道を試された時と一緒だ。
シエルと距離を取る。教授とカレンは壁に寄り、教授が魔力障壁を展開させている。あれも今度教えてもらおう。
「一ちゃん、属性は何でもいいから、とりあえず、連射でもして困らせて下さいな」
とりあえず、シエルに手を向け、ファイヤーボールを3発程撃ち込んでみる。シエルは魔力障壁を展開させていない。当たってくれるのだろうか、防御するまでもないと判断されたか?
しかし、よく見るとシエルの身体付近で搔き消されている。魔力を放出して、壁にでもしているのか?
ちょっとムキになっても良いだろうか。威力と変化球、土を火で覆い偽装して3発程、再度狙う。
「おぉ?面白いことするねぇ」
シエルは片手で3個の石を受け止めて見せた。やはりシエルに小手先の攻撃は通じないか。全力で魔力を振り絞り、純粋なファイヤーボールと偽装ボールをとにかく連射する。
数分後。
「え?もしかして生き埋め作戦だった?!」
シエルの周りには土が積みあがっている。全て受け取っては捨てられた。それに生き埋めなら最初からサンドボールを連射してるっての。
「ボールばっかりだなぁ。他のレパートリーも混ぜないと、戦闘は成立しないよー」
「まさに、伸び悩みの原因がそこでして、四代元素の属性止まりで、魔術の訓練はこれからなんですよ」
「いやいや、魔法だけでも色々あるでしょ」
?
「え?」
?
「もしかしてだけど、ボールしか使えないとか言わないよね?」
ボール以外もあるのか!
「カレンか?!カレンなのか?!?!カレンしかいないな?!魔法教えたのお前だろう!」
シエルは土を掻き分けながらカレンに詰め寄る。
「はい!カレンがお教えしました!」
カレンは特に何も気にしている様子は無い。カレンは呼ばれて嬉しいのか、シエルに駆け寄る。
「私は実戦経験は無いですが、基本属性だけなら、ってアダダダ!!」
シエルがカレンにアイアンクローで頭蓋を持ち上げている?!
「一ちゃん、魔法も魔術にも言えることなんだけど。形態変化ってのがあってね?いや、その辺、意識しなかった?」
「形態変化ですか。すみません、ボールのイメージが強くて…形態変化ってどうすれば…」
「矢にしてみたり、槍にしてみたり、雨みたくしたり、色々イメージできると思うんだけど」
魔法を使うことに集中し過ぎて、威力だけで、他のイメージには考えが至らなかった。
「じゃあ、壁をイメージすれば防御も出来るってことですか?それが魔力障壁ですか?」
「カァァァレェェェン!!!」
シエルはカレンを更に高く締め上げる。
「アダダダダ!!!頭部がっ!頭部が損傷しますぅぅ!!!」
シエルは掴んだカレンを壁に向かって投げ飛ばす。
「一ちゃん。魔法の基本は、防御からなんだよ。小学校で最初に習うのは魔法ではなく魔力障壁なんだよ」
そうなのか…。そりゃそうか、属性によって得手不得手があるのだから、魔法の壁では相性の問題もあるか。まだまだ勉強が足りないようだ。




