12 大人の身体
キューブ職人の称号を貰ってから、何度も水槽を移ったが。教授にこれが最後、と言われ始めて別の部屋の大きな水槽に移った。今度は脳波計のヘルメットと全身に電極パッチとケーブルに繋がれた。電極パッチは各筋肉を電気的に刺激し、筋力を向上させるものらしい。
キューブは錬成しなくなった。その代わり、水槽の魔力を通して研究所のデータベースに繋がることになり、多くを学ぶことになった。特に言語を中心に学ぶことにした。この研究所はさすが国立大学だ、使われていない古代言語も学べる。
以前と変わったこともある。最初こそシエルもいた。基本教授しか出入りしていなかったが、助手と思われる女が出入りするようになったことだ。水槽の中では裸なので、あまり見られて嬉しくない部分もある。
念話は基本教授としか出来ないようなので、意思の疎通は出来ない。たまに水槽の下部にある数値を確認しに近付いて来る、手を振られる。なので手を挙げて反応してみる。笑みは来ても、それは返さない。この繰り返しだ。
教授も美人だが、この助手らしき女も別の系統で美人だ。昔の自分なら絶対にコミュニケーションの対象外だ。
最初の頃こそ、今何ヵ月、この水槽の成長速度は、などと教授に聞いていたが、最近は聞かなくなっていた。昼夜関係なく照明は点いているし、この部屋にもカレンダーは無いし、身体も水槽内で動かせる範囲が限られているし、時間感覚が無くなったのだ。
「身長と体重は?」
「体脂肪率は?」
「臓器の状態は?」
教授が質問し、助手が回答しているようだ。
「じゃあ、一ちゃん、出てみましょうか」
初めて名前で呼ばれた気がする。
水槽から水が抜けていく。歩いて水槽を移っていたので、立っていられない訳ではない。水槽にはいつも上から飛び込んでいた。水槽から水が抜け切ると、水槽が頭まで持ち上がった。
1歩踏み出す。水槽の高さを考えずに1歩踏み出したので、転んでしまう。痛い、痛覚は久し振りだ。特に打撲を負った訳では無いが、教授が手を差し出してくれる。
「いきなり転ぶとは」
助手の女はモップを手にしている。身体からたれる水を拭いてくれている。
「シャワーブースへ案内するわ。着替えも用意しておくわね」
案内された隣の部屋は、シャワー室には思えなかった。シャワーヘッドが無い。壁のスイッチを押してみると、いきなりガラスに囲まれ、全方位から強烈な湯を浴びることになった。シャワーと言うか、洗浄されている気分だ。溺れるかと思った。もう一度ボタンを押すと、湯が止まるかと思ったが、泡が噴出してきた。やはり洗浄だ。目に入った、くそぅ!これは完全に痛い。慌ててもう一度ボタンを押すとまた湯が出てきた。次押せば、きっと止まるはず、止まってくれ。
ガラスの囲いは無くなり、フックに掛かったタオルを手にする。
教授が用意してくれた服は、転移直後に来ていた患者着だった。シャワーブースから出ると教授と助手が居た。
「悪いけど、しばらくはその格好で生活してもらうわ。私も最近研究放置して一ちゃんの研究に集中してたからね。親戚の難病患者を預かってた、ってことになってるの」
親戚の難病患者か。この研究所は再生医療ってことだけど、どんな難病だったことになっているのだろうか、ちょっと気になるが考えるのは止めておこう。
「私は教授の助手、カレンと言います。これからは主に私が研究所内の移動の付き添いをしますね、よろしくお願いします」
カレンか。確かに首提げのパスにもカレンとだけ書かれている。
付き添いか、確かに普通の病院ならともかく、研究所で患者が普通に1人で歩いていたら目に付くだろうし、問題になるだろう。
全身を見てみる。腕の長さ、足の長さ、腹の脂肪具合、触って確かめる。
「身長175センチ、体重65キロ、体脂肪率12%、状態異常認められず」
さっき教授がカレンに聞いていたであろう情報を、カレンは再度教えてくれる。
うん。若いし、大人の身体だ。




