第五部 感想
翌朝。いつも通りの時間にフウワに叩き起こされ、食卓に向かうと、昨日いなかったはずのムルルがしれっと椅子に座って食パンを食べていた。
「おはよう。ムルル、もう来たのか?ずいぶんと早起きだな」
「おはようございます。ライトさんが遅いだけで、僕は普通です。冷めないうちに、パンを食べた方がいいかと」
「あ、ありがとう」
俺は、食パンを食べながら考え事をした。ムルルが急に敬語になったのは、俺が昨日前に出たからだろうか。よくわからないけれど。それより、ムルルがブラックスのボスの弟だという事実のほうが大きかった。また、慣れて来た時にトルキについて聞いてみよう。さすがに今聞くのはよくないだろう。コウが、珍しくニコニコしながらパンを運んでいた。
「どうしたんだ?コウ。ずいぶんご機嫌じゃないか」
「ああいう。このムルルとか言うの、うまそうに食ってくれるから、ちょっと嬉しかっただけだ。なにせ、自分で初めて焼いてみたパンだからな」
「マジで?買って来たやつかと思った」
「それは褒め言葉なのか?」
そんな会話はさておき、今日はギーヨ様が来るはずだ。確か10時から…と思って時計を見ると、もう9時40分だまだ朝食も食べ終わっていないというのに。俺は急いで朝食を食べて身なりを整え、リビングに入った。ムルルとツーハはまだ食べ終わっていなかった。あの2人は、食いしん坊コンビのようだ。そうこうしている内に、ギーヨ様の妖気を感じ、ドアを開けると、ちょうどギーヨ様も開けようとしていたらしく、2人の力によってドアはこちら側に外れ、下敷きになりそうになった俺を今度はソウマが助けようとし、下敷きになった。
「すみません…大丈夫でしたか?」
「ソウマ!無事か?」
「う、うん、大丈夫…」
とあまり大丈夫そうではない感じで言ったので、俺が持ち上げようとしたらギーヨ様がひょいと持ち上げてはめた。しかし、ギーヨ様はまだ外にいたので、再び開けて入って来た。このドア、いい加減取り替えたほうがいいような気がする。
「どうでしたか?ウルベフは?」
「いい経験になりました。何より、スタイリッシュな感じの出動方法。あれは真似したいかもだけど、予算的に無理そうです」
「私もです。レイさんとの共闘、すっごい勉強になりました。近接攻撃の」
「私は、ウルベフのみなさん、すっごく仲いいって感じました。私たちもあんな感じでいたいなって」
さすがは姉妹だ。表現の仕方がなんだか似ている。
「私は、憧れの人に会えて良かったんですけど、サインもらい忘れたので、心残りではあります」
「俺も、憧れのレイさんの技を見て、もっと強くなりたいと思いました。同じく、サインもらい忘れましたが」
確かに、そんな余裕はどこにもなかったので、仕方ない。まあ、また会えるかもしれない。
「僕は、ムルル君と植物について語り合えたので、満足です!」
「いや、大事なところはそこじゃない!」
ソウマとギーヨ様を除く全員の声が揃った。
「えー、草属性にとって植物を知ることは大切なことなんだよ。自分の植物以外にその場の植物も使うから。でも、コウは何も知らないから、語り合えなかったんだよ」
「お前らが異常なだけだ!普通そんなに知る必要ねえよ!」
「とにかく、いい経験になって良かったです。ところで、ブレックジンの情報交換はできたのですか?」
「あ」
すっかり忘れていた。また今度、連絡して聞こう。
「では、僕はこれで」
ギーヨ様が去った後、俺はフウワを見た。
「なあ、フウワ。アイナさんって有名なのか?聞いたことないけど」
「失礼な!アイナさんが所属する戦うアイドルバトルプリンセスは、副業で戦士をやっているけど、どこに所属しているのか不明のアイドルなんだぞ!今回、アイナさんはわかったけどな!でも、歌も踊りも上手いぞ!気になったなら今夜一緒にCDやDVDを見まくるか?合わせてざっと100枚程だ!」
「…いや、遠慮しとく。あと、エントもレイさんって有名なのか?俺は全く知らなかったけど」
「わかってねえなあ、兄者は。レイさんはテレビにも出るくらいの戦士なんだぜ!マイナーでも憧れの存在だ!」
「やっぱ、マイナーじゃん。しかも、負けかけてなかったか?」
「違う違う。レイさんの本気はあんなんじゃねえ。本当は、もっともっと強いのに、自分で封印してんだ!自分をより強くするためにな!」
「ふーん。よくわからないな」
「分かれ!」
普段はそりが合わない2人の声があった。でも、やっぱりよくわからない。
「気にせんとき、ライト君。人の考え方はそれぞれや。私もよくフウちゃんにDVD見せられるけど、なんやよくわからへんし」
スインから謎の励ましを受けた。その時、ツーハがやって来て、
「ライ兄、アニメ見よ!」
と言われたときは救われた気分になった。子供と言われようが、やはり俺はまだアイドルよりもアニメが好きらしい。




