第三部 種明かし
一方、飛ばされた私たちは、戻ろうと必死で移動していた。技と技がぶつかり合う音が何度も響き、そのたびに私の不安は膨らんだ。姉さんなら大丈夫だろうと思いつつも、やはりもしもの事を考えてしまう。しかし、自分がどれだけ焦った所で、姉さんのいる場所への距離が短くなるわけではない。だから、今は最高速度で向かうことを優先しよう、そう思った瞬間、大きな爆発と共に姉さんの妖気が感じられるようになった。すなわち、相手に姉さんの居場所がバレたということだ。
「私に任せて!」
アイナさんは矢を放った。矢はまっすぐに飛んで行ったが、見えない壁のようなものに当たったかと思うと、反転してこっちに向かって飛んで来た。アイナさんは素早くかわしたが、対応しきれなかった後ろのエントに命中した。しかし、矢が刺さっているというのにエントは平然と立っていた。しかし、なんだか様子が変だ。少し待つと、エントはアイナにメロメロになっていた。
「この矢、当たった人にダメージは与えないけど私にメロメロになるって物なの。解除」
その瞬間、エントは今まで自分が何をしていたのか覚えていないようで、辺りを見回していた。
「しかし、厄介ね。結界のようなものが張られているわ。これじゃあレイたちと合流できない」
かなり厳しい状況だ。こうなったら、姉さんがなんとかしてくれることを祈るしかない。
少し前。スインはとうとう居場所がバレてしまった。ミレイの時もそうだったが、どうやら自分の居場所が分かる技術を身につけているようだ。その時、どこからか矢が飛んで来たが、透明な壁に当たって反転し、飛ばされた方に戻って行った。
「無駄なのにね。でも、これで分かったでしょ。君たちは僕からは逃げられない。しかも、僕のマジックの種を明かさない限り、君たちに勝ち目はないよ」
先程から、あの矢のように攻撃が反転するのだ。今までの瞬間移動ではなく、明らかに別の力だ。思い出せ。私は、攻撃をかわしながら考えた。攻撃を反転させることができるのは、鏡属性の技くらいだ。しかし、相手は霊属性だ。ここでミレイが浮かぶ。もし、相手も二つの属性を持っているなら合点がいく。しかし、ミレイは偶然にそうなったのであり、他の人もそうであるとは考え辛い。だったら、こういう仮説もできる。『今戦っているのは、1人じゃない』という。しかし、私ではあるまいし、姿をどう隠しているのかが謎となって来る。しかも、2人いるとしたら、1人がダメージを受けそうな時に、タイミングよく鏡のバリアを張っていることになり、そんなことがあり得るだろうか。その時、透明な壁に当たった。誰かが技を発動した訳でも無さそうなのに…。違う。バリア、いやシールドは元々あったのだ。そして、それを巧みに操っている。相手がそうしているとも考えられるが、1番自然なのは、あまり信じたくない仮説だ。アインたちも危ないかもしれない。一応、確認するために言ってみた。
「分かったで。このマジックの種が。見事なシナリオやな。仲間だと思っていた者に殺されるという、悲劇のシナリオや」
「君、名推理だね。まっさか、本当に当てるとは思わなかったよ。通りで、ボスが欲しがるわけだ。でも、遅すぎたね。もう、手遅れだよ。君たちの運命は定まってしまった」
「せやな。じゃあ、せめて最後に、空に花を咲かせてええ?」
「君、フォニックスのメンバーなんだね。まあ、いいんじゃない?どうせ結末は変わらないわけだし」
私は勢いよく空に水を打ち上げた。
同刻。私たちは結界の付近にたどり着いたはいいものの、結界のせいで入れず、四苦八苦していた。その時、勢いよく水が空に打ち上げられ、反転せずにそのまま飛んで行った。つまり、結界は空まで続いていないということだ。
「よし!それが分かれば話は簡単だ。私が跳び越えてやる!エント、勢いつけてくれ!」
「ああ!分かった!」
ライトさんは、その様子は見ずに、結界で覆われている場所の反対側を目指し、こっそり走って行った。フウワさんは、一瞬跳び越して行ったが、上にも結界があり、弾かれてしまった。
「移動してるぞ!これ!」
今ではフウワさんの大きな声もありがたい。あの水は上に結界がないと知らせることと、伝えたいことがあることを知らせることの2つの意味があると思うのだ。姉さんの勘はかなりの確率で当たる。だから、ライトさんを向かわせた。絶対に勝機を見出せるはずだ。
その頃、ライトは結界の移動によりできた隙間から中に入り、スインを探すと、範囲が狭かったためにすぐ見つかった。しかし、スインは一方的にやられているようだった。俺も行きたかったが、それでは全て無意味になってしまうので、堪えた。その時、スインが明らかに明後日の方向に水の弾丸を撃ち、跳ね返って俺のところに来た。勢いはあまりなかったので、掴んでみると、妖力で閉じ込めたスインの考えが伝わって来た。信じがたい内容だったが、これを伝えるために再び走り出した。




