第四部 月の力を
その物体は、ゆっくりと下降して行き、その輪郭がくっきりしてきた。光に包まれているので分かりづらかったが、どこからどう見てもセレンだった。しかし、雰囲気は先程とは違い、巫女服姿で、大きな力を感じた。ロボットはそれに気付いたのか、セレンに攻撃を仕掛けたが、セレンは不思議な膜に包まれていて、攻撃は効かなかった。セレンは全く動じずロボットを一睨みした。
「邪な心を持つものよ!月様は貴様を倒すために私に力を貸してくださった!この力、思い知るがいい!」
しかし、そのまま攻撃するのではなく、私たちのところへと降りてきた。
「皆さん。よく聞いてください。私は本体にしか攻撃できないので、入れ物の方は皆さんで破壊してください」
敬語ではあるものの、有無を言わせぬ気迫を感じた。私たちは、言われた通りにロボットを攻撃し、少しずつ壊して行き、やがて本体が飛び出した。これで倒せる、と思った瞬間、その本体は私の体を乗っ取ろうと勢いよくこちらに向かって飛んできた。しかし、セレンはすでに攻撃を放っており、この威力だと近くにいる私までも巻き込まれ、ダメージを受けそうだった。どこからかソウマがやって来て、私の体をめいいっぱい押した。そして、その反動でソウマは後ろに飛んで行ったのだった。その瞬間、本体に技が命中し、爆発が起こった。爆発が収まると、ソウマが倒れているのを見て、思わず駆け寄った。しかし、肉体的なダメージは受けていないようだった。
「ソウマ!大丈夫か?」
ソウマは目を覚まし、こちらを見た。
「うん。大丈夫、世界の境界線は閉じておいたから」
「何言ってんだ?ソウマ!しっかりしろ!」
ソウマの体を揺さぶると、ソウマはパタリと倒れた。みんなは驚いて、こっちに来た。セレンは先程の光を失い、妖気も元に戻った。
「しまった。月様の力には、妖力だけの状態の者を滅するだけでなく、体がある者でも奥底に眠っている意識を出させて、その意識が持っている思い出したくない記憶を蘇らせる効果があるんだった。ど、どうしよう…」
「セレンは悪くないさ。セレンがいなかったら、あのまま全滅もあったかもしれないからな。ソウマは俺たちがなんとかするから、気にするな。そして、もう遅い時間だから早く帰って寝た方がいいぞ」
「…うん」
セレンは帰路についた。ツーハはもう家に帰っているんだろうか。とりあえず、私たちも帰ることにした。
家に帰ると、既にツーハは布団に入ったようで、コウしかいなかった。
「ずいぶんと遅かったな。ソウマさんは…また負傷でもしたのか?」
「まあ、そんな所だ」
ライトは適当に答えて、洗面所に向かった。私たちは、ソウマをリビングのソファに寝かせて、夕食をとった後、全て終わらせて、ソウマの様子を見に行くと、なんだか様子がおかしかった。起きてはいるものの起きあがろうとはせず、ぼんやりと天井を眺めていた。そして、謎の言葉を発したり、空中に指で何かを書いたりしていた。完全に、呼び覚まされた意識に支配されているようだ。私はいつものソウマの意識が戻るような言葉を必死で考えた。しかし、口を突いて出たのはあまり効果のなさそうな言葉だった。
「ソウマ、今日はありがとな。おかげで助かったよ」
ソウマの瞳が揺れ、妖気がだんだんいつものソウマに近づいていった。そして、
「どういたしまして。あれ?僕なんでこんな所で寝てるの?もうこんな時間だし。お腹空いたなあ」
と言って立ちあがろうとしたが、すぐに座り、ため息をついた。
「なんだか、すっごい疲れた。さっきまで寝てたはずなのに、こんなに体が重いなんて」
ソウマはよいしょと立ち上がり、コウに話しかけていた。コウは不思議そうにしていたが、みんなは寝ていたし、私は疲れた。説明する気力もなく、あくびをして寝にいったら、廊下で人を見つけて、思わず後退りしたが、それは杞憂だったようだ。ライトがトイレに行こうとしていただけだったようだ。まだ戦いの時の警戒が残っているのだろうと思って寝ると、なんだか不思議な夢を見た。
小さな男の子が父親に怒られていた。
『機械いじりなどせずに、勉強をしなさい!運動も出来ないお前に残された道は、医者しかないんだよ!』
『エンジニアは?』
『そんな職業、この家の長男として認められるわけがなかろう!大人しく医者を目指しなさい!』
僕は、そのまま夢を叶えられず医者となったが、医療機器を見ていると、どうしても叶わなかった夢を思い出してしまった。そんな頃、謎の男が来た。その男は、夢を叶えたいのなら、我々の仲間になれと言った。本当は断りたかったはずなのに、気づけば首を縦に振っていた。そして、何かに引き込まれるようにここにやって来て、20年かけてロボットを完成させたのだ。
そこで目が覚めた。おそらく、これはあの男の過去だろう。これは誰が見せた夢なのかはわからないが。




