プロローグ 久しぶりのいたずらっ子
「よし!準備はいいか?ツーハ!」
「うん!いっぱい持った!ちょっと重いけど…」
九月。今日は任務ではなく、人に会いに行くのだ。フォニックス全員とツーハ、イネイを連れて、遠い道のりを歩く…ととても日帰りでは帰れないので、ギルド様に連れて行ってもらった。
「今回だけですよ。他にも瞬間移動できる人はたくさんいるので、忙しい私よりも暇なその人を使ってください」
と言っていたが、俺たちは瞬間移動できる暇人を知らなかった。というわけで、たどり着いた先は想像以上の豪邸だった。庶民の俺たちは驚いたが、ギルド様やイネイ、ツーハはさして驚かなかった。執事の案内で中に入ると、突っ込んできた生き物がいた。その生き物は、爛々と目を輝かせ、
「ライ兄!ツーハ!スインさん!アインさん!エントさん!イネイさん!…と、だれだっけ?」
「ソウマだな」
「ごめん、わすれてた」
ソウマは微妙な笑みを浮かべた。忘れっぽいこの生き物は、ツーハの妹分、テルルだ。テルルは複雑な通路を迷いもせずに、食事室に俺たちを案内してくれた。食事室は、いい匂いが漂っていた。この香ばしい匂いは、
「クッキーだね!キリー!」
テルルは台所のメイドに向かって話しかけていた。ずいぶんとこの生活に慣れているようだ。
「こんなに友達連れてきたの?テルル」
食事室にはすでに先客がいた。10歳くらいだが、そのクッキーを食べる仕草からは育ちのよさが伺える。
「姉ちゃん!クッキー食べすぎるとふとるよ!」
「またお母様の言うこと覚えてる…」
「ライトだ。よろしく。こっちは双子の弟の」
「エントだ!テルルは元気だったか?そしてこっちは…あれ?ソウマは?知らないか?ツーハ」
「ううん、知らない」
「いいわよ。自己紹介なんて。テルルから聞いてるから。それより、お仲間を探しに行った方がいいと思うわ」
その言葉に甘えて、ソウマを全力で探しに行った。全員でくまなく探したが、一向に見つからなかったので、庭を見てみると、植物と会話をするという少し怖い現場を目撃した。もちろん、ソウマはエントに引きずられ、食事室に連れて行かれた。
「私、セレンって言うの。お母様とお父様はお仕事でいないけれど、メイドのキリーが親代わりをしてくれているわ。他のものは主に家事をしているけれど」
「メイドのキリーです。どうぞ、お見知りおきを」
2人の丁寧な口調に調子が狂いそうだったが、自分で無理矢理調子を戻した。
「ねえ、あなたたち、戦士なのよね?1つ、頼みたいことがあるの。もちろん、報酬は払うから。私、月のエネルギーを感じることができるのよ。だけど、今日はそのエネルギーが弱い。月食前でもないし、今夜は満月なのよ。もしかしたら、よくないことが起こる前兆かもしれない。それについて、調査してくれないかしら?場所の検討はついてるから、そこに向かってくれないかしら?」
「分かった。被害が出ないように早めに対処しておくのも、大事なことだもんな。ごめん。ツーハ、行ってくる。テルルと一緒にいてくれ。イネイはどうする?」
「1回、試してみたいです」
「よし、みんな!行くぞ!」
「いってらっしゃーい!」
俺たちは教えてもらった場所へと向かった。そこには、コンクリートの廃墟があった。しかし、中に妖気を感じ、そっと中へ入った。すると、笑い声が聞こえ、俺たちは身を潜めた。
「ついに実現するのだ!これを使えば、エヴェル様の命令も遂行できる!ブラックス内の重鎮になるのも夢じゃない!」
1つ疑問があった。なぜ、男はトルキではなく他のやつの名を出したのか。だが、それよりも奥の物体の方がよっぽど気になった。大きなボディに黒光りする表面。ずいぶんと強そうな戦闘用ロボットだ。
「よし!攻撃開始!」
ロボットから大砲が出てきて、市街地に向かって弾を打ち込み始めた。
「やめろ!」
馬鹿な行為だとは分かっていたが、俺は物陰を飛び出し、大声でそう言っていた。みんなはやっぱりやったか、という顔をしていた。みんなも出てきて、今も砲撃を続けているロボットを止める努力をした。かなり丈夫に出来ているので、普通の攻撃ではなくびくともしないだろう。だったら、こうするしかない。
「エント、熱で溶かせそうか?」
「やってみるけど、この金属がどれくらいの耐熱性があるかだな。バーニングストーム!」
しかし、ロボットはびくともしなかった。
「ははは!このロボットは特殊な金属でできている!そんな攻撃ではびくともせんぞ!」
金属ならば、高温で熱すれば溶けるだろうが、そんなことが出来る程の火力を出すにはエントの妖力は足りなさすぎる。となると、ロボットを倒すのは諦めて、遠隔操作を停止するしかないが、そう簡単にはいかない。ロボットの目を潜り抜けて行くのは難しいし、何より行けてもどうやって止めるのかわからない。どうやら、戦いは避けられないようだ。




