第三部 サポーターとアタッカー
俺たちの攻撃では、ミレイの蹴りに太刀打ちできない。かと言って、防ぎ切れる防御力もない。しかも、本気を出したミレイの力は計り知れない。どう頑張っても今の自分たちが勝てる相手ではない。そう思って動けないでいると、ふと強い妖気を背後に感じて、振り返ると、アインが何か言いたげにこちらを見ていた。
「守りは私がサポートするから、あなたたちは守りに集中して」
一瞬戸惑った。そこにいたのは、今朝のアインではなかった。自らの得意とする分野を極め、開花させた1人の戦士がいた。何がアインの力を覚醒させたのかはわからない。どこをどうすればいい、という覚醒のルールなんてない。そう分かっていても、自分のバトルスタイルもわからないが、近距離攻撃の方が得意という、中途半端な自分が置いて行かれたような気がした。そして、実際にも走り出した兄者とフウワに置いていかれているのだった。ミレイの蹴りを、絶妙なタイミングで氷の壁を発生させて防いでいく。俺がただ見ていると、アインの視線を感じた。今の俺がそう感じさせたのか、「早く行ってよ、せっかくチャンスをあげてるんだから」と言われているような気がする。アインがそんなことを言うはずもないのに、そう感じたのはおそらく俺の気持ちのせいだ。行っても足手纏いになりそうだが、何もしないのはアタッカーとしてどうかと思う。悔しさと迷いが混ざった感情だった。そもそも自分は戦士としてふさわしいのかという考えにまで発展しかけたその時、近くに優しい妖気と新緑の香りを感じ、そして背中に優しく手が置かれた。驚いて振り返ると、ソウマがそこにいた。ソウマは、何も言わずにただ微笑んでそこにいた。俺が困惑していると、ソウマが口を開いた。
「エント君は、自分の明確なバトルスタイルが決まってないことに悩んでるんだよね?なんとなく、色々試しているような気がするから。僕は、エント君にはエント君にしかできないことがあると思う。圧倒的なパワーだったり、毒をものともしない推進力とか。欠点はあるかもしれないけど、1人で戦ってるんじゃない。エント君の欠点を補ってもらう分、自分の得意分野で他の人の欠点を埋めればいい。そのためのフォニックスだから。ちょっと人任せすぎるかもしれないけど」
まさか、ソウマが俺の悩みを知っていたなんて知らなかった。少し俺は考えすぎていたのかもしれない。俺は色々考えて動く兄者と打って変わって何も考えずに突進していくくらいのほうが似合っているのかもしれない。
「がんばって、炎のアタッカー」
俺は、清々しい気持ちでかけて行った。
地道なダメージが積み重なって来ているのを感じた。私は3人の防御に気を配り、ソウマさんが見当たらないことに気づいた。どうやら、姉さんと一緒にいるようだ。なんのためかは分からないけど。先程、私には1つの変化が起こった。ミレイに近づかれ、攻撃された時に、「世の中には、2種類のサポーターがいる。何もできないからしている人と、本当にサポートに特化しているからしている人。あなたはどちらなんでしょうね?」などと皮肉を言われたのだ。それに腹が立ったのではない。しかし、気づいたのだ。サポーターは比較的安全な地点で戦う点では狙撃手と同じだけれど、サポーターは相手ばかりではなく味方も見ることができる。つまり、戦況を把握して、戦術の変更を促すこともできるし、氷の壁など味方を助けるだけでなく、足を凍らせるなどの相手への妨害もできる。最も、この妨害の方法はミレイには効かないと思うけど。サポーターの責任の重さ、そして果たすべき役目。それを理解したことで、より良いサポートを追い求めることに決めたのだ。氷の壁の出現までのタイムラグ。攻撃の邪魔にならないような壁の張り方。みんなを実験台にするわけではないが、常に変わっていく戦況に合わせてサポートできるようにある程度なった。まだまだ課題はあるけど。エントは驚いていたみたいだけど、それは本人が極めるべきものに気づいていなかっただけだろう。ソウマさんは突然姉さんの元を離れ、3人の方へ走って行った。一体何をしようとしているのか。ソウマさんがライトさんの攻撃を防ぎつつ、何か耳打ちしていた。フウワさんも同様で、エントには少し時間をかけた。3人が広がり、ばらけたのを確認した後、自分の方にやって来て、
「伏せて、今すぐ」
と言われた。伏せない理由もないし、わざわざ言いにくるということは何か大切な理由があるに違いない。そう思って伏せた瞬間、3人がミレイの動きを一瞬止め、自分の頭上を大きな水の塊が通過して行った。ミレイは3人が作った一瞬のスキのために猛スピードでやって来る水の塊を避けきれず、命中した。その途端に辺りが大量の水蒸気と砂埃に包まれ、発生した風に吹き飛ばされそうだった。なんとか風はおさまったが、まだ視界は開けそうに無かった。




