第二部 奇跡の存在
ミレイはさらに攻撃しようとして来たが、フウワさんが阻止した。一度は倒れたが、まだ戦えると思い、僕は立ちあがろうとしたが、蹴られた箇所が熱いことに気がついた。確かに、ツーハちゃんとコウでは受けたダメージに差があった。しかし、目の前にいるのは紛れもない水狼だ。ミレイはフウワさんを攻撃した。よく見てみると、ミレイの足が当たった瞬間火の粉が散っている。しかし、左足で蹴ると水が飛ぶ。でも、そんなことはありえない。俺の経験では。僕は頭を振った。フォニックスに入ってから、自分の人格が徐々に変わっていっている気がする。最近、レッドと会話できなくなり、変化もできなくなった。その代わり、たまに自分が自分では無くなる瞬間がある。
「みんな!こいつ、炎技と水技を同時に使いこなしてる!」
みんなはやはり驚いていたが、ミレイは面白そうに笑っていた。
「私はね、炎と水両方の属性を持つ、奇跡の存在なの。弱点なんて存在しない。さあ、あなたたちはどんな戦いを見せてくれるのかしら?」
どんな攻撃をしても、ミレイはかわしたりいなしたりして、全くダメージを受けていなかった。それどころか、どんどん体力を削られていっている。弱点が無い上に、強力な足技で攻撃を受ければ、相性によりダメージは加算される場合もある。これは、かなり戦い辛い。
イネイは、ぼんやりとした意識の中で、みんなの戦いの音を聞いていた。自分が起きて逃げることができたら戦う必要はないのに、体が全く動かない。何かの術にかけられたようだ。みんながやられていくのを感じ取り、余計に自分の不甲斐なさを責めてしまう。誰か、この状況をなんとかして。そう願っても、誰かに届くわけがない。そう思った時、優しい妖気を感じた。戦いの音が止まった。互いに動きを止めたのだろうか。気がつくと、体は自由になっており、うっすらと目を開けると、エネルギー体が漂っていた。エネルギー体と言っても、しっかりと姿を保っており、安定していた。その姿は、光逆戦争で1人になっても最後まで戦い抜き、光狐軍に大打撃を与えて戦死したと言われる伝説の戦士、エレンだった。
『私を呼んだのはあなた?負け犬の私を呼んでくれるなんて、嬉しいわ。さあ、思う存分暴れましょう!』
言葉が出なかった。確かに、さっきエレンさん助けてくださいなんて馬鹿みたいに祈ったけど。歴史の本で見てから、その生き様に憧れていたのだ。台詞も、本通りだ。それよりも、なぜいないはずのエレンさんがエネルギー体となって出て来たのか謎だった。ふと、私はエレンさんの中にいるような気がした。移動しようと思ったら、すごい速度で景色が動いていくのが分かった。どうやら、私はエレンさんとなって、戦うことができるようだ。よくわからないが、なんとなくでやってみることにした。
イネイが謎のエネルギー体を呼び出し、中に入っていった。どういう仕組みなのか全く分からないが、助けられたのは言うまでもない。そのエネルギー体は高速で動き、強烈な攻撃をミレイに浴びせていった。
「何、これ。あなた、一体何者?」
『そうね。聞かれて名乗らない程私は用心深くないから。私はエレン。戦士って言っても、結構マイナーな人物だから、知ってる人はいないと思うけど。ま、昔の人っていうことで』
エレンは自己紹介もそこそこにして、ミレイに容赦ない攻撃を再開した。ミレイの足技も、この戦士を前にしては意味がなかった。
『あなた、弱さは悪だって言ったそうね。確かに、守れないものはあるかもしれないけど、そういう奴って本当にピンチになった時とんでもない力を発揮するものよ。それじゃあ、私はこれで。短い時間だったけど、久しぶりに戦えて楽しかったわ』
エレンは消え、イネイが現れた。
「イネイ!すごいじゃん!」
「いえいえ、すごいって言われても、自分でもどうやったかはっきり分かってないんです…」
確かに、過去の人物を呼び出して操るなんて話聞いたことがない。その時、ミレイの妖気がさらに上がった。
「私の本気を出させてくれた分、しっかりお返しするから。稲狐ちゃん」
ミレイはイネイに近づき、蹴り上げようとしていた。かつてない程の勢いで。咄嗟の行動だった。俺はイネイを押し倒し、蹴りを回避した。
「ラ、ライトさん…」
「すまん。イネイを守るための、咄嗟の行動だった」
「そうじゃなくて、怪我を…」
言われて初めて気づいた。顔に足が掠った跡があった。
「大丈夫だ。これくらいなんともない」
「すみません。結局守られてばかりです」
「気にすんなって。俺たちはイネイに守られたんだ。だから、今度は俺たちがイネイを守る番だ。イネイは逃げろ。これ以上ここにいたら危ない」
イネイは一礼して、走り去って行った。ミレイはかなりの妖気を発していた。
「あの子を逃したら、あなたたちも逃げるんじゃないのね。まあ、逃げても追いかけていたけど」
「戦士が戦いから逃げるかよ」
山奥のはずなのに、セミは逃げてしまったのか鳴き声は聞こえなかった。




