第四部 世界の鍵をかけるということ
はっきり言って、戦況はあまり良くない。ライトから扉まではかなり距離があるというのに、そろそろこちらに限界が来そうだ。ギルド様は科学者を運びに行ってしまったし、ギーヨ様は近隣住民の避難を呼びかけるのに精一杯だ。こういう時に限って、いないのが2人だ。どんどん出てくる死人たちに、こちら側が消耗するばかりだったが、突然、近くの死人が吹っ飛んだ。何が起こったのかよくわからないまま後退りすると、見慣れた顔があった。だが、今まで見たこともないような気迫がある顔をしていた。
「ヒノガ、だよな…?」
ヒノガの刀を持ち、炎を纏っている姿から、彼が本気である事が感じられた。
「どうした。そんなに意外だったのか。俺はこう見えても元々刀を使って戦ってたんだぞ。まあ、威力がありすぎるのと、爆発音がすごいから爆発音に弱い義父さんが気の毒だったから、使うのは10年ぶりだけどな」
「それもあるけど、どうしてここにいるんだ?」
「ふん。人の農地に勝手に入って来る不届きものの始末に来ただけだ」
ヒノガの強さは、想像以上だった。強力な攻撃で、死人たちをバッタバッタと倒していった。どうやら、死人と言えども人なので、1度に大ダメージを与えれば倒せるようだ。しかし、目的はあくまでもライトの援護なので、ライトの先にいる死人を倒して欲しいのに、自分の家の付近にいるやつだけを攻撃するので、役立っているとは言い難い。結果的に、ヒノガが派手に暴れてくれたおかげで、死人がそちらに集中し、ライトの先にいる死人は減ったが。ヒノガも、どんどん押し寄せる敵にうんざりしたようだ。
「まとめて倒してやる。龍王斬!」
刀は火の龍を纏い、振り下ろした刀は地面についたが、辺りは炎に包まれ、死人はあっという間に焼き尽くされた。
「行け!ライト!」
私は目の前の死人を倒しながら、ライトを勇気づけた。ライトはそれた技をかわし、襲いかかって来る死人を倒しながら、前へと進んでいた。鍵穴は、ここからでも見えた。ライトが近づき、手を伸ばしたのと、私たちの近くにいたはずの死人が一斉にライトの側へ瞬間移動したのが同時だった。私は焦ってそちらに走ったが、ライトは鍵を鍵穴に差し込み、回した。すると、死人たちが次々と吸い込まれていき、扉は閉じようとしていた。
『じゃあな、ライト、エント、そしてその仲間たち』
『バイバイ』
「ありがとな、2人とも」
クーライと殺戮兵器ソウマもまた、扉に吸い込まれて行ったのだった。
「ふう。こんなに慌てて鍵をしたのは生まれて初めてだぜ」
「俺はもう帰るぞ」
「私たちも同じルートで帰るから、ここでおさらばはできないぞ?」
「…」
「聞きたいことがあったんだけどさ、なんでヒノガとパキラってお互いを知ってたんだ?」
「同じ孤児院にいて、告白めいたことされて、だけど返事もできないまま孤児院を連れ出されたんだ。10歳の時の話だったから、こっちは覚えてても向こうは覚えてないだろう、って思ってたけど、成長してだいぶ変わったから俺だと気が付かなかったけど、こっちから花を贈って、ソウマに当てられたら、俺だと気づいて、それで…」
「そこまで言えって誰も言ってないのにヒノガって、パキラのことになると人が変わったみたいになるよな」
ヒノガは目を逸らした。絶対照れ隠しだろうけど。
「話が盛り上がっている所失礼しますが、ライトさんが閉じてくれた扉ですが、また開かないという保証はないんですよ」
「えっ?じゃあ、また同じようなことが起こるってわけですか?」
「いや、本来は開いても死人が出てくる程大きくなるのには時間がかかるので、それまでに生成された鍵で閉じればいいだけです。今回は、科学者が広がるのを早めたせいで、起こった事件ですから」
「まあ、結局はこの世界と狭間の世界は繋がってるわけだしね」
「ギルド様、あの時言ってた“不思議な力を持つ少年”って何者なんですか?」
「私もそんなに詳しくないのですが、その少年は、時空を歪める能力を持ち、それを悪人に利用され狭間の世界を作り出してしまったそうです。そして、力を使いすぎた少年は力尽き、大きな因果を背負って死んでしまった、という話です」
「大きな因果?」
「いるべきではない存在を作り出すということは、重い罪となるそうです。私もよくわかりませんが」
「分かったような、分からないような…」
「それ、さっきも聞いた気がする」
みんなで話している時に、ソウマが険しい顔をしていた。
「ソウマ?」
「へっ?ああ、ごめん、ぼーっとしてた」
本人はえへへと笑っていたが、何か思う所があったようだ。確かに、『同じ魂が同じ世界にいると、時が狂う』という危険性を、ソウマは知っていた。図書室の本で読んだとも考えられるが、そんな本が人間界である訳ないし、少しこちらの世界の本もあるそうだが、そんなことが書いてある本はそう多くないはずだ。とはいえ、不思議な出来事の連続に疲れていたので、そんなに深く考えなかった。




