第五部 テルルの旅立ち
「またやったのか!ツーハ!テルル!」
フウワの怒鳴り声が聞こえ、ドタドタと走る音がする。気になったので、着替えて様子を見に行くと、割れた花瓶と、その近くのボールが目に入った。どうやら、キャッチボールでもして花瓶にボールをぶつけたようだ。犯人たちは、空高く飛んで地上のフウワを見下ろしている。
「降りてきて下さい、ツーハさん!テルルさん!」
「やーだね!」
イネイさんが言っても、この調子である。どうしたものかと見ていると、甘い香りが漂ってきた。なんだろうと香りのする方を向くと、いつのまにかやって来たギーヨ様が、こちらにやって来た。
「こんにちは。これ、お土産です」
ギーヨ様はキャラメルの香りのする紙袋を見せた。ツーハとテルルは目を輝かせ、すんなり降りて来て、なんだろうと紙袋を見ていた。
「素直に謝ったら、見せてやるよ」
「はあい、ごめんなさい。フウワさん。だいじな花びんわって」
「ごめんなさい」
ギーヨ様が笑って紙袋の中身を見せると、ツーハはさらに目を輝かせ、テルルは不思議そうにそれを見ていた。そう、キャラメルポップコーンだ。ツーハは何度か食べたことがあるだろうが、テルルは知らなかったようだ。さらに、それに反応してやって来た人物がいた。
「何かと思えば、ポップコーンだ!」
フェルクは、かなりの甘い物好きで、特にポップコーンは大好物だったはずだ。さっき目覚めたばかりだというのに、子供のようにはしゃいでいる。
「あ、起きたんや、フェル君」
スインとアインもやって来たが、フェルクはスインを見て喜びの踊りをやめ、目を逸らした。
「勝手にあだ名つけないでよ」
「ポップコーンや。なんか、久しぶりやなあ」
フェルクの言葉を完全に無視して、スインはポップコーンへ目を向けた。フェルクは何か言いたげだったが、
「お茶にしましょう」
というイネイさんの言葉に目を光らせ、どこか知らないのに食卓に行こうとしたのか逆方向に行って、
「ごはん食べるとここっち」
とツーハに言われ、バツが悪そうにしていた。
「思ったより、早い回復だったな」
「それは、多分私が急所をわざと外して攻撃したからやと思う」
「スインって、すごいよな」
「どういうこと?」
「いや、なんでもない」
そして、みんなでポップコーンを食べ(実際の所ツーハとフェルクがほとんどを)、その時に話をしていた。
「準備はできていますか?」
「はい」
実は、ギーヨ様に来てもらったのには訳がある。
「じゃあ、今日は送別会をするか」
ツーハはしゅんとした。テルルの新しい家族となってくれる家庭が見つかったのだ。明日、行くことになっている。だから、玄関にはテルルの小さな荷物がまとめてある。
「ねえ、スインさん、ピーピーいれた?」
「もちろん、入っとるで。ピーピーと一緒に頑張るんやで」
ピーピーとは、スインがテルルに買ったひよこのぬいぐるみだ。相変わらず、子供には甘いスインである。
「ツーハ、出会いもあれば、別れもあるさ。それに、お隣の猫の国だから、すぐに会いに行けるさ」
「うん」
「確か、お姉さんがいるって言ってたよね」
「はい、今年で10歳のセレンという女の子だそうです」
その後、ツーハとテルルは仲良く遊び、夕飯になったが、ツーハはあまり食べなかった。
「珍しいな、ツーハ。しっかり食べないと、元気にお見送りできないぞ?」
「うん」
ツーハはご飯を一気に食べて、食器を下げ、どこかに行こうとしたので、慌てて付いて行くと、自分の部屋で泣いているのを見つけた。
「ツーハ…」
別れが近づいて、寂しくなったのだろう。とりあえず、そっとしておくことにした。食卓が騒がしいと思ったら、テルルも泣いていた。やがて、2人は泣き疲れて眠った。
翌朝。ツーハとテルルは、向かい合って、
「バイバイ」
「バイバイ」
と言い合った。
「2人とも、こういう時は『またね』って言うんだぜ。また会えると信じて」
兄者らしい発言だ。
「うん、わかった。またね、テルル」
「またね、ツーハ」
「さあ、行きましょう、テルルさん」
ギーヨ様に手を引かれて、テルルは新たな家族の元へ旅立った。
フォニックスの本拠地が温かい雰囲気に包まれている中、とある研究所ではピリッとした雰囲気に包まれていた。
「ボス。6番は、操作を解除する不思議な能力があるのですか?絶対に解けないはずの操作が、跡形もなく消え去っています」
「我々は6番を侮りすぎていたようだ。まさか、その能力を持っているとは。厄介だな。さらに強い操作の開発を急げ」
「了解致しました」
テルルとセレン。この2人の出会いは、偶然ではなかった。だが、その話は、また別の話。ギーヨは移動の最中、すっぽかして来た仕事のことと怒っているキョウの顔を思い出し、1人苦笑したが、血のつながりのない姉妹はどう関わって行くのか、楽しみでもあった。




