第三部 飛行船から脱出せよ!
両手両足を縄で縛られ、飛行船の一室に追いやられた。だが、これは俺を舐めすぎている行為と言っていい。俺は縄を焼き切り、鍵のかかったドアをぶち破った。敵が追って来ていないことを確認しながら、ゆっくり隠れながら進み、『操縦室』と書かれた札が貼られているドアを見つけたので、少しだけドアを開けて様子を伺った。見るに、飛行船は人間界の技術を利用したものらしい。そんなことをしたら、罪に問われるのは分かっているだろうに。不意に後ろに気配を感じ、振り向くと、今にも攻撃をしようとしている男と目が合った。俺は攻撃を避けて、一定の距離を保った。すると、けたたましく警報が鳴り響き、戦闘員らしき者達がゾロゾロやって来た。全員無言で攻撃してくるので、余計に怖い。一人一人倒していては埒が空かないので、ここは逃げることにした。曲がり角で物陰に隠れ、なんとかやり過ごした。危なかった。完全に油断していた。これが向かう先はどこなのか、今どこの上空を移動しているのか、なぜ攫われたのか…。分からないことだらけだし、庭にいたのでわざわざ携帯など持っている訳なかった。とりあえず、下に降りて飛行船の外に出るより他ないと思った。飛行船の中を動き回り、ようやく外に出られたが、すごい雨がまだ降っていた。デッキのような場所に出ると、男の子の笑い声が聞こえ、驚く間も無く声の主は現れた。
「逃げられるとでも思ってんの?この僕から。大人しく捕まっておけば、何もしなくて済んだのに。まあ、ボスの命令だからさ。君を気絶させてもいいから連れて来いって。安心して。命までは奪いやしない」
その姿を見て、驚いた。どこからどう見ても、行方不明になったいとこなのだ。
「フェルク?お前こんなとこで何してんだよ?」
「勘違いしてるよ。エント君。僕はもう、君の知ってるような奴じゃない。どうしたの?僕だと分かったら、途端に攻撃出来なくなっちゃった?だから死んだんだよ、伯父さんは。そんなつまらない情なんて、なんの役にも立たないよ?」
あんなにおじさん、おじさん、と慕っていて、俺が5歳のときに死んだら大号泣で、その1ヶ月後に行方不明になったら今度は批判するフェルクを見ていると、悪夢のようだ。フェルクは平然とした顔で、俺を攻撃し、壁にぶつけさせた。その目には、光が宿っておらず、操られているようにも見えた。このままではまずいと思いながらも、攻撃なんて出来るわけがないし、かと言って技を全て避け切れる訳ではない。ただ、なんとなく攻撃のたびにフェルクが悲しげな顔をしているような気がする。それを見ていると、黙っていることは出来なかった。
「本当はこんな事したくないんだろ?優しいお前が、こんなことする訳ない。一緒に来ないか?みんな心配してるぞ」
「黙れ黙れ黙れ!僕はもう優しくなんてない!みんなが心配してるなんて嘘だ!母さんも父さんも、全然家にいなかった。僕には兄弟もいないのに。別に、僕がいなくたって大して変わらないさ…」
気がつくと、フェルクは泣いていた。フェルクの両親は、医者であり、中々家に帰れず、ベビーシッターを頼んでなんとかしていたらしい。
「フェルク。お前がいなくなった時、2人とも言ってたぞ。自分たちがほったらかしにしていたせいで、フェルクはどこかに行ってしまったのだ、って。患者からひと時も離れることも許されず、お前に申し訳なく思いながらもずっと働いてたんじゃねえの?」
フェルクの攻撃が止まり、安堵した瞬間。フェルクが突然動き出した。
「オマエヲ、トラエル」
その目には正気がなく、どうやら完全に操られてしまったようだ。自分の残り妖気も顧みずに攻撃を始めた。俺は、フェルクの首に何か付けられているのを確認した。よく見ると、カメラである。この戦いは撮影されているようだ。フェルクを止めるには、倒すより他ないのかもしれない。震える手を握り、俺はフェルクに攻撃を始めた。しかし、もはや自分を削る勢いで攻撃しているフェルクには敵わなかった。なんとしても、フェルクが壊れる前に倒すしかないようだ。
「炎の舞!」
ステータスを上げても、意味はないように思えるが、ないよりはマシだ。フェルクとの間合いを詰めることが出来るといいのだが、俺は兄貴のように足が速い訳ではない。どうする、と迷っていると、急に水の弾丸がフェルクの攻撃を打ち消した。
「ようやく見つけたわ、エント君」
スインはどうやって乗り込んだのか分からないが、船内を相当走り回ったらしく、肩で息をしていた。
「雨の中の戦闘はエント君には不利やけど、私は有利や。ここは任せな」
「でも、こいつは…」
「全部聞いとったで。大事ないとこなんやろ?私のこと調べてくれたのはすごくありがたいんやけど、こんなことに巻き込まれたら私が耐えられへん。十分気をつけて欲しいし、別に、気にしなくてもええんやで」
俺は慌てて何か言おうとしたが、言葉が何も浮かばなかった。




