第二部 不可解な国籍
「ギルド様、これ、どう思いますか?」
俺はとある箇所に指を差した。まず、居住地。アインのはかつて住んでいた場所と、フォニックスの住所が書かれていたが、5歳の時から1か月ごとに住所が変わっていき、7歳の5月から3ヶ月空いた8歳の頃にアインと同じ住所になっている。しかも、家族について書かれている欄には、アインのは書いてあるが、スインのは“不明”となっていた。
「スインさんとアインさんは、姉妹ではない…?1ヶ月ごとに住所を変え、3ヶ月空いてようやく定住したのも気になります。何か知っていることはありませんか?」
おそらく、スインは自分が誰にも言わないだろうという信頼を持って話してくれただろうに、それを言ってしまうのは罪悪感があった。スインのためだと自分に言い聞かせ、話し始めた。
「スインは、よく目を痒いって言っていたり、反応が鈍かったり、8歳以前の記憶がなかったりするそうです。でも、姉妹は目の色が一緒で、スインとアインもそうだから、姉妹じゃないってのはおかしい気がするけど…」
「鈍いですね。エントさん。じゃあ、なんでスインさんはいつも目が痒いと言っているのでしょうね?8歳以前の記憶がないと言っているのも…」
俺ははっとした。とんでもない事実に気がついてしまった。
「これは、捜査をしなければならないと思います。まだ何者の仕業か分かりませんが、いつか出会う可能性もあります。その時は、スインさんに教えてあげてください。それが、事実を知ったあなたのすべきことだと思います」
「ありがとうございました。あの、俺なんかに国籍見せて大丈夫だったんですか?」
「それは、エントさんが口外しないだろうという信頼で成り立っているのですよ」
つまり、絶対に口外するなよ、という脅しである。やはり、この人は恐ろしい。
「気になるのであれば、色々な心当たりのある人に聞いてみてください。きっと、何かヒントを掴める時が来るでしょう。この件は、任せましたよ、エントさん」
ギルド様は俺の手を掴み、反論の隙を与えずに家へ送り届けた。なんだか、とんでもないことを任されてしまった。ちょうど今日は任務がない日なので、好機とみて、アインに話を聞いてみた。
「小さい頃のスインって覚えてるか?」
「うーん、あんまり覚えてないけど、父さんと旅に出ていたらしくって、姉さんが10歳になるまで会わせてもらえなかったな。私が4歳の時だった。すっごく優しかったし、光逆戦争の時も、本当に泣きたかったのは姉さんだっただろうに、1つも泣かずに私を守ってくれたんだ」
姉さん、という言葉に少し悲しくなる。スインが泣かなかったのは、アインを守るのに必死だったのと、8歳からの記憶がないということは、実質5年しか両親と過ごしていない訳で、しかも8歳から13歳という、親に甘えるような時期ではないし、親もそんなに甘やかす時期ではない。もしかしたら、残酷なことに親の死の悲しみが薄かったのかもしれないとも思う。スインの記憶を消したのは、誰なのか、何のためなのか。謎は深まるばかりだ。
とある研究所。研究者は、モニターを見ていた。
「16番の様子はどうだ」
「成功した模様です、ボス」
「そうか。これで13人目だ。着実に近づいて来ているぞ。我々の理想が叶う時が…」
「そういえば、6番は正義の戦士の集団に入ったようですが…」
「放っておけ。奴は失敗作だ。反応の鈍い者など、足を引っ張るだけだ。だが、狐の国内部を調べることができるかもしれない。その時が来たら、“操作”で狐の国を混乱させれば、事はスムーズに進む」
「了解致しました」
研究者は去っていき、ボスはその場に残った。
「16番を運ぶ用意をしろ。そして、17番の実験準備をしろ。次の段階に入るぞ」
「はっ」
この科学者たちは、一体何を目論んでいるのか。そして、他の被験体はどこに潜んでいるのか。ますます、スインの謎は深まっていくばかりだ。
この時、時の館では、ある男が微笑みを浮かべていた。
「面白いことになって来ましたね。散り散りに起きた出来事が、一つになっていくのを感じます。これを、彼はどう動くのか。今生も働いてもらいますよ、ソウマさん」
エントは、必死に知っていそうな人を心の中で探したが、思いつかないでいた。
「昼飯だぞー!」
とコウの声。どうやら、もう12時らしい。
「エン兄、どこ行ってたの?ツーハも行きたかった」
「ギルド様と話をしていただけだ」
「どんな?」
「別にいいだろ」
今すぐにでも話してしまいそうで、自分が怖い。昼飯を食べ終わったあと、庭先で1人、
「スインの謎は、深まるばかりで、全然掴めないな」
と言っていた。ちなみに、それをスインが見ていたことには、気が付かなかった。急に空から網が降って来て、俺はあえなく捕まってしまった。そして、飛行船のようなものに乗せられた。




