プロローグ 知らない事実
俺、エントは、スインが少し心配だ。なぜなら、目がかゆいとよく目をこすっていたり、よくタンスやテーブルに足をぶつけたり、呼んでも中々反応しなかったりするからだ。本人はどう思っているのかわからないが、個人的にはスインの反射神経の鈍さが戦闘に支障が出ないか心配な所がある。ちなみに、今は朝5時。時間を持て余して、そんなことを考えていたのだ。時計を見ると、もう6時。考えすぎて時間が飛んだように感じたのか、一瞬寝ていたのか分からないけど、一階に降りて行くことにした。廊下を歩いていると、スインに出会った。
「エント君、おはよう」
「おはよう、スイン。あのさ、ちょっと心配なんだよ。スインって、反射神経が鈍いというか…。別に責めてるんじゃなくて、ただ単に心配でさ」
スインは瞬きをし、遠くを見るような目をした。
「これは、アインにも言ったことない話なんやけど、私、8歳までの記憶がないんよ。時が経ったせいというより、ぽっかり、穴が空いたような。あと、何もしてない時、ちょっとぼんやりしてしまうんよ。目も年中痒いけど、腫れてくることもあらへんし。なんか、不可解なんや」
「やっぱな。病院とか行っても、意味ないのか?」
「行ったことあるけど、もらったのは目薬だけや。ちゃんとやっとっても痒いし。少なくとも、病気とかではない気がするし」
どうやら、本人もわかっていなかったようだ。
「あ、あのさ、もし困ったことあれば、協力するし!」
咄嗟に口を突いて出た言葉が、これだった。絶対に、兄貴の影響を受けている。自分が役に立てる気がしないのに、そんなことを偉そうに言う自分に失笑だ。
「ありがとうな。ちょっと気が楽になったわ」
そう言って、スインは食卓に向かった。なんだか引っかかるような気がするが、気のせいだと自分に言い聞かせ、同じように食卓に向かい、コウの手伝いをした。そして、朝食を食べ、一息付いた所で、さあ任務…と言いたい所だが、今日はあいにくの天気というか、激しい雷雨だった。なので、今日の活動は無しになった。雷の中でも、電波が通るのを確認して、俺はとある人物に電話をかけた。さすがに迷惑かなと思いつつかけてみたが、即座に電話に出た。
『おはようございます、エントさん。何かお悩みですか?』
電話に出たのは、猫の国王、ギーヨ様だ。出ないだろうと思っていた人物が出たので、逆に驚いていた。
「おはようございます。あの、スインのことについて、何か知ってること、ないですか?」
ギーヨ様はうーん、と唸って、ペラペラと紙を捲るような音を立てて、
「すみません、僕はあまり詳しくありませんね…。近くとはいえ、国籍は狐の国なので、そちらに聞いたほうがよろしいかと」
「はい。お忙しい中、失礼致しました」
そう言って電話を切った。アインには冷ややかな目で見られるエントだが、それは日常生活の場合であり、こういったときは礼儀はきちんとする方だ。そこは勘違いしないでほしい。次は、ギルド様に電話をかけた。ギルド様もまた、すぐに出た。
『おはようございます。何かお困りでしょうか?』
「おはようございます。さっきギーヨ様にも電話したんですけど、皆さん出るの早いですね」
『王族は、仕事より電話を優先させるものですよ。何よりも、礼儀を重んじる風習がありますから』
「話が変わりますけど、スインのことについて、何か知りませんか?」
『それなら、今から警察署に来て頂けませんか?そこから王宮に行けば、様々な資料があります。そこで調べれば、知りたいこともわかるかもしれません』
「はい!今すぐ行きます!」
素早く電話を切り、リュックに荷物を詰め込んで、傘を差して外に出た。
「用事ができたから行ってくる!」
とだけ言って、警察署まで走った。警察署の階段を一気に駆け上がり、署長室のドアをノックした。
「どうぞ。早かったですね」
中に入ると、ソファに座るように促された。ギルド様が何やら電話で話し、切ったと思ったら、傘を持ち、ドアを開けた。
「さあ、行きますよ。手を握ってください」
一瞬ためらったが、思い切って手を繋ぐと、一瞬宙に浮いた心地がして、再び降りたと思ったら王宮前にいた。ギルド様についていくと、図書館のように本状になった戸籍が並んでいた。ちなみに、これは紙製ではなく、何度も書き足せるように妖気で作られている。ギルド様は迷いもせずに奥へと進んでいき、とある本棚の前で足を止め、一つの冊子を取り出した。
「地域別に区分されているので、ここに載っていると思いますよ。探してみてください。最後の方ですが」
そう言われても、順番にめくっていくと、本当に時代順に並んでおり、生年月日、死んでいる者は没年も、居住地、血液型、家族関係などがこと細やかに書いてあった。やがて、近年の記録のページまで来たが、ほとんどに没年が書いてあり、それは一致していた。これが光逆戦争を表しているのだろう。スインのページにたどり着いたが、不可解な箇所を見つけた。




