第四部 ギルドの夜
その日の夜。ギルドはチーナに呼び出され、約束通りチーナの一時的な部屋に来た。ノックしようと思ったその時、ドアが開いた。
「時間通り。さすがね」
「その言葉、そっくりそのままお返しします。よく気づきましたね。こんなにも妖気を抑えているというのに」
「私があなたを呼んだ理由、分かる?」
「勘づいたのでしょう?私の秘密を。では、情報交換と行きませんか?」
「どうしようかしら。まあ良いわ、とりあえず入って」
チーナの部屋は、少し狭かったが、自室としては十分な広さだった。
「王宮暮らしのあなたは狭く感じる?」
「いえ、そもそも自分の部屋は持っていません」
「じゃあ聞くけど、あなたの生い立ちについて聞かせてくれない?」
「いや、先程答えたので私が質問する番です。いつまでこんな生活をしているのですか?マイさん?」
「本当に勘がいいのね。私はチーナであって、マイじゃない。マイの時の記憶と力があるだけよ。最近、ようやくこの力に慣れて来たの。だから、あの時は負けたけど、今は分からないわよ」
「やはりそうでしたか。あれほどの攻撃を受けて生きていられる所か、すぐに回復してしまう人は、マイしかいません」
「じゃあ、次は私の番よね。ずっと化けてたら窮屈じゃないの?キルラさん?」
「ついにバレてしまいましたか…」
「本当の姿見せてくれない?もちろん誰にも言わないから」
仕方ないので、正直にそうすることにした。化けていた姿より、こちらの方がやっぱりいい。
「本当にすごいよね。あなた。化けた状態であんな技出したら、普通壊れるよ?まあ、あなたは妖気じゃなくて、霊気で戦ってるけど。死者の恨みを使うなんて、私は死んでもしたくないわ。実際、一回死んで生まれ変わってるんだけどね」
「あまり冷やかさないで下さい。今はこの力は制御されていますが、怒りや恨みなどでいつ暴走してもおかしくないのですから」
「分かったわ。ストキと仲良くやるのよ。ようやく掴んだ幸せなんだったら」
そう言って、チーナは妖しく笑い、私を廊下に押しやった。私は、すぐに元の姿に戻り、玄関へ行き、外へ出た。星を眺めていると、足音が聞こえて来て、私の前で止まった。
「誰かにバレたのですか?」
ストキだった。すぐに駆けつけて来たのだろう。パジャマの上から羽織りを羽織っただけだった。
「マイの生まれ変わりだから、大丈夫」
「またそんなことを…。こっちはデレをずっと待っているのに」
「そう言われたって、余程のことがないとああはならない」
小さい頃から、親に甘えられなかった反動か、本当に行き詰まるとストキに甘えてしまうのだ。普段は、どうしても照れ臭くて塩対応になりがちだが。
「ストキ」
「はい」
「どうしたらいいと思う?このことを、フォニックスに伝えるべきか伝えないべきか」
「それは、時が来たら教えればいいと思います。無理に伝える必要はありません。そして、やっぱりあなたの不安そうな顔は可愛らしいですね」
「こっちは真剣に考えてるの!やめてよね!」
「ですが、1番可愛いのはやはり笑っている顔です。最近色々なことが始まって、その大変さにより、笑顔になることが全くありません。たまには、思いっきり笑うのも大切だと思いますよ」
「今日は私ここに泊まるけど、ストキは帰るの?」
「いや、ここにいたくなりました。でも、明日には一緒に帰って下さいね。4人が寂しがります。…なんですか、その嫌そうな顔は」
「なんでわざわざ泊まるの?ここから王宮まではそう遠くないし、フォニックスたちに迷惑が掛かる」
「まあまあ、いいじゃないですか…って、ドアを閉めないで下さいよ!」
ドアを引いて開けようとするストキに、私もドアを内側から引いた。
「謝りますから入れて下さい!」
「入れたら厄介なことになる!庭で寝てればいいじゃん!」
そうやって引き合いをしているうちにドアが外れた。私たちは顔を見合わせ、大急ぎで直す努力をし、なんとかつけることができた。結局、ストキを建物の中に入れてしまった。
「もうこんな時間…」
時計を見ると、朝の3時だった。
「今から寝ておいた方がいいでしょう。背中ぽんぽんしましょうか?」
「こんなのだから入れたくなかったのに!」
「でも、部屋は余っているのですか?」
「…余ってない。だから、私は図書室のソファーで寝るつもり」
「風邪ひきますよ?」
「掛け布団はあるから。ストキはこっちで寝て」
「はあい」
「もう、いっつもこんな調子なんだから…」
ちなみに、これらのやり取りすべては、昼間に寝て結局起きてしまったソウマに聞かれていたことは、全く気づいていなかった。それは、様々な秘密が明らかになった、いつもと少し違う夜だった。やがて寝息が聞こえ始め、隣をみると、ストキが布団をぬいでいたので、仕方なくかけてやった。そして、自分も眠りについた。翌朝、起きて来たフウワに驚かれ、こんな所で寝させてしまったことに対して、本気で謝られたのだった。




