第四部 目標
「さーてと、あなたはどうするつもりなのかしら?」
何も答えないでおいた。その方が賢明だと思ったからである。危険な賭けだとは思うが、やってみるしかない。
「来ないならこちらから。ヘルクロー!」
避けることはしなかった。だが、急所は外してある。
「諦めたの?カッターウインド!」
風に乗って刃が飛んで来たが、これも避けなかった。よし、いい調子だ。このままいけば、あと数回で行けると思う。
「グラスキック!」
さすがに飛ばされて、建物の壁にぶつかった。少し痛かったが、受けたダメージは言う程多くない。
「リーフファング!」
容赦なく噛みつこうとして来たが、腕で受けた。
「この力、利用させてもらうよ」
ここまで間近に来ると、やはり隠していた妖石の存在に気づいたらしい。大きく目を見開いた。
「妖石?まさか…」
「カウンター!」
今まで受けて来たダメージを一気に返すようなイメージでやったのだが、思ったより上手く行った。
「妖石って、ほんと便利…」
なぜ自分が託されたのか分からないが、これはライトさんのお父さんも使っていたものだ。便利なのは分かっていたのだが、こんな機能がある事は通りがかったギルド様に教えてもらった。そういえば、あの人はいつも外に出て散歩をしているような気がするが、それは何かの意図があるのだろうか?そう考えているうちに、土埃が収まった。
「まさか、妖石を持っているとは。あなた一体何者?」
それは、と言いかけて、後ろに気配を感じた。
「フォニックスの、大事な一員だ」
ライトさんだった。たまにみんなの凄さに気後れしそうになったり、自分は相応しいのか不安になったりしたが、一員と認められていたことが嬉しかった。
「フォニックスって、国軍の分類に入るのかしら?」
「そうなりますね」
ギーヨ様がやって来た。
「国軍は、嫌いよ。猫の国王とも繋がっていたのね」
「降参しますか?そうすればまだ罪は軽くなります」
「ギーヨ様!」
気がつくと、叫んでいた。
「アインさん?」
「お気持ちは嬉しいんですが…。この戦い、自分の乗り越えるべき壁だと思うんです。だから、やれるところまでやらせてください!」
ギーヨ様は微笑んだ。
「乗り越えるべき壁ですか…。分かりました。ただ、真のピンチが訪れた時は助けますから」
「他の奴は任せとけ!がんばれよ!」
「ありがとうございます!ギーヨ様!ライトさん!」
「私を乗り越えるべき壁と言うなんて、大きく出たわね。戦いでこんな光栄に思ったこと、初めてかもしれない」
最後は小さく言ったが、はっきり聞こえた。その言葉から彼女の波乱の人生を感じさせた。
「アイスクロー!」
片手だけだったのに、両手で出せるようになった。
「受けて立つわ。ヘルクロー!」
結果は五分五分といった感じだ。
「特別に、ひとつだけいいことを教えてあげる。本当に愛する人がいるんだったら、意地でも守ってあげなさい。たとえ相手が誰だとしても」
フィーナは強い眼差しで言った。でも、自分の大切な人は逆に守ってくれるような人だ。
「フラワービーム!」
「フロストビーム!」
二つの技はほぼ同時に放たれた。
「ありがとう。なんだかこっちが色々学んだような気がするわ」
私は目を見開いたあと、頷き、力を振り絞ってビームを強めた。大きな爆発音と共に、フィーナは倒れていった。
「お疲れ様。アイン」
後ろから姉さんの声がすると、一気に力が抜けていく感覚に襲われ、その場に座り込んだ。
「どうやった?今日の戦い」
姉さんは隣に座った。
「私の中で、戦士としての目標ができた」
「聞かせてくれやん?誰にも言わんから」
「うん。戦いを通じて、私たちみたいに戦争に振り回された人たちを救えたら、って思う。さっき戦った人たちも、やったことは消せないけれど、罪を償った上で次の一歩を踏み出す手伝いが出来たらなって」
「いい目標ですね」
「ギーヨ様!盗み聞きなんてひどいです!」
「盗み聞きではありません。丁度聞こえただけです」
「そうですか。あと、もう一つあって」
「なんですか?」
「ギーヨ様に守られてばかりだから、いつかギーヨ様を守れるような戦士になりたいなあって」
「大きく出たなあ」
「光栄ですね。頑張ってください」
そのまま、ギーヨ様はスタスタどこかへ歩いて行ってしまった。
「アインー!スインー!そろそろ帰るぞー!」
「今行く!」
気がつくと、みんな荷造りを終えていた。私たちは慌てて準備をした。気がつくと、ギーヨ様は居なくなっていた。もう帰ったのだろう。帰り道、ぼんやりと考え事をしていた。また一つ、託された。シンという人と、妖石の中にあるライトさんのお父さんの思いと妖気。この妖石が、私とライトさんに大きな影響を及ぼし、シンという人が、フォニックスと狐の国の命運を大きく変えることになるとは、この頃の自分は思いもしなかったのである。




