第三部 知らない事実
それにしても、すごい狙撃力だ。もしかしたら、姉さんの上を言っているかもしれない。自分には遠距離や近距離などの正確な攻撃範囲が決まっていないので、戦いづらい。
「テンアロー!」
10本同時に、しかも全て別方向に矢が飛んで来た。
「ど、どういう原理?」
なんて、考えてもしょうがない。遠距離で応戦しても勝てる気がしないし、かと言って近づいて近距離で攻撃できる可能性はほぼない。ソウマさんなら、無理矢理にでも近づいて行きそうな気がするが、私はそんなにタフじゃない。次々に相手は撃ってく…。
「あ、そうか」
私は道路を走り始めた。
「それで逃げているつもりか!妖気がダダ漏れだぞ!」
「わっ」
「捉えたぞ!サウザンアロー!」
相手は大量の矢を撃って、命中させた。しかし。
「氷塊…」
「そう。移動して、撃って来たタイミングで氷塊を作ってそれを命中させ、気を引きながら近づいたって訳。アイスクロー!」
「嵌められた…!」
命中したケイルの足は凍り始めた。私は再び姿をくらませた。
「2度も同じ手に引っかかる程馬鹿ではない!」
相手は妖気を落ち着いて探り始めた。
「すぐ…後ろに?」
「2度も同じ手に引っかかると思ってる程こっちも馬鹿じゃないの。フロストウインド!」
再びケイルの足を凍らせた。
「足ばかりを凍らせて、何の意味があるんだ!」
「それは、もうすぐ分かる」
今度は大木の上に登った。
「的が動かないのなら、こちらが有利だ!ハンドレットアロー!」
しかし、矢はどんどん失速していき、私の所に届く前に落ちていった。
「私は2つの仮説を立てた。矢の速さには限界があって重力の影響はあること。そして、矢の数には限りがあること」
「なぜ分かった!」
「大体分かる。そして、おかげでこの技が当てられる。つららの雨!」
ドンという音がし、しばらくして土埃が収まると、倒れているケイルを見つけた。
「…くれ」
「ん?」
そっと近づいて行くと声がはっきり聞こえた。
「もう戦う気は無い。だから、聞いてくれ」
どうやら、嘘ではないらしい。
「いいけど。ちょっとだけね」
「俺たち紫の目をした闇狐は、戦争を起こした悪の象徴のように思われているが、実際は違うのだ。土地を奪われた父たちが取り戻そうとしただけなのだ。実は、生き残りは俺を除いてもう1人いる。彼は、目を隠してある街でひっそりと暮らしている。一つだけお願いがある。もし、彼とお前たちが出会うようなことがあったら、よろしく頼む。シンは、人を信じる心を失ってしまっている」
そのまま、ケイルは気を失った。
「なんか、複雑な気持ち」
シンと言う人がいるのか。義理はないけれど、もし見かけたら助けてあげようと密かに思ったのだった。
「で、盗み聞きをしているあなたは何なの?」
茂みから誰かが出て来た。
「なあに。不甲斐ない部下の尻拭いをしに来たら、この様だ。敵に願い事をするような情け無い部下は不要だ」
心から、彼女がそう思っているのが伝わってきた。ケイルとは違う、掴みどころの無い悪意。おそらく、ケイルは無理矢理戦わされていたのだろう。
「私は草猫のフィーナ。人呼んで、惨殺のフィーナよ」
フィーナは、爪を出して、ジリジリ迫って来た。
「さあ、あなたの悲鳴を聞かせてちょうだい」
一瞬の隙に引っ掻いて来たところを、ギリギリかわした。今度は、かなりのスピードがある近距離だ。同じ草属性でも、両方のソウマさんとも、コウとも違う。妖気は人格によって全く別物だと思う。
「あら、悲鳴はお預けね」
「ジェットつらら!」
やはり、すんなりかわされた。
「遅いわねえ。こんなので私を倒せるって、いつ勘違いしたの?」
「スピードもパワーも足りない…」
「あら、自分で気づくなんてえらいじゃない。本当の馬鹿はこれでも気づかないんだから。ご褒美に、楽に逝かせてあげるわ」
先程の攻撃は明らかに急所を狙っていた。これは、本当に殺しに来ているということだろう。
「あ、でも、本部が捕らえて来いって言ってたわね。仕方ないわね、あなたは気絶だけで許してあげる。他の子たちは別だけど」
そんなに自分に価値があるのだろうか?それならもっと戦闘力のある人にすれば良いのに。
「どっちがいい?先に気絶して運ばれて行くか、あなたのお仲間が死んでいくのを見てから気絶するか」
確かに、勝てる見込みは全くない。かと言って、みんながそんなことをされているのを何も出来ずに見るのは嫌だ。私は心に決めた。
「先に気絶する…にします」
フィーナは目を細めた。
「そんなにお仲間が好きなの?順番が変わっただけで、結末は変わらないような気がするけど」
「変えてみせる!運命を私の手で!」
「あら、不愉快」
フィーナの妖気は怒りに満ち、さらに大きくなって行った。気づいたら、さっきの選択をしていた。これは、みんなのおかげで変われたということだろう。だからこそ、守りたいのだ。少しでも相手の体力を削れるかもしれないし。




