プロローグ 出入り口にて
もう今年も終わる、12月。フウワは憂鬱な気持ちだった。先の通り、フウワには人間界に弟がいる。一時期、フウワは外交官になって会いに行こうとしたことがあり、勉強のために生活費から捻出したお金で塾に通ったことがあった。そこで仲の良い友達が出来、その子にだけ自分が半妖であることを話したら、なぜか広まり、いじめにあったので塾を辞め、諦めてしまった。本当ならぶっ飛ばしたかったが、塾でそんなことは出来なかったし、資格を取る時に落とされてしまうかもしれなかったからだ。そして、そいつがもう2年程経つというのに今更謝りたいと電話して来たのだった。一回行かないで無視してやろうかとも思ったが、それで何か言われるのは嫌なので、明日行くことにした。そして、今に至る。今は任務が終わって夕飯を食べていた。
「フウワさん?浮かない顔してどうしたの?」
みんなが思い思いに話している中、ソウマが声を掛けて来た。
「いや、明日ちょっと面倒な予定があるってだけだ?」
「どんな?」
『どんな?』と言われてもあまり言いたくなかったので、
「昔ちょっといざこざがあった奴が謝りたいって」
とだけ言っておいた。
「じゃあ、僕もついていくよ?」
「ソ、ソウマは関係無いだろ」
それに、2人きりなんて心臓がもたないし。と声にならない声を上げた。
「熱でもあんのか?フウワ」
「いやいや、照れ…」
私は反射的にライトの口を塞いだ。口についていたミートソースが手に付いたが、後で拭けばいい。
「それ以上は言うな」
「はあい」
私はミートソースをティッシュで拭きながら、どうしようかと考えていた。
「あ、大丈夫だよ。その人と話す時は隠れてるし。フウワさんがピンチになったら助けるかもだけど」
「わ、私はピンチになったりしない!付いて来たかったら勝手にしろ!」
本当は嬉しいというのに何故かこんなことを言ってしまう。
次の日。指定された場所は、世界の出入り口の前、外交官の集う場所だった。結局、ソウマは付いて来たが、もう一つの姿、レッドフォルムだった。
「ええと、分かれ道はどっちだったっけ…」
私は地図を取り出した。
「方角的にこっちだろう。先行くから。ついて来い」
「あ、ありがと」
いつものソウマ、グレーフォルムは愛らしいが、こっちは頼り甲斐がある。
先を進むソウマを見ていたら、あっという間に目的地についた。気を引き締め無ければ。
「じゃあ、俺はあそこの店に行く。俺の視界には入るし、向こうからはただの買い物客にしか見えないだろう」
ソウマを見送っていると、
「あの、フウワだよね!」
と声を掛けられ振り返ると、
「お前か」
やはりかつての友達だった。
「ごめんなさい!悪気は無かったの。ただ、フウワが自分より優秀で、嫉妬してただけなの!」
周りにはかつて塾で一緒だったメンバーがいて、「許してあげて」とか、「嫉妬は誰でもしてしまうものでしょう?」とか言っている。フウワは複雑な気持ちになった。許せないという気持ちと、これがあったからこそフォニックスに入れたとか、別にもう過ぎたこととか許せる気持ちもあった。フウワは懸命に笑みを浮かべて、
「もう過ぎたことだし、今はもう気にしてないよ」
と言った。かつての友達は安堵の表情を浮かべた。なんだかこの謝罪は償いというより許してもらうためだったような気がして来て、急に怒りが込み上げて来た。でも、相手は外交官だ。殴るなんてことをしたら罪に問われるかもしれないし、自分は半妖だ。こういうことはいくらでもあるのかもしれない。俯いていると、急に誰かが自分の前に立った。ソウマだった。
「こんなのが謝るという行為の内に入っている訳がないだろう。何人もの仲間と一緒に有利な状況を作り、自分の方が上の立場になったうえで。反省や申し訳なさを微塵も感じない」
「あんたは関係ないでしょ!」
「仲間だ。それに、内容なんて関係ない。やり方の話をしている」
「あんた何様よ!」
「それはこっちが言いたい。たかが外交官程度で威張ってるなんて、情け無いな。こっちはその気になれば猫の国王だって呼べる」
相手はぐっと言葉を詰まらせた。しかし、何かを取り出した。
「伏せろ!」
間一髪、何かが自分に勢いよく飛んできた。しかし、技ではないような気がした。なぜなら、謎の物体に妖気を感じなかったからだ。
「人間界で言う、大砲って奴よ。上から指示が下りて来たの。『フウワを消せって』」
「外交官制度を利用されたな」
おそらくブラックスとか言う奴だろう。私たちは、次々に打って来る大砲と言う奴をとりあえずは避けるしかなかった。
「いやー、すごいねえ。人間は。こんな簡単に人を殺せる物をたくさん持ってるなんて」
どうやって手に入れたのかは分からないが、おそらくあまり良くない方法だろう。こんな所にまでブラックスの影響が及んでいることを少し恐ろしく思った。




