第二部 脱出作戦
「見張りは10分おきに来るから、それまでに上手く脱出するよ」
「分かった」
エムルが何者か分からないが、とりあえず今は協力することにした。丁度見張りが通り過ぎて行った。
「よし、行くよ」
エムルはオリを最も簡単に壊し、通路に出て、スインのオリも壊した。
「ほら、早く」
2人は姿を消して通路を横断し、出口を探した。見張りが来るのはもうすぐなので、自分たちがいないことに気づくだろう。だから、なるべく遠い所まで来た。
「うーん、せめて地図があったらいいのに」
スインは周りに1人のまだ入って間も無いような人を見つけた。
「えーっと、倉庫はこっちだよね」
その人は地図を見ながら言った。スインはある方法を思いついた。
「あれ?地図が消えた!」
スインは触れている物なら透明に出来る。しかも、声も消せる。だから、エムルと手を繋いでいるが、全く気になっていない。
「ありがと。気が利くねえ」
「現在地はここやな」
「うん。だから、出口はこっちだね」
2人は走り始めた。
「本当にこっちで合ってんのか?ずいぶんと山奥だけど」
「分かんない。姉さんの妖気はこっちなんだけど」
「道があると思うんだけどなあ」
「あら、お困り?」
背後から聞いたことのある声が聞こえた。
「もしかして、チーナ?」
「おお、あたり。探し物でもしてるの?水狐さんはいないみたいだけど」
「その姉さんを探してるの!手伝ってくれない?」
「まあ、ちょっとだけね」
チーナは目を瞑り、意識を集中させた。
「あら、水狐さんのは感じられないけど、たくさんの人の妖気をあっちに感じるわ」
「チーナ、ありがとう!」
「お安い御用よ」
私たちは、そのまま進んだ。
ようやく出口が見えた所で、例によってコウモリに見つかってしまった。
「逃げようとしても無駄だ。素直に牢屋に帰るんだな」
「やべっ、見つかっちゃった」
「いや、帰る訳には行かへん」
「俺に勝てると思っているのか?」
「何度も同じやり方に引っかかる程アホやない」
「じゃあ、それを行動で示してもらえるかな」
スインは透明になった。
「いくら透明になっても、俺は居場所が分かると言っているだろう。本当に馬鹿じゃないんだよな?ほら、こうやって」
相手は攻撃をしたが、それは水で作った囮だ。
「逆に超音波を利用された…?」
遠くからの攻撃なら、それなりに使える。
「ウォータースプラッシュ」
相手が体勢を整える前に攻撃出来て良かった。この隙に、スインはある技の準備をし始めた。
「ちっ。超音波だと引っかかるし、かと言って他に手段は無い」
「誰か忘れてない?スピンダッシュ!」
エムルはアルマジロのようだ。確か、アルマジロはネズミの国のある町に住んでいたはずだ。
「せめてこいつだけでも!」
「おかげで十分準備が出来たわ。ウェーブクラッシュ!」
「結構いい技だね」
相手は倒れたが、仲間が次々に来た。
「囲まれちゃったね。しかも、コウモリは9人も」
9人もいるとなると、分身もたくさん必要になってくる。勝算はほとんどないといえるだろう。いや、9人もいるのなら。スインは姿を消した。当然、9人一斉にやって来た。そこでだ。スインはそのうちの1人に触れ、透明にした。8人の動きが一瞬鈍くなった。おそらく、仲間を攻撃しないようにどこいいるのか調べているのだろう。狙い通りだ。
「頼むで、エムル」
「オッケー、雑魚ばっかじゃつまんないから。バウンドタッチ!」
エムルはボール状になり、壁や床、天井で跳ね返って相手にぶつかった。自分は掴んだ1人を投げた。この人は、さっき地図を持っていた人だった。その人は他の人に当たり、お互いの体勢を崩した。
「隙あり。ウォーターアロー!」
2人を攻撃すると同時に、壁に刺さった矢をエムルは上手く使った。
「後はそんなに強くないわ」
コウモリを含め、やって来た人を全て倒すことができた。
「僕たち、意外といいコンビかもよ?」
「どうやろな」
すると、拍手が聞こえた。
「いやあ、9人のコウモリを、そんな方法で倒してしまうとは。面白い戦いだったよ」
「誰なん?」
「私はここの中では最強の戦士だ。まさか私まで戦うことになるとは。部下の質が少々悪かったかな?」
今までの相手とは段違いな事がよく分かった。ぱっと見は犬だが、どんな攻撃を仕掛けてくるのか、全く分からなかった。
「わあ、強そうな人。戦うのは、こういう人じゃなきゃあ」
エムルはずいぶんと呑気だった。その呑気さ、半分でいいから欲しいと思ったが、そんなことを考えている場合ではない。
「ワイルドチェンジ!」
相手の体は大きくなり、牙が目立つようになり、爪もさらに伸びた。一番変わったのは、そもそも大きかった妖気がさらに大きくなった事だ。自分が戦って敵う相手なのか、少し不安になった。




