プロローグ スインの思い出に迫る影
11月の夜。スインは何故か眠れなかった。
「もう12時や。明日6時に起きるのに」
そんな小さな独り言は、夜中の静寂に吸い込まれていった。とりあえず、目を閉じてゴロゴロしていても、全く眠気が来なかった。
「スイン?大丈夫か?」
結局ほとんど眠れなかった。
「うん。昨日寝れなかっただけ」
スインはあくびをした。
「寝不足は体に悪いよ。姉さん」
分かっている。分かっているけど、寝られなかったのは仕方がない。
「今日やる任務は…」
ライトがそこまで言った時、バアンとドアが開き、キョウが入って来た。
「どうしたんですか?キョウさん」
キョウさんの姿を目の当たりにしたというのに、未ださん付けが抜けない。
「スインさん、あの海が大変なことに…」
一気に目が覚めた。朝ごはんを食べている場合ではない。
「行ってくる!」
「姉さん?」
スインはとりあえず海に向かった。
スインが走って行った後。
「アイン、『あの海』って何かわかるか?」
「分からない。姉さんにとっては特別な場所なのかもしれない。ギーヨ様にも聞いてみる」
「ああ。俺たちは準備をするから、そっちはよろしくな」
早速電話をかけると、1分も経たずに出てくれた。
『どうしましたか?』
「姉さんがどこに行ったか、分かりませんか?」
『はい。住所を教えますので、そこに向かってください』
「はい!」
「決して無理はなさらずに」
ギーヨ様は住所を言って、電話を切った。
「アイン、行けるか?」
「うん!早く行かなきゃ!」
スインがそこにつくと、10人程の集団が海岸の祠を壊そうとしていた。すかさず、スインは技を当てた。
「何しとるん?祠には触らんといて」
「フォニックスか。先月、1人倒したようだな。まあ、あいつは利用していただけだが」
「そっちは誰なん?」
「答えるかよ。まんまとおびき出されたな。こんな岩が大切なのか?それに、お前だけで俺たちに勝てる訳が無い」
「私は勝つために戦うんやない。大切な物を守るために戦うんや」
「へえ。お前の大切な物を守りたいなら、俺たちを倒してみろ」
スインは透明になったが、何故か居場所がバレてしまった。
「俺にかかれば、お前の居場所を突き止めることなんて造作もない」
「コウモリ…」
よりによって、コウモリと出会してしまった。キョウさんも他の用事が入って、一緒に来ていない。
「真っ向勝負で行けってことか」
スインは近接攻撃が苦手だし、相手は10人いる。不利な要素しか無い。
「ウォータータックル!」
練習中のこの技は極力使いたくなかったが、致し方ない。やっぱり、あまり効いていなかった。
「影撃ち」
スインはあっさりと捕まってしまった。
アインはその住所通りに海岸に来たが、すでに姉さんの姿はなかった。
「ここで合ってるのか?」
「うん。もしかしたら、捕まっちゃったとか…」
「スインに限って、そんなことあるのか?」
「あるよ!姉さんの特殊能力には欠点があって、イネイさんみたいに五感の鋭い人や、超音波が使えるコウモリには居場所が分かっちゃうの…」
「この足跡は、コウモリのものじゃないか?」
「どうしよう…」
スインは目を覚ました。ここは相手の基地なのかもしれない。スインのいる所は牢屋だった。牢屋の前には定期的に見張りがやって来た。一体、自分を捕まえてどうしようというのだろう。
「やあ」
隣から声が聞こえた。
「僕、エムル。君は?」
「私はスイン。ここはどこなん?」
「ここはブラックスっていう組織の牢獄らしいよ。ダサい名前だよね」
「なんか目的があるの?」
「うん。ある能力に長けた物を集めて、無理矢理引き込もうとしてるんだ。僕もうここに2ヶ月いるよ」
「それは困るなあ」
「ねえ。君の特殊能力は何?」
「透化やなあ。それがどうしたん?」
「ねえ、一緒に脱獄しない?僕、この檻なんてすぐ壊せるけど、そのあとすぐ見つかりそうだったから」
「本当に大丈夫かなあ」
「うーん、何か手掛かりがあれば…」
みんなはいい方法がないか探していた。
「とはいえ、イネイは今日忙しいみたいだし」
「足跡はどれがスインのかなんて全く分からん」
「ああ、もう、いっそのこと、棒倒しで決めないか?」
「そんなので見つかるとでも?」
「それ以外なんかあんのか?」
「無いけど…」
「ん?足跡はわからなくても、妖気で分かるんじゃないか?」
「そうだな!でも、スインってどんな妖気だったっけ?」
「それなら、私が」
うっすらだけど、こっちに姉さんの妖気を感じた。
「こっちだと思う!」
「よし!そのまま進んで行ったら、スインに会えるかも!」
「敵地に入るんだ。しっかりと準備をしておけよ」
みんなは緊張した様子で、先へ進んだ。姉さんが何もされていない事を祈る。散々姉さんに助けられて来たのだから、少しは恩返ししたいとずっと思っていた。だから、姉さんの助けになれるよう、頑張ろうと思った。




