第三部 1つの体に2つの心
「仕方ない。お前が死ねば俺も死ぬ訳だし、手伝ってやるか」
「ちっ…!まあいい!お前の動きは1度見ているからな!」
「ふーん。見切れたかどうか、確かめてみなよ」
そういうとソウマは跳び上がった。おそらく自分がテールハンドを使ってもあそこまでは跳べないだろう。
「遠距離はお前の方が得意だ。頼むぞ、もう1人の俺」
「分かった。リーフストーム!」
「ふん!こんな技がこの俺に通用すると思ったのか!」
「残念。それは囮だ」
ソウマは相手の背後に立った。
「いつの間に入れ替わってここまで移動したんだ…」
「頭の中で会話出来んだよ。グラスナックル」
技は見事に直撃した。
「仕留められなかったか。しぶといやつだ」
「これでもくらえ!ポイズンウェーブ!」
ソウマは木の枝に乗り飛び移りながら見事にかわした。
「森においてその技は意味をなさない」
しかし、自分たちはそうはいかなかった。
「こうなったら、凍らせてっ!」
アインは技を凍らせたが、まだまだ残った。
「スイン!波には波だ!」
「やって見る。ジェットウェーブ!」
スインの勢いの方が強く、なんとか押し返せた。
「た、助かったあ」
「近くにいるだけでも危ないな。帰ってもいいんだぞ、イネイ?」
ライトの言葉にみんながイネイの方を向くと、イネイは体を木に預けて寝ていた。
「風邪ひくぞ!」
「あ、そうだ!いいやつがある!」
ライトは鞄をゴソゴソと探り、一着の上着を取り出した。
「なんだそれ?」
「いやあ、母ちゃんの仕送りなんだけど、ちょっと小さくて」
「そのままずっと入れてたのか…」
それはともかく、ソウマの方を見ると、最初は優勢だったが、妖力の関係で五分五分になっていた。むしろ、少し劣勢かもしれない。
「さっきまでの勢いはどうした?」
「くっ…!」
「どうやら、さっきの毒がまわってきたようだな。これで終わりだ」
「ソウマ!」
すると、動物たちが走ってきて、懸命に相手に攻撃を始めた。
「ふん、時間稼ぎにもならん」
動物たちはあっけなく蹴り飛ばされたが、また向かって行った。
「やれやれ。学習も出来ない馬鹿な動物たちだ。そんなに死にたいのなら、望み通り、殺してやろう」
相手はまたポイズンウェーブを出した。すると、みんなの体が光り始めた。
「な、何だ?」
「彼らは動物から妖獣になろうとしています!」
イネイは飛び起きて言った。
「妖獣?」
「はい、言葉こそ話せませんが、妖力と属性を持ち、人の言葉を理解する知能を持ち合わせています。変化は私も初めて見ました!」
光が収まると、みんな前よりも大きく、妖気を感じた。
「妖獣!?馬鹿な、こんな山奥にいた野生動物がなれるはずなどない!」
みんなは攻撃を始めた。イネイの言った通り、それぞれ属性が違い、技も1匹1匹違った。
「何度も何度も、イライラさせてくれる奴らだ!」
「ありがと、みんな」
ソウマが立ち上がった。妖獣がやったのか毒は消えており、妖力も少しは回復していた。
「さあ、続きを始めようか」
ソウマは木の枝に飛び乗り、身を潜めた。
「ここか!」
しかし、それは草の塊だった。
「どこだ!」
「まんまと騙されたな。ポイズンパンチ」
「正々堂々と戦え!卑怯者!」
「卑怯はどっちだよ!ロル君達を利用して!今までもそうだった!もう許さないよ!」
「お前に許してもらおうと微塵も思っていない!ポイズンストーム!」
「それはもう見切った。同じ作戦に2度も引っかかるほど馬鹿じゃない」
「ちっ…!」
「なんでソウマが一気に優勢になったんだ?」
思わず心の声が口から出た。
そしたら、イネイが答えた。
「毒や体力の回復、そして何より…」
「何より?」
「妖獣達が妖力を供給してくれています。なので、残り妖力を気にせず技が使えるようになっています」
へえ、と相槌を打ったら、辺りが緑色に包まれた。
「グラスヒールです!一度使っただけなのに…もう使いこなしています!」
「なんか意味あんのか?」
「グラスヒールの副効果として、辺りの植物が育つんです」
「うわあ、びっくりした」
アインの足元から木が生えていた。同様に、広場だった所に木が生え、森になった。即座に、ソウマは木々の中へと入って行き、姿を消した。
「どこへ行った!」
「森の中なら、俺の方が有利だ。そろそろカタをつけてやる」
「ポイズンウェーブ!全て溶かしてやる!」
一気に波が押し寄せて来た。
「まただ!イネイ、下がってろ!」
「いいえ。妖獣さん。手伝ってください」
イネイは馬に乗った。
「え?」
「馬さん、ロックウォール!」
岩の壁ができ、波を堰き止めた。
「すげえ!イネイ!」
「ありがとうございます。ライトさん。でも、そんなに難しいことではありません」
「みんな!あれを見ろ!」
エントの言葉に、みんなが振り向くと、巨大な妖気で出来た玉があった。




