プロローグ 絆と幻の技
もう今年も10月だ。今年は色々と充実していた。そろそろ、オスコが今山に来てくれる頃だろうと思っていたある日。
「ライトさん!大変です!」
イネイさんが庭にやって来た。
「どうした?近くで何かあったのか?」
「それが、今山の動物たちが暴れ出したんです!しかも、町まで降りて来て人を襲うなど、周辺ではトラブルになってるんです!」
「ソウマ?」
「僕、行くよ!」
「待てよ!」
「いや、みんなは理由も無しにそんなことはしない。だから、何か事情があるんだと思う。早く行かなきゃ!」
ライト君の気持ちも分かるけど、彼らを悪者にしたくない。だから、噂が広まる前に何としても止めなければならない。町に行くと、本当に牛が暴れていた。
「ギュー君!ソウマだよ。どうしたの?」
牛、ギュー君は嬉しそうな顔をしたが、僕に突進して来た。
「ギュー君?」
しかも、スピードが上がっているような気がする。そして、こんな妖気は感じなかったはずだ。
「操られてる…?」
でも、オスコの時とは違う感じで、ただ暴れるように仕向けているような気がする。どっちにしろ、人為的なものだが、手掛かりがない以上どうにもならなかった。
「ギュー君、ごめんね。ちょっと寝てて」
特製の眠りごなで眠らせておいた。
「ソウマ!」
「みんな!」
「何1人で背負おうとしてんだ!ちょっとは仲間を頼れ!そうした方が絶対早く解決できる!」
「ライト君…」
「それにしても、ギュー君って。まんまじゃねえか」
エント君が吹き出した。
「ちょっ、エント君!」
「今そんな事どうでもいい!分かったことはあるか?」
「うん。操られてる気がするんだ」
「オスコが怪しいぞ!あいつの特殊能力は操りだからな!」
「エント!んな訳あるか!」
フウワさんがエント君を襲った。
「わ、分かりました!許して下さいーっ!」
「うーん、でも、なんか違和感あるなあ。わざわざ、なんで今山の動物たちなんやろ?」
「登ってみたら分かるかも」
「よし、今山の2回目の事件も解決してやるぜ!」
「なら、これを使って。6個に分けてあるから」
「粉?なんだこれ」
「僕特製、眠りごなだよ。動物たちを傷つける訳にはいかないから」
「ソウマ!こんな怪しげな薬作ってたのか!」
「あくまで戦闘用だし、別に怪しくなんてないよ!」
今山の頂上に近づくにつれて、動物たちがたくさんいた。とりあえず眠りごなで眠らせているが、起きたら襲ってくるので、早めに決着をつけなければならない。
「ロル君、落ち着いて!」
狼、ロル君は僕の腕に噛みついて来た。なんだか出会った時のことを思い出す。
「ソウマ!」
「駄目だ!ソウマに当たったらどうする!」
「ロル君…懐かしいね。よくこうやって噛みついて来てさ。最初はどうしようかと思ったよ。でも、君は誰よりも僕を大切にしてくれた。君はこんなことなんてしたくないはずだ」
「ソウマ!離れろ!」
「いや、ロル君は大丈夫。こんな操り破れるから!」
ロル君、頑張って…そう思ったら、辺り一面が緑色になり、暖かな風が吹いて来た。
「な、なんだ、これ」
「グラスヒールです!確か、この技はもう500年前に使える人物はいなくなったはず…幻の技です」
「本当か?イネイ」
「はい!歴史書で見ました!」
「ソウマさん」
「ギルド様?」
「あなたはやはり、そういうことでしたか」
「えっ?」
「なんでもありません。それより、動物たちを見てみてください」
「す、すごい…」
暴れていたはずの動物は正気を取り戻し、ロル君に噛まれた跡も何事もなかったかのように消えていた。
「この技は一定の範囲内の治したいと思った対象だけ治せるという、優れた技なんですよ。でも、妖力を全体の30%消費するそうです」
視界にギーヨ様が見えた。どうやら、この技の気配を察知したようだ。
「他の技使わなくても3回だね。大切に使わなきゃ」
すると、
「待って下さい!ギーヨ様!仕事中です!」
というキョウさんの声がした。
「ソウマさん!素晴らしいです!歴史に残る偉業です!」
ギーヨ様がキラキラした目で見て来た。
「そ、そんなに?」
「ソウマすげー!どうやったらそうなったんだ?」
「そんなこと言われても…」
「エントさん。どいてください」
エント君の体が浮かび上がった。
「ぎゃあ!怖い怖い怖い!」
「お前、ホラー映画だけじゃなくて、高い所も苦手なのか…」
「それよりさ」
「ライト君が僕とギーヨ様の間に入ってきた。
「まだ解決した訳じゃないんだから。その話は後で」
「ほら!ギーヨ様!帰りますよ!」
キョウさんがギーヨ様を引き摺って帰って行った。山を登っていくと、妖気が強まってきた。頂上に黒幕がいるのだろう。ついつい速足になる。
「待ってくれえ。みんなあ」
「お前が遅いんだよ!さっさと来い!」
「昨日の特訓のせいで筋肉痛なんだよ!」
「もう!ちょっと待つから早く来い!」
フウワさんって、荒っぽいけど、世話焼きだと思う。弟がいるんだろうか?だとしたら少し羨ましい。




