プロローグ 狙われた王の側近
九月、猫の国。王の側近であるキョウは、重いため息をついた。ギーヨ様がフォニックスを気にかけ、すっぽかした仕事がこちらに回ってくるのだ。大体、あの集団に何があるというのだ。これ以上仲を深めると、反感を買いかねない。実際、彼らは自分なんかよりずっと戦いに長けているけど。キョウは元々戦いが得意ではないのだ。そんなことを考えていたら、もう王宮が見えて来た。今日からまた仕事だ。1日しか休んでいないのに。隣の茂みががさっと音を立てた。鈍い自分は振り向くのが遅く、伸びて来た手に気づくのに遅れ、いとも簡単に捕まってしまった。その姿を見る前に、キョウは気を失った。
「見つからないんですよ。キョウが」
俺たちが朝食をとり、さあどの依頼を受けようか、と言っていた時にギーヨ様はやって来た。しかし、彼の顔は今までで1番真面目だった。
「見つからない?」
「はい。王宮に来ないと思って家を見に行かせたり、周辺を探させたりしたのですが、全く見つからないんですよ」
仕事が嫌になって逃げ出すこともあるだろうが、キョウに限ってそんなことはないだろう。となると、さらわれた可能性もあるのだが…
「キョウさんがさらわれることなんて、そんなことはないでしょうし…」
「いや、彼ならあり得てしまうかもしれません」
「え?」
「見かけによらずドジで鈍いので、奇襲攻撃ぐらいしか出来ないんですよ。あと、どんな相手でも殺すことが出来ません」
ひどい言いような気がするが、確かに彼は優しすぎるのだろう。
「もしさらわれたとしたら、通った道を確認して行けばいいと思います」
「そうなりますね。どうか、手伝って頂けないでしょうか」
そう言ってギーヨ様が頭を下げた。
「ギーヨ様!立場はあなたの方が上です!頭を上げてください!」
「それに、キョウさんが逃げ出した可能性だってありますし!」
「彼はそんなことはしないということは、僕が一番分かっています。それに、彼を取り戻すためなら、そんなことなんて気にしません」
「ギーヨ様…」
ギーヨ様は思っていた倍以上にキョウさんを大切に思っているようだ。側近はたくさんいるけれど、その中でも思い入れが深いのかもしれない。それがキョウさんに伝わっているといいけれど。
「行こうよ!みんな!僕はギーヨ様の思いをキョウさんに伝えてあげたい」
今まで何も話さなかったソウマが、突然立ち上がってそう言った。彼もギルド様にに認めてもらえるよう頑張っているのだろう。勘違いかもしれないが、気持ちが落ち着かないのだろう。
「ソウマ。ありがとな。おかげでやる気が出た。みんなは?」
みんなも相槌をうった。
「ありがとうございます。そうですよね。周りがなんと言おうと、このことについては自分自ら行動しようと思います。守りたいものは自分で守らなければいけないですよね」
「最大限の手助けはします。絶対に見つけましょう」
「とはいえ、これでサボっているだけだったら、狐の国までぶっ飛ばしますけどね」
みんなが凍りついた。
「冗談ですよ」
笑えない冗談だ。キョウさんが本当に捕まっていることを願いながら、俺たちは動き出した。
俺たちはとりあえず周辺を探したが、どこにいるか見当もつかなかった。
「うーん、どうにか出来ないかなあ」
とはいえ、これ以上イネイに頼るのもどうかと思う。
「何か手掛かりがあれば…あれ?ソウマは?」
辺りを見回すと熱心に草を眺めていた。
「ソウマ!今は関係ないだろ!」
「狐の国にはない草が…ああっ!」
ソウマは半ば無理矢理に連れて行かれた。
「ライト君!」
「また草の話か?」
「違うよ!あそこの茂みの葉っぱが不自然に落ちてるんだよ!」
確かに、言われてみるとそうだ。
「じゃあ、この先を進んでいくか」
慎重に茂みを抜け、しばらく歩くと森が開けていた。隠れて様子を伺うと、驚いた。蛇がそこにいたのだ。しかも、キョウさんが捉えられていた。
「氷狐はどこだ!」
「知りません!」
「嘘をついていることなど分かっている。言わなければどうなるか知っているだろうな」
「僕は未熟だとしても王の側近であり、この国の王族なんです。決して知り合いを売るような恥ずべきことはしません!」
「そうやってカッコつけていられるのも今のうちだぞ?」
キョウさんは思っていたより大物かもしれない。
「アイン?」
アインは立ち上がった。
「私のせいでキョウさんが苦しむなんて見てられない!」
「アイン!待て!お前が行ったらどうなるか分かってるのか!」
俺は思わずアインの尻尾を掴んだ。
「そこに何かいるな。調べろ」
しまった。でも、どのみち戦うので、同じかもしれない。
「スイン、アイン。頼むぞ」
2人は頷て消えた。1人の男が前に来た瞬間、俺たちは茂みから飛び出し、男に蹴りかかった。




