第四章 幸せな午前と試練の午後
鼠の国軍の戦いは、団結力があり、あっという間に敵を片付けてしまった。俺は、フウワたちの所へ向かおうとした。
「ヒノガ、フウワたち知らないか?」
「俺は知らん」
「フウワたちなら、王宮の研究所にいる…」
「ありがと!パキラ!なんでそんなに元気ないんだ?」
「さっさと行け!」
「分かった、分かった。どうしたんだ?ヒノガ?」
ヒノガは答えてくれなかった。しばらく走ると、王宮が見えて来たので、そのまま研究所に行った。
「フウワ!アイン!スイン!大丈夫か?」
「大丈夫だが、アインは大丈夫じゃない…」
「え?どういうことだ?」
奥に入ると、氷付けになった国王と、しゃがみ込んだアイン、それを宥めているスインがいた。それでなんとなく理解した。
「アイン、ライト君が来たで」
「アイン…」
「本当は、こんなことしたかった訳じゃないのに…」
「あなたは何も悪くないですよ」
この声は、間違いなくギーヨ様のものだった。
「ギーヨ様!」
「お久しぶりですね、ライトさん。アインさん、あなたは無意識にしていたんですよね?」
「はい…」
「突然変異の方は、何故か無意識に体が動くことがあるそうです。本人に聞きました」
「でも、またこんなことがあったら…」
「本人によると、それをなくす方法があるそうです。あってみたいですか?その方に」
アインの目に光が宿ったような気がした。
その次の日。パキラはぼんやりと目を覚ました。ここはどこなのか分からないが、こんなに寝心地のいい所で寝たのはいつぶりだろう。
「ここは、フォニックスの本拠地ですよ」
「ヒノガ?どうして私ここにいるんだ?」
「ライトが、お礼に罪を帳消しにしてくれるそうです。甘いですね、あいつは」
「私も?」
「もちろんです」
その時、誰かがドアを叩いた。
「ヒノガ、パキラ起きたか?」
「ああ。今行く」
声の主は通り過ぎて行った。
「それでは、行きましょうか」
「ど、どこに?」
「行けば分かります」
階段を降りた先には、みんなが集まっていた。
「ハッピーバースデー!パキラ!」
みんなが一斉にクラッカーを鳴らした。
「どうして…」
知ってるの?と続けることは出来なかった。
「パキラさん。僕の特殊能力は“分析”ですよ」
「ヒノガ!なんでパキラと話す時だけ優しいんだよ!俺にも優しくしてくれたっていいじゃないか!」
「うるさい。おめでとうございます。21歳の誕生日」
分析されるのは、少し怖いが、話が早くていいと思った。彼は、何かの草を渡して来た。名前はさっぱりわからないが。
「アイビーだね。花言葉は色々あるけど、結婚だよ。ヒノガも面白いことするね」
聞き覚えのない声だった。しかし、ライトはその人に歩み寄っていた。
「ソウマ!もう大丈夫なのか?」
「うん。ライトく…」
「ヒノガ!お前そんなことする奴だったのか?」
エントが丁度被せて来た。
「黙れ」
私の頬は熱を持った。その後どうしたのかは、言うまでもない。
幸せな雰囲気の午前が終わり、アインは緊張しながらも猫の国王宮へ向かった。近くまで来ると、キョウさんが出迎えてくれた。
「お待ちしておりました!ギーヨ様はこちらにいらっしゃいます!」
掃除の行き届いた廊下をまっすぐ進むと、キョウさんは一つのドアの前で立ち止まった。キョウさんに促され中に入ると、部屋の中心に大きなテーブルがあり、ギーヨ様とあと1人知らない人がいた。
「アインさん。こちらの方は、岩猫のストキさんです。どうぞ、おかけください」
席に座ると、紅茶が運ばれてきた。でも、緊張して飲む気にはなれなかった。
「アインさんですよね。確か、体が勝手に動くことを悩んでいらっしゃると」
「は、はい」
「僕も若い頃は、ずっとそれに悩まされていました」
ストキさんは、同情の目を向けてくれた。
「でも、それは簡単に防ぐことができます」
「ど、どうやって、ですか?」
「アインさんは、妖石を知っていますか?」
「なんですか?それ」
「妖石とは、使っていない妖力を貯めておくものです。それは意思によって取り出せるので、妖力を動力源とする私たちの体は無意識に動かない、という訳です」
「それはどこにあるんですか?」
「実は、もう持って来ているんです。でも、妖石に気に入られる必要があります。それでも、やりますか?」
「はい。絶対に持って帰ります」
「ではこれに触れて下さい」
私が妖石に触れると、勢いよく弾かれた。少し痛かったが気にするほどでもない。
「妖石さん!私は、あなたが必要なんです!」
頭の中で、謎の声が聞こえた。どうしてもというのなら、私に触れてみろ、と。その時、妖石の周りが電気に包まれた。近づくと、電気によってしびれてしまった。誰の言葉だっただろう。どんな時でも、活路はある。その時、気づいた。電気の壁は隙間が少しずつあり、うまくいけば通れる。何度も当たったが、止まってはいられなかった。ようやく辿り着き、私は妖石に触れた。




