第五部 フウワの思い
次の日。フウワは早く起きて特訓しながら、昨日のことを思い出していた。本当に、何も出来なかった。もし自分がエントを早く助けていれば、ソウマは傷つかずに済んだだろうと、考えても仕方ないことを考え続けてしまう。なぜ動けなかったのだろう。知らず知らずのうちに恐怖心を抱いていたのか、自分と重ね合わせていたのかは分からない。でも、もうこんなことにはなりたくない。
「フウちゃん?どうしたん?」
思ったより長い間考え込んでいたらしい。スインの声に驚いてしまった。
「考えてるん?昨日のこと」
スインは妙な所で勘が鋭いなあと思った。
「…」
「フウちゃん、私思うんや」
沈黙を肯定と受け取ったらしい。スインは隣に座って続けた。
「フウちゃんがエント君を助けとっても、ソウマ君は攻撃を受けてたと思う」
「どういうことだ!?」
思わず大きな声が出た。みんなを起こしていないだろうか。
「だって、生き物が好きなソウマ君なら、森に直撃させるようなことはしやんやろ?」
確かに、ソウマならやりかねない。でも。
「私が動いていたら、そもそも技を出さなかったかも知れないし…」
「過去のことをずっと考えとっても、変わるわけないやろ?次に向かって努力する時間が無くなるだけやで」
ほら、とスインは私の背中を叩いた。
「じゃあ、付き合ってよな。スイン」
不思議と気持ちが軽くなっていた。
しばらくして、アインが起きてきた。ソウマは当然入院で、エントも居ても立っても居られないようで一緒にいた。
「ライトは?」
「見てないけど」
「もう、あいつ、いつになったら1人で起きれるんだよ!」
私はいつも通り階段を駆け上がり、ライトの部屋のドアを開けた。そこにはやはりライトがいて、布団を全て落として寝ていた。
「寝相悪すぎだろ…そのうち風邪引くぞ…」
そんなことより。いつもの如くテールハンドで殴りつけた。
「痛っ!ちょっとは手加減してくれよ!」
「自分で起きる努力をした方がいいと思うぞ」
「じゃあ目覚まし時計買う」
「いつ?」
「知ーらね!」
ライトは不意を突いてフウワを潜り抜け、部屋を出て行った。
「あっ!待て!」
足の速さでライトに勝てる訳がないのだが、追いかけずにはいられなかった。ライトは先に食卓に行き、朝食をとっていた。つくづくむかつくやつだ。でも、なぜだろう。こんな生活を気に入っている自分がいた。いつもと少し違う“今日”が、始まりを告げた。




