プロローグ 猫の国王から直々に?
六月。最近梅雨で雨が降っていて、特訓もできず、依頼も来ず、暇な日々を過ごしていた。
「これじゃあ、体が鈍っちまうよ!」
エントが嘆いていた。確かに、これでは困る。
「最近面白かったことといえば、エントがソウマに抱きついてたことぐらいかなあ」
「それほんとにやめてよ!この季節暑いし!」
とはいうものの、ソウマは抵抗しても無駄であり、結局されるがままになっていた。たしかに、ソウマは小さくてふわふわしているので、抱き付きたくなるのも少しわかるが、ソウマはペットではない。
「エント。やめてやれ」
「えー、一回尻尾触ってみなよー。ふわふわだから」
「ちょっと?」
好奇心に負けて、ソウマの尻尾を触ってみると、とてもふかふかしていた。
「たしかに、気持ちいいな」
「ライト君まで!」
「どうしたん?」
みんなが集まってきた。俺が事情を話すと、みんな尻尾を触ってみたいとソウマに群がった。ソウマはすごく不機嫌そうな顔をしていたが、結局何も言わなかった。
「お前ら何してる!手紙来てたぞ!」
「依頼?」
「いや、ちょっと違うみたいだ」
手紙を見ると、しっかりと封がされており、“フォニックスさんへ”と書かれていた。それを開けると便箋に文章が書かれていた。俺はそれを読み上げた。
「フォニックスさんへ
いかがお過ごしでしょうか。もし依頼が来ず暇であれば、ぜひ猫の王宮にお越しください。
ギーヨ」
「ええええ!?」
みんなは目を丸くした。読みながら自分も驚いていた。あのギーヨ様直々にお手紙をもらえる人はかなり限られていて、こんな庶民の集まりに手紙を出すなんて、明らかに異常だ。
「どういうことなんやろ?これ」
たしかに、何故猫の王宮なのだろうか。暇だったら、という所にも違和感がある。
「行ってみるか?」
「他にすることないし」
「ホラー映画見てエント君に抱きつかれるよりマシだよ」
「ていうか、行かんと失礼やし」
「確かにな」
「行ってみたいな」
「よし、そうと決まれば出発だ!」
「待て!」
「え?」
「弁当持ってけ!」
「あ、ありがと。行ってくるな、コウ」
かくして、一行は猫の王宮に着いた。
「うわあ、でかいな」
「そりゃあ、この世で一二を争う規模の国なんだから」
門の前に立つと、門が開き、そこに誰かいた。
「こんにちは!キョウです!フォニックス様ですね!ご案内します!」
「ご案内?」
やがて、訓練場に出た。
「フォニックスさん。今からあなたたちを鍛えさせてもらいます」
「ギーヨ様?」
なんだか、嫌な予感がした。




