プロローグ クーライの技
ライトが攻めてくれているとはいえ、威力は半減されており、あまり勝機は見出せていない。かと言って、私にできることはないだろう。ソウマのように攻撃を受け止めてライトを守れる訳でもないし。近づいても、邪魔なだけだろう。でも、何もしないなんて、なんだか落ち着かない。すると、スインはトルキの裏側に来たタイミングで遠距離攻撃を仕掛けていた。直接当てれば、技封じが発動するだろうに。一気にカタをつける気でいるのだろうか。確かに、裏側ならライトの邪魔にならず、いなされることもなく攻撃できる。とはいえ、私は技封じで有効な攻撃はできそうにないので、テールハンドを使って何かするしかない。ライトを見ると、流石にずっと動き続けているとスピードが落ちてきている。そろそろ勝負をつけないと、ライトが力尽きてこっちが不利になりそうだ。強力な一撃をトルキに当てなければいけない。エントの得意分野だが、結構序盤で強力なため技を使ってしまっている。スインは、遠距離のため技は得意だがあの威力ではトルキを倒せそうに無い。そして、アインは攻撃よりもサポートに特化している。もちろん私はそんな技を使う妖力なんて残されていない。ソウマも攻撃力よりも防御力だろう。よって、ライトに大技をしてもらうしかない。気絶していた時に少し寝ていたらしいので、妖力も回復しているだろう。問題は、ライトが技を溜める時間をどうやって稼ぐかだ。トルキが反応しないわけがない。どうしても、トルキの動きを止めなければいけない。非現実的かと思ったが、自分のテールハンドを思い出した。伸縮自在で切られても毛なのでノーダメージのテールハンドなら、縛り付けてある程度は止められるかもしれない。少々危険だが、ソウマを見ていればそんなことも言っていられない。ライトに何も言っていないが、勘のいいライトならやってくれるだろう。私は両方のテールハンドをめいいっぱい伸ばし、トルキに巻きつけた。トルキは不意打ちだったようで、避けることはせず、抜け出そうと尖った石をテールハンドに当てようとしたが、ソウマが身をていして守ってくれた。
「ライト!お前ならできるだろう!できるだけ溜めて、お前の中で最強の一撃をトルキに叩き込め!早く!」
ライトはその声に反応し、いつもと違って足に妖力を纏わせた。懐かしいエレキキックなのかと思ったが、なんだか違う気がする。なんというか、妖気がより張り詰めた感じがするのだ。ライトは、どんどん妖力を足に溜めていった。トルキはため技が来るのを察知したのか阻止しようと技をライトに出した。しかし、ソウマが全て受け止めた。ソウマは、大丈夫なのだろうか。ずいぶんと攻撃を受けているように見えるが。本当に無茶はしないでほしい。ムルルも、シールドである程度テールハンドを丈夫にし、ライトも守っている。だったら、私は何としてもライトが溜め切るまでトルキの抵抗に耐えなければいけない。一体、ライトはどれぐらい溜めるつもりなのだろうか。私もそうだが、あまり引き伸ばすとソウマのダメージが限界を迎えてしまう。でも、この一撃にかけるしかないので、何も言わないことにした。ただ、ライトもよくわかっているようで、溜まっていくスピードが速かった。エントは、引っ張られそうな私を抑え、アインは私の足を凍らせて固定し回転も遅くしている。スインとムルルは変わりなく自分のできることをしている。グイグイとトルキの力に引っ張られそうになってもなんとか踏ん張り、ライトの技をひたすら待ち続けている。すると、ライトの足にビリビリと電気が現れ始めた。あと、もう少しなのか。突然、ライトの妖気が一定になった。勢いよくソウマがこっちに向かってきて、私を横に突き飛ばした。
「ライジングキック!」
ひゅっと一瞬でトルキの前に来て、思いっきり蹴った。すると、受け止めたトルキは後退りし始め、だんだん足場が消えていった。トルキがライトの電気にすっぽり包まれた時、未だかつて経験したこともないくらいの大爆発が起こった。トルキを巻きつけていたテールハンドはちぎれ、私はソウマのおかげで直撃はしなかったものの勢いよく横に飛ばされた。ライト自身は、爆発の砂埃さえも突っ切り、そしてどこかへ行ってしまった。みんなは散り散りになり、トルキがどうなったかは確認できなかったが、
「最後は、あいつの技なのだな」
という声がぼそっと聞こえた。
呼び声がしてうっすら目を開けると、青空とソウマの顔だった。
「フウワさん。良かった。無事だった。落下衝撃はないはずだけど、テールハンドが、ちぎれちゃったみたいだね」
「いや、いいんだ。また生えるし」
そう言って起き上がると、ソウマの右腕の服が破れているのが見えた。おそらく、右腕で落下の衝撃を和らげたのだろう。あの時気を失ってしまった自分が情け無い。結局私はソウマに怪我ばかりさせている。ライトはあんなにすごかったけど、私は何かできただろうか。




