第五部 弓矢の2人
ケイルはなぜか警察の服を来て、警察官たちと一緒にいた。
「なんでケイルがここにいるんですか?」
「意外と弓矢の扱いに長けていて、少し手伝ってくれているんですよ。まあ、私の監督の元手ですがね。まだまだ、聞き出したい情報も山ほどありますし」
「ひ、久しぶりだな。き、今日は何しに来たんだ?」
なんだか、少しぎこちない気がする。どうしてだろうか?
「どうやら、トラウマになっているのはケイルの方のようですね」
「あの、この前言ってたシンって言う少年に昨日会ったんだけど、もっと知ってることってない?なんか気になっちゃって…」
私は全て説明した。
「な、なるほどな。それじゃあ、もう少し話すとするか。シンは闇狐と闇狐の間に生まれた、純系の闇狐でな、元々強かったのに、訓練でぐんぐん成長していった。それこそ、大人顔負けのレベルまで。だけど、ちょうど3歳くらいかな、そんな時に闇逆戦争が起こった。つまり、今から11年前ぐらいだ。その戦争は、過去に奪われた自分たちの土地を取り戻すためのものだったが、そんなのは大義名分だった。俺たちは、そそのかされた側だった。実際に手を下したのは紫の目の闇狐たちだったが、そそのかしたのは他の目の色の闇狐だった。実際は、そこに偶然住んでいただけの人々を傷つけて、挙げ句の果てには他の土地まで手を出した。だけど、所詮一族での独断行為だ。その時の国王ストキ様率いる軍に惨敗した。ストキ様は助けてくれようとしたが、俺たちのせいで家族や大切な人を失った人々はそれを許さなかった。そいつらの襲撃によって、紫の目の闇狐はみんな殺されちまった。俺とシンを除いてな。俺は外で弓矢の修行をしていたから助かっただけで、シンはこっそり隠し通路から脱出できたそうだ。でも、父親が死に間際にシンの記憶を消したらしい。で、俺はシンを迎えにいって、しばらく一緒に暮らしてたんだが、反抗期が来ちまって。シンは家出して、もう帰ってくることはなかった。俺はブラックスに攫われて、結局今はこうして働いてる。…そうか。シンは、そんなことを言ったのか。どんなに言葉は厳しくても、本心は優しいんだろうな。いい意味で変わってなくてよかった。でも、あいつ権力者とか大嫌いだからな。もしそういう奴らを攻撃して騒動になった時は、頼んだぞ。俺はもう、シンに面と向かって会えるような人間じゃなくなってしまった」
私は複雑な気持ちで聞いていた。
「ありがとう。きっと、いつか罪を全部償えば、面と向かって会えると思うよ」
私は、カリとハスのこともあるので、家に帰ることにした。
その頃、私は大混乱だった。なぜ、アイナさんとルミさんがここにいるのだろう。嬉しくて仕方ないのだが、まだ理解が追いついていない。
「お母さん!」
「お母さん!」
2人はルミさんに抱きついた。ルミさんは、2人を抱きながら涙を流していた。
「ごめんね。私が忙しいからって、あなたたちに寂しい思いをさせて、誘拐も防ぐこともできずに…。こんな未熟な母親だけど、また一緒にいてくれる?」
「うん!私、ずっと信じてた!お母さんが早く帰って来てくれる日が来るって!」
「当たり前だよ!僕はお母さんが作り置きしてくれるハンバーグ大好きだし!」
「本当にありがとう…。フォニックスのみなさん」
「隠し子なんだよ。だから、悟られたくなかったんだろうな。2人を自分の職業に巻き込みたくなかったのかもしれない。結局優しいんだよ、リーダーは」
アイナさんは優しい眼差しで、3人を見ていた。どこか羨ましそうでもあった。親子の再会の温かな雰囲気が漂っていた。
「ただいまー。シンについてわかったよ」
だが、その雰囲気もアインの帰宅によってかき消された。3人は顔を見合わせて、離れ、アインを出迎えた。
「あれ?その人が2人のお母さん?比べてみると、やっぱり似てるね」
「お母さん、おうち帰りたい」
「僕も」
「はいはい。それではみなさん、ありがとうございました」
3人は案外あっさりと出ていった。アイナさんの時も思ったが、普段はこういう性格なんだな、と思う。しまった。サインをもらうのを忘れていた。今から全力で走れば追いつけるだろう。私は勢いよく走り、ルミさんに追いついた。
「すみません、サインください!」
「うーん、子供の前だし、私がルミだって気づかれたくないけど…。まあいいわ。2人を助けてもらったお礼として書かせてもらうわ」
そして、ウキウキ顔で戻り、アイナさんにももらった。今日は大満足だ。アイナさんは、私たちと一緒にシンについてケイルから聞いたことをアインから聞いていた。
「へえ。だったら、あの強さにも納得がいくな。機会があれば、また会いにいってもいいかもな。本人は嫌がるかもしれないけど」
「え?ツーハ、そいつに会ったことある。むかつくやつだったけど、いいやつだった」
「私もです。いい人ですよ。助けていただきました」
「えっ!?」
ツーハとイネイさんが会っていたという事実を今初めて知ったのだった。




