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婚約破棄された者同士でくっつく話  作者: まる


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8/31

見てもらいたい気持ちもある

12年も一緒にいたんだ、相手に対して気持ちが残っているのも、相手に気持ちがあっても当たり前だろ、と自分に言い聞かせるのに、魔力の放出は俺の気持ちに比例して大きくなる。

二日経ってもイライラしている俺に、このまま執務室にいても埒が開かない、とラルがキレて騎士団の訓練に放り込まれた。イライラをぶつけたくなかったから、リリアとのお茶会は二日、忙しいことにして断ってしまった。

騎士団での一対一の訓練は、目の前の相手のことしか考えなくてよくて好きだったのに、二日前に見た光景がいつまでも繰り返される。

兄上とリリアが思い合っているのは知っていた。だからこそ、第二王子である俺はすぐにレヴェールに婿に行かされることになっていた。この国は安泰だから、外交の礎になってくれ、という父の意向だ。二人が仲が良いのはわかっている。12年がそんなに短い期間ではないことなんて、自分が一番よく知っている。それでも、ああいう顔を見せられるときつい。

カンッという音がして、相手の剣が手から落とされる。勝負はついた。周りはまだ戦っているから、天を仰ぐ。クソ兄貴、という言葉が頭から消えない。

絶対に、リリアが中庭にいるのを見てから、中庭に出たに決まっている。リリアは慎重に、兄と二人で会うのを避けていたんだと思う。元婚約者同士が二人で会っているなんて、翻意を疑われても仕方ない状況だ。だからこそアランは、真昼間の庭園を選んだ。二人になんの間違いもありません、ということの証人を無理やり立てるためだ。

そこで、リリアと話せる機会を作った。

「落ち着けよ」

シリルにそう言われて、自分の魔力の放出が最大だったことに気づく。危ない危ない、と抑えると、シリルがふ、と笑った。

「そんなになるなんて何があった?大っ嫌いって言われたとか?」

「アランとリリアが二人で会ってた。中庭で」

俺の言葉にシリルの動きが止まる。え、それって、とつづけようとしたシリルに、ラルがため息をついて答えた。

「アラン王子はわざとでしょうけど、リリア様は何もわかっていません。しかも真昼の庭園で話したのは一分くらいでしょう」

ラルの言葉にシリルに目を向けると、目が泳いでいた。

「いや、まあ、わかるけど、気持ちは」

ラルは言外に、それくらいアラン王子にも許してあげましょうよと言っているが、アランに直接何も言っていないだけ寛大だと思ってほしい。シリルが微妙そうな顔をしているのが癪に触ってまた魔力が出ている感覚がした。もう止めるのも面倒で、そのままにしておこうとしていたら、練習場の入り口が騒がしい。

なんだ?とそちらを見るが、人が邪魔で見えない。その時、リリア様は危ないので、という声がして、慌てて持っていた剣を柄に収めて、入口に向かう。

「リリア」

声をかけると、入り口で騎士団の兵士の多さに戸惑ったのか、所在なさげにしていたリリアがこちらを向いた。見知った顔に安心したのか、ホッとした顔になって、それずるくない?と思ってしまう。そんな顔されたら、アランと会っていた件も何もすっ飛んでしまいそうになる。

「セレス王子」

まだセレス呼びが定着していないのは残念だけど、しょうがないよな、と思ってから、慌ててリリアの周りに防護壁をはった。こんなに大人数がいるところにあんまり出てこないでほしい。何か間違って傷でもついたらどうするんだ。リリアが驚いた顔をしているので、二重にかけておく。ラルがため息をついた。

「何かあった?」

多分俺汗臭いんだよなあ、と思いながらちょっと距離を保ってリリアに聞くと、こちらにおられると聞いたので、と微笑まれる。最近はお茶会をしていたから、少しは俺になれてくれたけど、わざわざ来てくれるならもっとなんか、ちゃんとした格好の時が良かったな、と思ってしまう。今の俺は髪も乱れてるし、汗臭いし、正直あんまり女性に好かれる要素がない。

「シリルが以前、騎士団の訓練も見に来てくださいって言っていたので、お邪魔させてもらいました。ご迷惑でしたか?」

迷惑なわけないよ、と言いたいのを我慢して、王子様って感じの笑顔を作ろうと努力した。アランのことを慕っていたリリアは、きっと王子様っていう感じの人の方が好きだし、安心するだろう。

「来てくれて嬉しい」

極力優しい声を出せたはずだ。リリアに対してはいつも優しくいたいと思っているけれど、アランと二人で話しているのを見てからは、イライラすることも多かった。リリアに対してイライラしているわけじゃない。二人の関係性に対してイライラしているんだ、とわかっていてもリリアを怖がらせかねない。

それでも顔を見たら、そんなイライラ九割は吹っ飛んでしまった。わざわざここまで来てくれたのも嬉しい。リリアにとっては騎士団の訓練の見学なんて、王妃教育の一環で見学した時以来だろう。

「皆さんのお邪魔をしてしまったみたいで、申し訳ありません。こっそり見て帰ろうと思って言いたのですが」

うつむき気味でそういうリリアに、少し笑ってしまった。未来の王妃が見にきて、こっそり帰るなんて無理だ。今日は俺がいるからリリアはここまで来れたんだろうけど、俺がいなかったら警備体制を整えてからご見学、という流れになっていたはずだ。未来の王の訓練する姿が見たくて、なんて言われたら断りきれない。

「俺の部屋に来てください、話もしたいし」

そういうとリリアはわかりました、と笑ってでは一度お暇させていただきます、と練習場から出ていった。体洗う時間あるかな、とチラリと時計を見る。あまり待たせるのも悪いけど、身なりを整えてから行きたい。

「リリア様、もうちょっと早かったら良かったのにな」

いつの間にか横にきていたシリルがそう言う。俺が倒しているところを見られなくて良かった、と思った。そんな野蛮な人だったなんて、とかなりそうで怖いし、実際訓練しているところを見られるのはどう転ぶかわからない。リリアが安心する王子様でいたいのに、アランと俺は違うところが多い。

「むしろ見られなくて良かった」

「そうか?見られた方が良かったと思うけど」

「怖がらせたくない」

そういった俺に、シリルは少し止まってから笑い出した。

「怖がるわけないって」

そう背中をポンと叩いて、シリルは騎士団に声をかける。その背中を見ながら、以前は怖がられるなんて思っても見なかったことを思い出した。遠くから見つめるだけの日々で、リリアに騎士団で訓練していたのを認識されていたかも怪しい。アランの弟として、第二王子としてリリアは敬意を持って接してくれていたけれど、それだけだった。足早に訓練場を後にして、まずは湯殿に向かう。

遠くから見つめるだけじゃ何もならないぞ、と教えてくれたのはシリルの父だった。騎士団長は遠くからでも守れる術を身につけたくないか?と俺を誘ってきた。その誘いにホイホイと乗って、騎士団の訓練に参加し、シリルと戦わされて、負けた。その悔しさは今でも覚えている。同い年の子供がこんなに強いなんて思ってもなかった。リリアを守れるならそれで良かったし、そうでなくても、どうにもならない感情をぶつけるところが必要だった。アランとリリアが仲良くしているのを見るのが嫌で、でもどうしても目で追いかけるのをやめられなくて、12年が経った。

手早く体を洗って出るとラルが用意したであろう服の一式を身につける。

普段よりも随分と軽装だな、と思ったがリリアを待たせないためだと理解した。荒く髪を拭いて、急いでリリアの待っているであろう部屋に向かう。ドアの前で深呼吸をして、心を落ち着けた。リリアはまだ知らない。

俺が12年ずっと見てきたこと。今はまだ知って欲しくない。それで距離が開いたら困る。けど、いつか知ってくれたら、と思っている。それで受け入れてくれたら、もう何もいらないのに。


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