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マナー違反は指摘できない

変じゃないかしら、ともう一度自分の服装に目を落とした。よければ今度、お茶でも、という言葉に釣られて、ホイホイときてしまったけれど、本当に良かったのか?と思ってしまう。お茶に誘われたことは嬉しいし、距離も縮めたいけれど、お忙しいのに時間をとっていただいて申し訳ないな、とも思う。結い上げられた髪に付けられたダイヤの装飾品がシャラリと私が首を動かすと音を立てる。

第一王子の間の応接室に通された私は座ったまま、不安にかられていた。アラン王子と会う時にこんなに緊張したことはなかった。

「失礼、待たせてしまって申し訳ない」

その声にピンと背筋がこれ以上ないくらい伸びる。セレス王子はおそらく捲っていただろうシャツを直しながら、私の前にある椅子に腰掛けた。様になるなあ、と思った。アラン王子は王子様って感じだったけど、セレス王子はどちらかというと騎士様、という感じだ。

「髪を結ってるんですね」

私に笑顔が向けられる。

「そうなんです。侍女がやってくれまして」

「お似合いです。あなたは美しいからなんでも似合う」

そういってセレス王子が紅茶のカップに手を伸ばした。お世辞がスラリと出てくるところもさすが元第二王子。しっかり教育されている。

「ありがとうございます。セレス王子も麗しいです」

「・・・」

あれ、会話これで終わった?なんか話題を出さないと、ていうかめっちゃ見られてる気がする。なんか変なところあったかな、今日はちゃんと贈られてきたドレスも着たし、ネックレスもそれに合わせてつけた。

「ラル、アリ」

静かにセレス王子が二人の名前を呼んだ。なんで二人が名前を呼ばれたんだろう、と不思議に思っていると、二人が御用があればお呼びください、と退出した。そういうことかー、と納得したけど、そうなるとこの部屋に二人きりになる。待って、アリ、二人にしないで!と言いたいのを抑えて、カップに口をつける。

部屋に沈黙が満ちる。何か、話題を、と思っているとセレス王子がこちらを見てふんわり微笑んだ。

「隣に行っても良い?」

長椅子だから確かに隣は空いてるけど、未婚の男女が隣に座るとか良いんだっけ、と考えてアラン王子の時は隣に座っていたな、と思い返す。こくりと頷くと、セレス王子は立ち上がって、隣に腰掛けた。・・・近くない?長椅子と言っても王家にあるものだから、当然ながら大きい。普通に座れば二人の間に空間が生まれるはずなんだけど、身動ぎすると腕が当たってしまうくらいに近くにセレス王子は座った。心の中でひええ、と声をあげてしまう。アラン王子以外の男性とこんなに近くに座ったことはない。

「リリア」

すぐ隣から聞こえる声に、緊張のあまり声が裏返りそうで何も言えなくなる。おそるおそるそちらを見ると、あまりの顔の近さに驚いた。顔近いな、と思っても背けたら背けたで失礼だしな、と思ってセレス王子の顔を見つめる。そうすると必然的にセレス王子も私のことを見つめる形になる。

至近距離でじっと見つめられると、セレス王子の造形の良さに惚れ惚れする。セレス王子は月のようだ、と前に思ったけれど、やっぱり夜の気配が濃い。かたや私は緊張ですごい不細工な顔をしているだろうなと思う。まあでも普段からそんなに麗しい顔をしている訳じゃないし、良いかと諦めた。

「変わらないなあ」

「何がですか」

「あなたの瞳の色。いつでも透き通った湖のような色をしている」

これはお世辞じゃないな、と私でもわかった。透き通った湖のような色、は初めて言われた。照れてしまった顔が赤くなるのがわかる。

セレス王子が前を向いたのを見届けて、私も顔を元に戻した。

今のなんだったんだろう、夢?動揺を隠すように冷めたカップを手に取る。一口口に含むと、心が少しだけ落ちついた。

「初めて会った日を覚えてる?」

「私が初めて王宮に行った日です。もちろん覚えてますよ」

「そっか」

アラン王子のことはできるだけ口に出さないほうがいいんだろうな、となんとなくわかった。アラン王子と初めて会った日、セレス王子とも初めて会った。習いたてのカーテシーを披露した相手は一人ではなかった。初対面の時に交わした言葉は覚えていなくても、その瞳の色は覚えている。紫色なんだ、と思った。アラン王子は赤いのに、と不躾に思った。

「兄上のこと愛してた?」

いきなりの質問に、ゲホッと咳き込みそうになるのをなんとか抑えてカップを元の位置に戻す。グッジョブ自分。さすが、王妃教育を12年も受けてきた甲斐がある。驚いてセレス王子を見ると、なぜだかこっちは見ていなくて、カップを見つめていた。

これ返答次第では、まずいことになるのでは。というかそういうの聞かないのがマナーなのでは?と心の中で思うけれど、答えないわけにもいかない。

「尊敬していました」

嘘ではない。アラン王子のことを尊敬していた。いつでも民衆のことを考えて行動する姿にも、帝王学や諸外国の歴史や、武道や魔術をやらなくちゃいけないことだからね、と微笑んで学ぶ姿にも。私のことを常に気にかけてくれるその姿勢も。全てを本当に尊敬していた。この人の隣に立っても恥ずかしくないように精進しよう、と本気で思っていた。

まあ、その結果がこれなんですけど。その言葉に、セレス王子は大きく息をついた。

「完璧な答えだね」

「ありがとうございます」

未来の旦那様が何を考えているのか全然わからない。さっきの質問はマナー違反だと思うし、聞いてはいけないことだと思うのに、何も言えなかった。王と王妃は対等でなければならないけど、まだセレス王子の方が位は上だし仕方ないよ、と自分を慰める。他の人にああいうこと聞いちゃダメですよ、と言えるのはもう少し関係が熟してからだと思おう。

「セレス王子、お時間です」

扉の外から聞こえたラルの言葉に、セレス王子がちらりとドアの方を見た。それから髪の毛を一房手にとって、口付けられる。真っ直ぐこちらを射抜いてくる視線に、怖気付いた。

「リリア、明日もお茶しよう」

「ご迷惑では」

「迷惑になんてなるわけない。忙しくて申し訳ないけど、会いたいから」

そう言ってセレス王子は席を立つと、ゆっくりして行って、と扉から出て行ってしまった。入れ違いになるように、アリが入ってくる。さっきあったことや聞かれたことを話そうか迷ってやめた。私の中でもまだうまく整理がついていない問題を、アリに言っても困らせるだけだ。

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