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主はだいたい手がかかる

「もらってきましたよ」

主にぞんざいにカードを渡すと、書類にむけていた顔をあげてそれを受け取った。第二王子から第一王子へ王位継承権が上がると同時に、主に振りかかる仕事は膨大な量になった。主が現在行き来している場所は第一王子の間と、この執務室だけだ。

「赤い薔薇」

すぐに封を開いて中身を確認した主が、何に苛立ったのかピシピシと魔力を放出している。それだけで、室内の温度が三度は下がった。あー、これ俺が抑えなきゃいけないやつかな、と思っていると、ふと、主の魔力の放出が止まった。

「リリアの匂いがする」

そのセリフに思わず嫌そうな顔をしてしまう。不敬罪に当たるので一瞬で顔の筋肉を元に戻した。リリア様の匂いがするって言われても、と思っていると主がカードに顔を近づけた。

「香水でしょうか」

「多分な」

リリア様って気遣いができる良いかただなあ、と主の魔力の放出が抑えられたことで俺は単純にそう思ってしまった。多分、主が手紙に香水を振りかけているのに気づいたんだろう。主が持って行かせた手紙は、別に急なものでもなんでもない。ただ、リリア様からの何か、がほしい主が俺に言い付けて何かをもらいに行かせただけだ。それと様子も見てこいということだろう。護衛をしている騎士にそれとなく様子を聞くと、リリア様は部屋に篭りがちになっているらしい。

「部屋に篭りがちだと言うことです。特に危険は見つかりませんでした」

部屋の中に魔力を気づかれない程度に放出させて、探ってみたけれどリリア様に対する敵意は見つからなかった。どちらかというと、これからかもしれないな、と思う。セレス様が第二王子から第一王子になったことを発表するパーティーではお二人は仲睦まじげに見えた。

今は国内の貴族も第一王子に新しく就任したセレス様に取り入ろうと忙しい。リリア様に敵意を向けるのは得策ではない。でも少しでもセレス様がリリア様を蔑ろにしているところが見えたら、一気に妾などの話が出てくるんだろう。

それを想像してげんなりした。

「なんか言ってたか」

「カードに目を通す暇さえ惜しいくらい忙しいのではないか、と心配していました」

「そうか」

セレス様はカードを執務室の机の引き出しに大切そうにしまうと、そのまま書類に向かった。護衛の騎士もつけていない。ここには俺とセレス様しかいない。第一王子なのに危ないのではないか、と言う意見も聞くけれど、セレス様の護衛が戦うより俺が戦った方が早い、と言う言葉で全てが終わった。ここには二人しかいない、と言う事実が俺の口を軽くさせた。

「言わないんですか」

俺の言葉にもセレス様は顔を上げない。書類に視線を落としたまま何も言わない。俺はそれに何故か焦ってしまう。リリア様はきっと気づいていない。セレス様のことをなんならかわいそうだと思っているはずだ。

「・・・考えてみろ、ずっとみられてたなんて、気持ち悪いだろ」

書類に視線を落としたままセレス王子がそういうのに、俺はなんだか笑ってしまった。いつも自信家で、俺が倒せないものなら騎士団長でも倒せないだろ、なんて普通に言いのける自分の主が、長年恋焦がれた人にはこんなにも臆病になる。俺が笑ったのが気に障ったのか、魔力がピシピシと放出される。

第二王子のセレス様が、リリア様と出会ったのは5歳の時だ。リリア様とアラン様の顔合わせで、恋に落ちたのは一人ではなかったと言うことだ。兄弟だから、好きなタイプとか似んのかな、と思って、けど主の片思いを12年見守ってきた経緯から、失礼だなと思ってやめた。

「むしろ喜ばれるのでは。そんなに思っていて下さって」

そういうと、セレス様の手が止まった。そして間をおいて、また書類に向かわれる。婚約者のことをセレス様も大切にしていた。レヴェールの王女。美しい人だった。けれど、二人が会うのはいつも昼間の庭園だった。間違いなんて起こりようがないという真昼間の庭園で二人は楽しくおしゃべりをして終わった。しかもどちらかというと話す気があまりなさそうな我が主に対してレヴェールの王女は一方的に話して終わるという展開だった気がする。

第二王子から第一王子への就任。レヴェールの王女の突然の鞍替え。それがどこまでセレス様が仕組んだものなのか、俺は知らない。俺が知らないということは誰も知らないということだ。アラン王子は第一王子として非の打ちどころがないお方だったけれど、うちの王子も負けちゃいない。

ただ、リリア様からしたら戸惑う部分も大きいだろう。アラン王子とリリア様の仲の良さは有名だった。12年という月日がそうさせたのか、お二人は二人きりでいることよりも周囲を巻き込んで何かをすることを楽しんだ。演奏会や、読書会、お茶会を開いて皆をもてなし、その中心で二人で楽しげにしていた。

「リリアに、また何か贈りたい」

「やめといた方が良いですよ。リリア様戸惑いますよ。それにプレゼントで気を引けるような相手ではないです」

リリア様は昔からそうらしいが、あまり過度な装飾を好まれない、という噂だ。宝飾品も貴族のご令嬢がつけているものと同等かそれ以下のものしかつけていない。未来の王妃だということで、服装には気を遣っているのだろうけれど、プレゼントの効果は薄いだろう。

「赤いものが多いんだ。兄上の色だからな」

ぽつりとこぼされた言葉に、え、まさか、あんたそんなこと気にしてんの?と声が出そうになってなんとか押しとどめた。リリア様は確かに身につけているものは赤いものが多い。それはアラン王子が自分の色だと贈っていたせいもあるだろうし、周りが気を遣った結果でもあるだろう。12年も周りが赤をすすめていたら、リリア様も赤いものが好きになっていても仕方ないし、安心感もあるだろう。

「紫のものをできるだけ多く手配します」

「一度執務室に全部持って来させてくれ」

「・・・わかりました」

また一から全部自分で選ぶつもりかよ、と驚く。睡眠時間削るくらい忙しいくせに、と心の中で言ってから、まあしょうがないか、と思い直した。12年の片思いだ。それくらいしたいんだろう。今までは匿名で花を贈るくらいしかできなかったもんな。

「明日の薔薇は何色に」

「・・・赤以外だ」

それに笑いそうになっても、表情を崩さないように気をつけた。わかりました、と一礼して執務室を辞した。扉の前でため息をそっとついた。どうかリリア様が我が主を気に入ってくれますように、と誰にともなく願った。


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