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カードは愛

毎日送られてくるバラの花に、一枚のカードが添えられている。私はそのカードを読むのを楽しみにしながら、何を返そうか迷っているうちに次の日になってしまう。それを繰り返して、私がセレス王子にお返しができるのは三日に一回くらいになってしまっている。不敬だな、とは思っているけれどなかなかお返しが見つからないし、思いつかない。

「今日もバラの花が」

そう言って渡されたバラの花に添えられたカードに、あなたを想って、の一文が添えられている。こないだのパーティーからセレス王子はますます忙しくなったらしく、顔を見ることもできていない。そんな中でも毎日バラを送ってくれるセレス王子の優しさに嬉しくなってしまう。

「お返しを届けなければ。何が良いかしら」

セレス王子は忙しいから、きっとカードを見ている暇もないだろう。負担になるようなものは避けたい。私から届いたことがわかれば、あとはセレス王子が見なくても良いくらいのものがいいだろう。頭を悩ませていると、コンコンコンコン、と控えめなノックが部屋に響いた。

「どなたかしら。来客の予定があった?」

侍女頭のアリにきくと、いえ、とアリが首を振る。訝しく思っていると、ドアの外から、声が聞こえた。

「セレス王子の側仕えのラルと申します。セレス王子よりお手紙を直接お届けするように言われまして、伺いました」

ここまで通っているのだから、危ない人物ではないだろう。その言葉を聞いて侍女が扉を開ける。ラルは、整った顔立ちの青年だった。私と同じか、年上だろうな、と見当をつける。ラルは丁寧な所作で部屋に入ってくると座っている私に膝まずいた。

「失礼します。主人からリリア様へこれをと」

そう言って渡されたのは手紙だった。中をすぐに確認したかったけれど、それも無粋な気がしてやめておいた。真っ白な封筒のそれに、匂いがついていることに気づいた。セレス王子の匂いだ。

香水か、何かをふりかけているんだろう。ふんわりと香ってくる匂いにセレス王子の紫の瞳を思い出した。

「ちょうどよかった。リリア様、贈り物の相談をしては?」

アリがそう言ってくれたのに、頷いてラルに姿勢を楽にするように声をかけた。ラルなら側仕えだし、良い案をくれるだろう。案を出してくれなくても、迷惑にならないものやあったら便利なものを教えてもらえるだけでもありがたい。

「セレス王子へのお返しを考えているけど、思いつかないの。何かおすすめのものとはあるかしら?」

そう聞くと、ラルは少し微笑んでくれた。よかった。良い相談相手がちょうどいいタイミングで来てくれた。

「リリア様のご負担でなければ、カードをいただけると主人のやる気に繋がります」

「カード?読む時間がもったいないのじゃない?ご負担になるのでは?」

目を通す時間さえ惜しいのではないか、と思って、読むようなものは避けていた。私はもらって嬉しいけれど、返事をしなければいけないと思わせるのも心苦しい。ラルは私の言葉を聞いて苦笑した。

「とんでもないことでございます。リリア様からのカードが負担になることはございません」

そういうラルに、私はでも、と口をつぐんだ。執務室から出られないほど忙しいと聞いている。私のカードを読むくらいなら、一秒でも多く書類に目を通したいだろう。私が何も答えないことにラルは、少し思案した顔をしてから口を開いた。

「先日、お庭を散歩されていましたよね」

「ええ、今は薔薇が見頃だと庭師が教えてくれたの」

「執務室から、主がご覧になっていました。リリア様のお声がする、と」

驚いて、思わず扇を開いて口元を隠した。先日、庭師から薔薇が見頃でございますよ、と廊下で声をかけられた。幼い時から可愛がってくれている庭師のデルロは私にとってもう、おじいさまのような存在だ。デルロが声をかけてくれたのは、きっと私が部屋に篭りがちだったからだ。デルロに会いに、そしてデルロが育てたバラを見に出かけた。中庭だし、危険もないから、とアリだけを連れての散歩だった。デルロに薔薇の種類を聞いて、どの薔薇も美しいことに心が癒された。けれど、そんな大声で話したりはしていない。

「知らなかったわ」

「よければ、カードに何の薔薇が好きかなど、書いていただけると幸いです」

それを聞いて、はたと気づいた。何の薔薇が好きか答えたら、花を選ぶ負担が減るのだ。さすが、セレス王子の側仕え。そんなことを計算しているとは気づかなかった。

「わかったわ、書くから少し待ってくださる?」

その言葉にアリが素早く動いて、ラルを隣の応接室に連れて行ってくれる。他の侍女が慌ててカードと封筒、ペンの準備をしてくれるのを待って、私は机に向かった。まずはカード選びからだけど、真っ白なカードにしておいた。色をつけるとそこに意味が生まれてしまう。セレス王子の紫にするのも気恥ずかしいし、他の色にすると何かしらの意図を探られそうだ。

真っ白ならその点、安心だ。

『薔薇をありがとうございます。赤の薔薇がお部屋に映えて気に入っております』

それだけを書いて、少し悩んでから香水をカードにさっと振りかけた。ふんわりと漂ってくる香りに、これくらいなら変じゃないわよね、と心の中で確認して、真っ白なカードを真っ白な封筒に入れた。そこに蝋を溶かして封をする。蝋の紋を迷って、私の生家であるベスティエ家の紋にした。

それを侍女に渡すと侍女が応接室に持っていってくれた。ラルの退室する声が聞こえてきて、ほっと息を吐き出した。

「お茶をご用意します」

アリがそう言ってくれたのに頷いて、先ほどラルから渡された手紙の封を開いた。何が書かれてあるんだろう、と読み始めて、これは側仕えをわざわざ送るほどの内容なのか、と思った。執務で忙しく会えないことへの謝罪が短く書かれているだけだった。

カードで事足りるのでは?と思ってアリが用意してくれた紅茶に手をつける。セレス王子は不思議な方だなあ。



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