終幕
レティシア王女は直接セレス王子と話をして、アラン王子との結婚をこのまま進めたいということを伝えていた。セレス王子はその後の処理に奔走しているようで、忙しく顔を合わせることもままならない日が続いた。
アラン王子の乱心は外部に漏れることもなく、レヴェールに伝えることも見送られた。それはレティシア王女が伝えることを頑なに拒否したからでもあった。
そして、二人がレヴェールに出発する日がやってきた。その日は朝から抜けるような快晴で、暑くなるんだろうなということが予想される日だった。
「お気をつけて」
「レヴェールにきてくれるのを楽しみにしてるわ」
馬車に乗り込もうとするレティシア王女にそういうと、レティシア王女は微笑んで手を差し出してくれた。その手を握ると、しっかりと握り返された。
私たちはこの王女様に、振り回されたけれど、救われた。
「私も楽しみにしております」
そういうと、レティシア王女の手がするりと解かれた。レティシア王女は笑顔のまま、セレス王子に向き直る。
「幸せになってね」
「貴方も」
レティシア王女はその言葉に微笑んで、そのまま馬車に乗り込んだ。アラン王子がそれに続く。アラン王子にどう声を掛ければいいか悩んで、口から出たのは平凡な言葉だった。
「お体に気をつけて」
「・・・、ありがとう、リリア」
アラン王子は微笑んで、そのままセレス王子にも王陛下にも何も言わずに馬車に乗り込んだ。何も言わずとも通じるものがあるのだろう。
引きずるような音を立てて、馬車が出発する。その音になぜだか寂しくなった。会おうと思えば、いつでも会うことができる。私は二人の結婚式にも招待されるだろう。だから、大丈夫だ。
そう思うのに、涙が滲んだ。
「泣いてるの」
「寂しくて」
そういうと、セレス王子に手を握られた。出発した馬車が遠くなっていく。それに付き従う従者たちの列も小さくなっていく。それを見送って、ゆっくりと王城の中に戻った。
そのまま部屋に戻るのが、なんだかしのびなくて、私は中庭の椅子に腰掛けた。
「リリア」
「はい」
それにセレス王子がついてきてくれるのをなんの疑問も持たなかった。セレス王子も寂しさを感じているのだろう。
「なんで俺を選んでくれたの」
その言葉に滲んでいた涙が引っ込んだ。結構前の話を、今持ち出すのはなぜ、と思いながらもセレス王子の真剣な表情に、疑問を口に出すのはやめた。
「ずっと側にいたいと思ったからです」
そう伝えると、セレス王子は笑って私の隣に腰掛けた。
「リリアは強いね」
「ええ、少し強くなった気がします」
そういうと、セレス王子が私の手を握る。私もその手を握り返す。
「ずっと一緒にいてほしい」
ポツリとつぶやかれた言葉が、きっとセレス王子の全てなのだと思って、私は前を見て笑った。
「ずっとお側に」
セレス王子がその言葉に、少しだけ笑った気がした。




