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パーティーはうまくいかない

「セレス王子は美しいですねえ」

「アラン王子とはまた違った美しさですわね」

「レヴェールとの婚約は喜ばしいですし、セレス王子も第一王子として文句のつけようのないお方。やはりこの決定でよかった」

セレス王子とはパーティーが始まる直前に会うことができた。お久しぶりです、と膝を曲げた私にセレス王子は優しく微笑んで、何も言わなかった。ただ、手を差し出してくれただけだった。アラン王子から、会うたびに今日の君は女神も青ざめる美しさだ、とか褒められていた私は、少し拍子抜けしてしまった。何も褒められないのも辛いものがあるなあ。

セレス王子と私が一緒に入場すると、会場の貴族からはお祝いの言葉が聞こえたけれど、私に対しての哀れみの視線も含まれていたと思う。12年というのは大きい。私がアラン王子と仲がよかったことはほとんどの貴族は知っている。それがいきなり隣国の姫に取られた形になる。哀れに思う人がいても不思議ではない。

せめて堂々としていようと、笑顔でセレス王子の隣に立ってはいるけれど、私自身がまだ受け入れられてないことをわかっている。アラン王子ではなくて、セレス王子が隣にいることが、違和感がある。

「気にいるものがありましたか」

セレス王子の声は予想よりも少し低かった。隣からかけられた声に、贈り物のお礼を言っていなかったことを思い出した。私ってば、なんて不敬な、と顔が青くなる。

「お礼が遅くなりました。たくさんのプレゼントありがたく頂戴いたしました」

そう言うと、セレス王子がまた優しく微笑んだ。何を考えているのか、読みにくいな、と思ってしまう。セレス王子はおしゃべりが得意な方ではないのか、あまり話をしたくないのか、今日も貴族の相手以外は静かに佇んでいるだけだ。

「何が似合うだろう、と思って選びました。あなたは美しいからなんでも似合うんだろうけど、俺の色を身につけてくれると嬉しいと思って」

「・・・私には過ぎるお言葉です」

一瞬呆けてしまった。何を言われたか理解するまでに時間がかかった。あの量のプレゼントを、まさかセレス王子が全て選んだのか?と怪しんでしまう。そんな時間もないくらい忙しかったはずだし、プレゼントは適当に選んで送っておいてくれ、という殿方が圧倒的に多いのは知っている。アラン王子からのプレゼントだって、信頼できる従者に選ばせているのだろうな、と思うものはたくさんあったし、それは別に失礼でもなんでもない。忙しいのだから仕方のないことなのだ。

しかも今俺って言った?セレス王子は公の場ではずっと私って言っているのに、俺って言った?

「そのドレスを選ぶ気がしてた。当たっていて嬉しい。ネックレスもつけてくれて嬉しいな。俺の色でいっぱいなあなたを見れたから、今日はいい日だ」

手が伸びてきて、私の髪を一房とるとそのまま髪の毛にキスをした。さっきまでの優しい笑顔のまま、そういうことを言うので驚いて私は声が出ない。セレス王子ってこういう人だったっけ。私たちの会話は二人にしか聞こえない音量だけど、セレス王子が髪の毛にキスしているのを見た貴族がまあ、と声をあげるのを聞いた。

仲睦まじく見えているならそれが一番だ。セレス王子と私は未来の王と王妃だ。二人の不仲はそのまま貴族に不安を与え、付け入る隙を与えてしまう。だからこそ、私は今日気合いを入れてきたはずだ。

「今度、どこかへ出かけませんか。あなたと一緒ならどこでもいいけど、できれば遠いところがいいな。あなたが好きな甘いものでも食べにいきませんか」

真っ直ぐに目をみてそう言われると、頷くことしかできなかった。さっきからものすごいことを言われている気がするけど、もしかしたらセレス王子なりに、私との距離を縮めようとしてくれているのかもしれないと思うと冷静になった。お前のこと好きじゃないけど結婚してやるよ、と言われるよりずっといい。セレス王子が努力しているように、私もまた努力しなければ。

「私も一緒にお出かけしたいです。ぜひ、セレス王子が普段どのようなことをしているのか見させていただければ幸いです」

そう声に出すと、セレス王子が真顔になった。美人の真顔は怒っているように見える、と聞いたことがあるけど、本当だな、と思う。私なんか間違えた、と思って冷や汗が出てくる。普段の生活なんて見せるわけないだろう、と思われたのかもしれない。普段どんなことをしているか知るだけでも距離が縮むかな、と思ったのだ。私たち、まだ何も知らないもの同士だし。

「それは、普段も一緒にいていいと、とっていいんですか」

真顔でそう言われて、一緒にいていいというか、それは私がきく立場だと思う。セレス王子の方が圧倒的に忙しいし、私の方が、言い方は悪いが立場は下になる。私がお邪魔してもよろしいですか、ときく立場だ。

「セレス王子のお邪魔じゃなければ」

おずおずとそういうと、セレス王子の顔が緩んだ。あ、間違えなかった、と安心する。美人は笑っていてくれた方がいい。機嫌を損ねなかったことにホッとして、私も思わず笑顔になる。

「セレスと呼んでください。あなたが嫌じゃなければ」

「セレスですか。小さい時に戻ったようですね」

そうだ。小さい時は一緒に遊んでいた。だんだん疎遠になってしまったけれど、三人で遊ぶときはセレス王子のことをセレス、と呼んでいた。思い出して懐かしくなる。

「戻ってはいません。あなたの婚約者は俺だ」

冷たい声に引き戻された気がして、背筋が伸びた。私また間違えたんだ、と思うと恥ずかしくなる。アラン王子との会話でこんなにアラン王子を真顔にさせたり、冷たい声を出させたりと言うことはなかった。セレス王子とはまだ、始まったばかりとはいえ、前途多難だ。ひっそりと落ち込んでしまう。小さい時に戻ったようですね、という言葉のどこが不快だったのだろうと考えても答えは出てこない。しょうがない、昔のことは話さないようにしよう、と心に決めた。私がひっそりと落ち込んでいると、隣からため息が聞こえた。不快にさせてる、と思って身が縮こまる思いがする。身を縮こめていると、貴族の一人がセレス王子に話しかけにきた。これ幸い、とそっとそばを離れる。セレス王子との会話は思っていたよりも疲れてしまった。先に退出させてもらおうかな、と出口に視線を移す。それを察した侍女が、自然と道を作ってくれる。今日は疲れた、退出してももう大丈夫だろう、とその道を歩く。出口に立っていたのは、騎士団長の息子のシリルだった。顔は見たことがあるし、セレス王子と仲がいいのも知っている。

「ご婚約、おめでとうございます」

かけられた言葉には反応しないわけにはいかない。

「ありがとう、シリル」

「セレス王子はこんな美しい人が婚約者で羨ましい限りです」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

「紫もよくお似合いです」

人が良さそうな笑みを浮かべていて一見そうは見えないけど、シリルは騎士団長の息子であり、現騎士団の一員でもある。ものすごい強いんだろうな、と言う人並みの感想しか抱けないのが申し訳なくなるくらい、努力を積んでいる人だ。

「セレス王子もたまに騎士団の訓練にくるんです。よければ見にきてください」

そう言うと、シリルは促すようにドアの前まで歩いてくれる。私が馬車に乗るまでシリルは送ってくれた。


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