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婚約破棄された者同士でくっつく話  作者: まる


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王女の気質

レティシア王女とのお茶会は真昼の庭園、ポーチを使わずに行った。わざわざ出したテーブルの上に用意された菓子や軽食をほとんど食べずに終わるんだろうなと思う。


「お待たせいたしました」


「いえ」


時刻ちょうどに現れたレティシア王女が椅子に座ると、ふわりと甘い匂いが漂った。香水だろうな、と思っていると、レティシア王女の後ろに控えていた侍女がすぐに紅茶を用意する。その紅茶に口をつけるのをみて、俺も紅茶に口をつけた。

俺の方から用件を話さなければと思うのに、なんだか言い出しにくい。言い出しにくい理由はわかっている。自分が婚約者の時に、レティシア王女に対して、冷たい態度をとっていた自覚があるからだ。


「リリア様のことですか?」


そうレティシア王女が口を開いたのに頷く。レティシア王女は表情を崩さないまま、紅茶を口に運んでいる。リリアとアランがいた時のような和やかさはない。

どちらかというとピリピリとした緊張感がある。


「私をいじめているという噂があるとか。根も葉もない噂ですわ。リリア様には本当によくしていただいています。

ケーキをこぼしてしまった件に関しましても、その後直接謝罪に来てくださいました。あまりにも根も葉もない噂がこれ以上広まるようでしたら、私としても対応しなければいけないと考えております」


レティシア王女は一息にそう言うと、ふん、と鼻を鳴らした。その勢いに驚いていると、レティシア王女は俺をジロリと見て嫌そうな顔をした。


「リリア様があんなに良い方なのに、なぜこんな噂になっているんです?王宮はどうなっているのかしら」


その嫌味な言い方にラルがこほんと咳払いをする。確かに対応が遅いことは認めなければならないが、こんなふうにレティシア王女に責められたことは一度もない。そもそも、レティシア王女が俺のことをこんな目で見たことがない。


「対応が遅くなったことは申し訳ない」


「私に謝るのではなくて、リリア様に謝罪があるべきでは?」


ふん、ともう一度鼻を鳴らしたレティシア王女に思わず笑ってしまう。俺が笑っているのを見たレティシア王女があっけに取られた顔をするのも面白かった。


「そうだな。リリアに謝るよ」


これだけ大声でレティシア王女がリリアを庇ったのだ。噂は近いうちに収束するだろう。レティシア王女は俺がわざわざ話さなくても、俺の言いたいことをわかってくれていた。その察しの良さを有難いと思うと共に、婚約者でなければこんなに言いたいことをはっきり言う令嬢なのだと、認識を改めた。


「リリア様はご実家に帰られているとか。体調はどうかしら」


それに何も答えられない。昨日リリアのところに移動魔法を使って行こうとしたけれど、夜中だったからやめておいた。今日は夜でも良いからリリアのことを見に行きたいなと思っている。

なにも答えない俺に、レティシア王女は扇を開いて顔を扇ぎ始めた。


「・・・、私少し暑いですわ。防護壁をお願いできるかしら」


「気づかず申し訳ない」


すぐに防護壁をはって、冷気を生み出すように調整をした。暑そうには見えなかったけどな、と思っているとレティシア王女の顔が曇っていることに気づいた。レティシア王女は眉根を寄せて、何か考え込むように扇を仰いでいる。


「私の考えすぎなら良いんですけれど、アラン王子が第二夫人を迎えたいと言ってきています。注意された方がよろしいのでは?」


「アランが?」


防護壁をはれ、と言ったのはそれか。と気づいてから、言いにくいことだろうに、と思った。レティシア王女に対してまだ結婚もしていないアランが、第二夫人を望んでいると言うことは屈辱的なことだろう。それでも伝えてくれたことに感謝するほかなかった。


疑っていた線が濃厚かもしれない。アランは父上にはわかったと言っていたが、納得してなかったのだ。

アランが第二夫人に誰を迎えたいのかはわからない。それでも嫌な胸騒ぎがした。


「教えていただき感謝する」


「良いですわ。リリア様のことは私も心配しております。王宮の方が安全かもしれません」


どうか、あなたの目が届くところに、と言ってレティシア王女が目を伏せた。リリアがレティシア王女にこんなに慕われているとは思っていなかった。レティシア王女にとって教えたくないことを元婚約者である俺に教えるほどリリアのことを心配してくれている。


「セレス王子は、リリア様のことをいつから慕っているんですの?」


ごほっと咳き込んだ俺に、ラルが小声でセレス王子、と咎めてきた。口元を拭ってからレティシア王女を見ると、見たことのない顔をしている。意地悪くつりあがった口の端に、母上を見ているようだな、と思った。

言って良いのか、と考えたけれどどうせ見透かされている、と気持ちを持ち直す。婚約破棄はレティシア王女の方からだった。今更不敬にはならないだろう。


「12年ほど前から」


今度はレティシア王女が、動きを止める番だった。


「12年?」


「あなたと婚約しているときも思っていたことになる。それは本当に申し訳ない」


レティシア王女に対して頭を下げると、レティシア王女が大きくため息をついた。


「頭を上げてくださる?」


頭を上げてレティシア王女を見ると、困ったような顔をしていた。


「私の努力が足りなかったのかしら。私は魅力的ではなかった?」


「いつもあなたの話は楽しかった。あなたが婚約者で良かったと思っていた」


嘘ではない。レティシア王女以外が婚約者だったら、俺はリリアを思いながらもっと冷たい態度をとっていたと思う。その俺に完璧な婚約者を演じなければ、と思わせたのはレティシア王女のいつも俺に対して興味を持っていると伝えてくれる態度と、彼女の生まれだった。


レティシア王女は俺の返事に仕方ない、というふうに笑った。その後、扇を閉じてパシリと自分の手に打ち当てる。


「なぜこんなにうまくいかないのかしら」


独り言のような呟きだった。それに俺が反応しないと、レティシア王女は俺の方を見て、ふう、と息を吐く。


「アラン王子とならうまくできるのではないかと思って、婚約者まで変えてもらったのに、アラン王子から第二夫人をとっても良いかと訊かれたわ。まだ結婚式すら挙げてないのよ?どうしてこんなにうまくいかないのかしら」


アランが第二夫人を結婚さえしていないのに言い出したのは、この婚約がレティシア王女のわがままによって変えられたものだとみんながわかっているからだ。レヴェールはもうリモンに無理が言えない。レヴェールでもリモンでも

第二夫人を迎えることは悪いことではない。現にレヴェールの現国王は第三夫人までおいている。

アランはレティシア王女が嫌だと言えないことをわかっていてそれを訊いたのだ。


「あなたのせいではない」


「慰めは結構よ」


レティシア王女はそう言って、紅茶を口に運んだ後、苦い顔をした。

アランとうまくいかないことも、俺とうまくいかなかったこともレティシア王女のせいでは決してない。俺との問題は俺の中で12年、リリアへの感情とうまく決別できなかったことの問題だ。


「でもいいの。これまでだって努力してきたわ。これからも努力するだけよ」


レティシア王女はそう言って微笑んだ。大国の姫らしく、わがままで婚約破棄がされたと思っていたが違うらしい。自分にもその責任があることがわかって、少しだけ胸が痛んだ。けれど、確実にそれよりもリリアと婚約できた嬉しさが勝る。


もう一度無言で頭を下げた。レティシア王女は結構よ、と言って笑っていた。


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