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贈り物は義務ですか

贈り物が、と侍女が言うのを聞いて、何かしら、と首をかしげる。この時期に贈り物なんて珍しいと、ドアの方を見ると、ドアが開いて次々と箱が運び込まれてきた。それは一つ、ふたつではなく大量にあって、こちらに置かせていただきます、という言葉とともにそっと絨毯の上に置かれた。私が驚いて扇を広げて口元を隠すと、侍女が全てセレス王子からとなっております、と教えてくれた。ああ、だから箱が紫なのか、と納得してしまう。アラン王子は王家の色である赤だった。セレス王子は深い紫色の瞳をしている。セレス王子の紫色の瞳はセレス王子の母上であるムルナ王妃の瞳の色だ。

「開けてちょうだい」

色めきたつ侍女たちにそう声をかけると一斉に箱に向かった。箱の中から出てきたのは、宝石にドレス、靴に扇、そして花束だった。

「カードが入っております」

侍女が差し出すそれを手に取ると、一言だけメッセージが書かれていた。気にいるものがあれば幸いです。ドレスは全てが紫、もしくは紫に近い色に統一されていて、今までは赤を着ていたのになあと悲しくなった。12年間婚約者だったのに、今はもう他人よりも遠い。アラン王子がレヴェール王国に婿に行くことが発表されると同時にセレス王子が第一王子になること、そしてセレス王子の婚約者が私であることが発表された。

12年もアラン王子の婚約者だった私をそのままセレス王子の婚約者に据えるのはいかがなものかという指摘も貴族からは上がったけれど、王妃教育がものを言った。王妃として、もしくは王女として教育されてきたものでなくては婚約者には相応しくないという意見がほとんどだったのだ。しかも今後は大国であるレヴェールとの交流が密になると考えられる。その時に恥ずかしくない王妃をという声もあった。

発表の前にセレス王子とは一度だけ顔合わせをした。お互いよく知った仲といえばよく知った仲だ。アラン王子ばかりを見つめていた私からすると、いきなり大きくなったような気がしていた。アラン王子が太陽のようなら、セレス王子は月のようだ。紫の瞳は美しく、暗い髪の色は一層夜の気配を濃くさせる。学問にも武芸にも秀でた優秀な人。

「リリア様、宝石は月の雫のようでございます」

侍女が持ってきてくれたそれを扇の上に乗せてみる。キラキラと輝く宝石にため息の方が漏れた。セレス王子はあの発表の日から忙しく、まだ二人で食事を取ったこともなければお茶をしたこともない。それを私はなんとなくありがたいと思っている。ため息も暗い顔もしてはいけない。信用できる侍女たちといる時以外は常に微笑んでなくてはいけない。セレス王子との婚約に禍根があるなど周りに思わせるなど持っての他だ。

それでも、アラン王子との日々が思い返されて辛くなってしまう。楽器を二人で演奏したこと、アラン王子から初めてもらった手紙、初めて二人で踊った日、何度となく囁かれた言葉、思い返しては辛くなる。形だけの婚約者ならよかった。だけど私はアラン王子が私を愛しんでくれたのと同じくらいアラン王子に恋をしていた。この人となら、と本気で思っていたのだ。

扇の上に乗せた宝石を滑らせて、侍女の手のひらに返した。

セレス王子も同じ気持ちだろうなと思うと、こうやって贈り物をしてくれるだけ感謝しなければと思う。セレス王子の方が、今は気持ちが落ち着かないだろう。いきなりの婚約破棄に、いきなりの第一王子への昇格だ。

「今夜のパーティーへの贈り物だと思います。ドレスはどちらがお好みですか?」

今夜は第一王子に就任したセレス王子のお祝い会だ。侍女が立って並べてくれるそれに目をやって、パタパタと扇を扇ぐ。どれでもいいとは言ってられない、自分の気持ちに服装は大きく関わってくる。華やかで、それでいて品があるものを選ばなければならない、と言ってもどれもそう言うデザインになっている。セレス王子はドレスの趣味も抜群なのか、従者が抜群なのか。

「それにするわ」

伝統的なAラインのドレスを扇でさして、侍女がすぐにご準備を、と頭を下げるのを見送る。これから湯浴みをして、化粧をして、髪を整えて、と考えるとうんざりするけれど、今日は夫となる人が主役の日だ。なんとしても美しい自分を保持しなければならない。

「綺麗でいられるかしら」

侍女が動き回っているのを尻目に、小さくつぶやいた。セレス王子とダンスが踊れるかも心配だった。一緒に踊ったことがないのだ。アラン王子の弟ということで小さい時は一緒に遊んだこともある。でも、年が経つにつれて、セレス王子は私たちと遊ばなくなってしまった。でも、そんなことを考えていてもしょうがない、と席を立つ。パーティーの準備など慣れたものだ。手早く終わらせてしまおう、と気合を入れた。


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