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婚約破棄された者同士でくっつく話  作者: まる


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15/31

婚約はこういうものだ

そちらを見ると、レティシア王女が応接室に入ってくるところだった。


「あら、遅れてしまったかしら」


「いえ、私が早く来すぎてしまったのです」


レティシア王女は予想した通り、赤を基調としたドレスだった。紫を基調としたドレスにして良かったと胸を撫で下ろす。これで私だけ紫を基調としたドレスだったら、なんだかセレス王子は私のものよ!と言っているみたいで気が引ける。


レティシア王女が連れている侍女も一人で、親近感が湧いた。王女だったら、何人も連れていることもある。レティシア王女も大人数が好きではないのかもしれない。


「甘い紅茶ね。焼き菓子もとっても美味しそう」


レティシア王女は私の隣に座って、侍女が淹れた紅茶に口をつけた。そう言って焼き菓子を褒めてたので、ラルが光栄です、と答えた。すると、レティシア王女はカップを置いて、私に向き直った。


「リリア様、私あなたに謝らなくちゃいけないことがあるの」


レティシア王女はそう言うと私のことをまっすぐに見つめる。いきなりのことに驚いていると、レティシア王女の瞳が不安げに揺れる。大きな瞳がこぼれ落ちてしまいそうだ。この瞳に見つめられたらなんでも許してしまいそう。


私は美人に弱いことを自覚しなければならなさそうだった。レティシア王女は美しい。油断するとなんでもかんでもいいよいいよと言ってしまいそうだ。


「なんでしょう」


内心の許しちゃいそう、と言うのを表に出さないように口元を扇で隠す。レティシア王女が謝らなければならないことなら、おそらく婚約破棄の件だろう。


レティシア王女から直接謝罪を受けるなんて王家的にいいんだろうか。私、聞いてもいい話かしら、と思って後ろのアリをチラリと振り返った。

アリはこくりと頷いただけで何も言わない。


「私ね、」


レティシア王女が続けようとした時だった。扉が開く音がして、おそらくその場にいた全員が扉のほうを振り返った。


「何かありましたか?」


セレス王子がそこにいた。従者は連れていない。私はどうしようかと迷ってレティシア王女の方を見た。

レティシア王女は眉根を寄せて困ったような顔をして、扇を開いた。


「いえ、何も」


隠れてしまって見えなくなってしまったけれど、レティシア王女が何を言いたかったのか、聞きたかったなと思ってしまう。できればアリもラルもいないところで聞きたい。一対一の人間同士の話ならば、王家のことを気にせずに聞ける。


謝罪はそうやって受けたい。

残念だったけど、ありがたくもあったセレス王子の登場に、知らず知らずに笑みが溢れる。


「セレス王子、準備の手配をありがとうございます」


「リリアは甘い焼き菓子が好きだと聞いたから、多めに用意したよ」


セレス王子が私の隣に座る。私は必然的にレティシア王女とセレス王子の真ん中ということになった。

セレス王子が焼き菓子をとるようにラルに言ってくれて、ラルが私の前に焼き菓子を置く。そんなことをしてもらって、少し戸惑ってしまう。


「嬉しいです。レティシア王女は焼き菓子はお好きですか?」


「大好きよ。あなたと好みが合いそうで嬉しいわ」


「本当ですか。私も嬉しいです」


レティシア王女はさっきまでの雰囲気と違って、ホワホワと嬉しそうに焼き菓子を見つめている。


「リン、あれをとって」


「承知しました」


レティシア王女の従者の方はリンさんというらしい。そのリンさんに言い付けている様子からも、二人の親しさが伺えた。


「食べないの?」


レティシア王女を見つめていると、セレス王子が隣から不思議そうに訊いてくる。


「アラン王子がいらっしゃってないので」


「いいよ、そんなの」


セレス王子がそんなことを気にしてたのか、と言うふうな顔をしたけれど、王家の方なので、とはいえなかった。まだいらっしゃってないうちから食べていたら、それこそ気分を害されるかもしれないし、と思っていると、レティシア王女は早速焼き菓子に手をつけていた。


「これ、本当に美味しいわ。食べましょう」


そう言って食べているレティシア王女を見たら我慢している方がおかしいような気持ちになってくる。でもレティシア王女はアラン王子の婚約者だし、レヴェールの王女だから立場が違う、と思ってセレス王子をチラリと見ると、にこりと微笑まれた。


「クリームをつけると美味しいらしいよ」


そう言ってラルに私にクリームを渡すように言い付ける。ラルはすぐに動いて私にクリームをくれた。もういいや、と言う気分になって焼き菓子にクリームをたっぷりと乗せていただく。口に入れた瞬間の焼き菓子の甘さとクリームの濃厚さに、体が喜んでいる気がした。


「すごく美味しいです」


私の言葉にセレス王子が笑って、これも美味しいらしいよ、と自分の近くにあった焼き菓子をとってくれた。そんなことさせてはいけないので、慌てて手を止めようとそっと腕に触れる。


「恐れ多いです」


そういうとセレス王子がにっこりと笑って私の手をそっと握った。


「大丈夫」


セレス王子はそのまま片手で私の手を握って、片手で焼き菓子を私にくれた。気にいるといいけど、と私の頭を軽く撫でる。私はそれに照れてしまって、急いで手を離した。

レティシア王女の方を見ると王女も焼き菓子が気に入ったようで、もてなしが成功していることにほっとした。


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