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婚約破棄された者同士でくっつく話  作者: まる


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余裕がない

朝方、眠たいなとまだ思っている頃に、アリが来客が、と教えてくれた。来客?と思っているとアリから小箱を差し出される。


「ラル様からこれを」


「何かしら」


ラルが持ってきたものならきっとセレス王子からだと思うけど、と受け取って蓋を開けると、小さなカードが入っていた。そのカードを手に取ると、カードの下から出てきたのは美しい首飾りだった。綺麗、と思わず呟いて急いでカードを見ると、あなたを思っての一文が添えられていた。


「こんなに朝早くに」


なぜかしら、とアリに訊くと、アリは少し笑った。


「お茶会に似合うと思ったのかもしれませんね」


そう言われて、首飾りを自分の首元に当ててみる。


「つけていくわ」


そういうとアリが承知しました、と頷いてくれた。セレス王子とアラン王子に会うのに、不敬があってはいけないから、今日は準備にも抜けがないようにしなきゃと思い直す。湯殿から上がって身なりを整えてもらっている間、自分のことをまじまじと鏡で見る。そんなに美しいわけではないけれど、そんなに美しくないわけでもない。お母様譲りの瞳と、お父様譲りの唇は自分の顔の中でも好きな部分だ。けど、


「レティシア王女は美しいわ」


思わず口に出してしまう。金色の瞳に、金色の髪の毛、私も同じ金色の髪をしているけれど、あんなに輝いていない気がする。


「リリア様も負けずに美しいです」


妬んでしまってはいけないと思う。昨日セレス王子がレティシア王女のことを気にかけていないようだったから、私はアラン王子への気持ちを断ち切ろうと思えたんだ。


これで比べられているようだったら私は昨日のパーティーでそんなふうには思えなかっただろう。結い上げた髪にそっと触れて、ため息をついた。


「アリ、私、頑張らなくちゃいけないわ」


美しさでは叶わないのだから、せめていい人でいたい。そしてせめて賢くありたい。アリにそう言うと、アリはもう十分頑張ってらっしゃいますよ、と優しく言ってくれた。仕上げとばかりに首に付けられた首飾りに触れる。三人よりも先についていた方が印象がいいわよね、とだいぶ早い時間に応接室に行くことにした。


今日の用意は私が、と名乗り出たのだけれど、王家でのことだから、とセレス王子に断られてしまった。第一王子のセレス王子が直々に用意してくれることになった。


「ラル?」


護衛の騎士に開けてもらって、応接室に入ると、もうすでにテーブルや花は用意されていて、食事も運ばれてきているようだった。そこにラルがいたので驚いて声をかけると、ラルは控えめに微笑んでくれた。


「用意を仰せつかりました」


「随分早いのね」


「リリア様はきっと早く来るだろうと主が」


「・・・気を遣わせてしまったわね」


王家に対して遅れがあってはならないと思って来たけれど、セレス王子にはお見通しだったらしい。私のために、早めに用意をさせて悪かったな、と思ってしまう。けど、三人よりも遅いのは家の品格的にあり得ないことだ。


「いいえ、主はもう少し仕事に時間がかかりそうです。リリア様、お先にお茶はいかがですか」


「いただくわ」


「私が」


アリがそう言ってお茶を入れてくれる間にラルが引いてくれた椅子に座る。いい匂いがするな、と思ったら焼き菓子が焼きたてらしい。思わず手が伸びそうになるけれど、お茶はいいとしても焼き菓子にまで手を出していたらそれこそ本当にお茶会を楽しみにきた人になってしまうし、他の三人に対して失礼にあたる。先に食べたい気持ちをグッと抑えて、お茶が来るのを待つ。



「ラル、今朝は贈り物を届けてくれてありがとう」


そういえばお礼を言ってなかった、と思い出してそう言うとラルの瞳がすっと細くなった気がした。


「朝早くに申し訳ございませんでした。主には朝早いと迷惑だと忠告はしたのですが」


ラルがため息をつきながらそう言うから、ラルとセレス王子の関係性が垣間見えた気がした。相当長い時間を一緒に過ごしているんだろうと想像がつく。


「ありがとう。綺麗な首飾りよね」


そう言って、首元を思わず触るとラルは大きく頷いた。


「着けていてだいて首飾りも嬉しいことでしょう」


「お世辞が上手だわ。けどそう言われると嬉しいわね」


お世辞だと分かっていても悪い気はしない。自分にあまり華美な装飾は似合わない気がしていて、宝石はあまり持っていない。セレス王子が似合うと思って贈ってくれたなら嬉しい。


「侍女はあまりお連れにならないのですね」


ラルがそう言って私の後ろを眺めるような目をした。セレス王子と結婚をするのなら、ラルは私の侍女たちと長い時間を共にすることになる。気になるんだろうな。


「そうなの、あんまり大人数が好きじゃないの。アリだけよ。ずっといてくれるのは」


「いつだってお側におりますよ」


アリが差し出してくれたそのカップを受け取ると甘い匂いがした。甘い焼き菓子に甘い匂いのする紅茶を合わせるなんて珍しい。


「お仕えして長いのですか?」


ラルの質問は私にじゃなくてアリに対してだった。私とセレス王子が結婚したら、ラルとアリが一緒に過ごす時間は必然的に長くなる。ラルがアリと仲良くなってくれたら嬉しいな、と思っているとアリは私の斜め後ろに立って、冷たくも聞こえる声で答えた。


「ええ」


ラルはアリの返事にそうですか、と答えただけで終わってしまった。応接室に沈黙が満ちる。沈黙が辛くて、慌てて口を開いた。


「アリとは随分長いの。私が王城に来るようになってからだから、もう12年になるわね」


そこで気づいてしまった。


アリが時間の長さを口に出さなかったのはそれが必然的にアラン王子のことを思い出させる話題だからだろう。いつものことながら心が暖かくなる。アリはいつも私のことを私以上に気にかけてくれる。


「それは長い時間をお過ごしですね」


「そうなの。アリがいてくれるから、いろんなことに困らずに済んでいるわ」


そう言ってアリを見ると、アリがこちらを見て微笑んでくれた。アリは大切な存在だ。

私の心が折れそうな時もいつも支えてくれた。今も、私の予定の管理やそのほかの細々としたこと一切を取り仕切ってくれている。

ありがたいことだなと思っていると扉が開く音がした。


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