6>> 考えは似てる方が良い
「マリーナっ! 大丈夫だった!?」
「グエイン……」
朝の校舎前でマリーナがリゼオンに絡まれたと聞いてグエインは昼の休み時間になった瞬間にマリーナの教室まで駆け込んだ。
落ち込んでいるマリーナをエスコートして人目の少ない中庭まで連れてきたグエインは、マリーナをベンチに座らせるとその横へと座った。
その間ずっとマリーナは俯いたまま目を合わせてはくれない。
グエインは心配で堪らなかった。
「……何を言われたんだ?」
グエインの問いかけにマリーナは一瞬眉間にシワを寄せて目を瞑ると、唇を震わせながら小さく息を吐いた。
「……わたくしが騙していたんだと言われたわ……」
「はぁ!? マリーナが誰を?!」
予想もしていなかった単語が飛び出してきてグエインは変な声が出てしまった。むしろ騙していたのはマリーナに隠して恋人を作っていたリゼオンの方では無いのか?
「わたくしがリゼオン様を“愛してる”なんて言って騙して勘違いさせてたんだって言われたわ……。
リゼオン様にとって、好きでもない相手に愛していると伝える事はおかしなことだったみたい……」
「好きでもないって……でも、“婚約者”だったんだからおかしくないだろ?」
「……リゼオン様にとってはおかしなことだったみたい……
わたくしもまさか『騙した』なんて言われるとは思わなかったわ……」
そう言って泣きそうになったマリーナが両手で顔を覆った。
『愛するべき相手─婚約者─だったから愛していると伝えた』
マリーナにはそれだけの事だったのに、その言葉を伝えていた相手には何一つ伝わっておらず、それどころかその事を責められた。
“愛”を否定されるなんて考えた事もなかったマリーナにとってはとてもショックな事だった。あんな風に責められてしまうと、間違ってないと思っていた事でも、“間違っていたかもしれない”と思ってしまう。
──もしかしてリゼオン様が冷たかったのも、リゼオン様が他の令嬢と親しくなってしまったのも、婚約破棄だと言われたのも、全てわたくしのせい……?──
そんな考えに囚われてしまいそうになっていたマリーナの伏せられていた頭の上に温かい手が触れた。
「……?」
「……どんな形でだって、自分の婚約者になった相手を愛する努力をする事が間違ってるなんてある訳がないだろ?」
マリーナの頭を撫でながら、グエインが優しく言葉を続ける。
「貴族の婚約なんてほとんどの場合が親が勝手に決めてきたものなんだ。結婚して子供を作らなきゃいけない相手を『好きになれないから愛せない』なんて言ってたら貴族の夫婦なんて成り立たないよ。
しかも自分は“好きになる努力すらせず”にそんな事言ってるとかあり得ない。
俺は絶対にマリーナの考えが間違ってるなんて思わないね。
むしろリゼオン様の考え方の方がどうかと思うよ。しかも外に恋人を作って婚約者は手放さないとか。同じ男として許せないね」
話している途中で腹が立ってきたのか、最後には鼻息荒く言い放ったグエインにマリーナは少し笑ってしまった。
ただ慰める為だけにマリーナの意見に賛同してくれた訳じゃないと分かるから嬉しい……。
「ありがとう、グエイン……」
マリーナから溢れた感謝の言葉にグエインは少しだけ頬を染めた。それの照れ隠しなのか、頭を撫でていた手でポンポンとマリーナの頭を2回、優しく叩いた。
「……あんな奴さっさと忘れちゃえばいいよ」
「……うん、そうする……」
マリーナの返事にグエインは小さく笑った。