婚約破棄されたおかげで元の美貌を取り戻せたけど、復縁要請とか舐めてます?
婚約破棄万々歳なお話
「アデール・カミーユ公爵令嬢!申し訳ないが、君との婚約は破棄させていただく!」
ノア・クレマン王太子殿下が高らかに宣言する。その隣には、特待生制度でこの貴族学園に通う平民のリナさんが寄り添う。アデール・カミーユ公爵令嬢こと私は特に抵抗などしない。むしろ婚約破棄、万々歳である。
「新しい婚約者にはリナを迎える!…この婚約破棄は私に一切の責任がある。君は何も悪くないとここに宣言する。全ては太って醜くなってしまった君を愛せなくなった私が悪いのだ。本当にすまなかった。だが!私の愛おしいリナを虐めていた件については謝っていただく!でなければ慰謝料は払わない!」
それは本当に謝ってんのかというふざけた謝罪も、私は素直に受け入れる。だって、やっと、婚約破棄してくれたのだから。王太子妃というババを自ら引いてくれたリナさんには感謝してもしきれない。何故かリナさんを虐めたことになっているのは納得がいかないが、とりあえず謝っておこう。面倒くさいし。
「私が至らないために、学園の卒業式という貴重な場を汚してしまい申し訳ありませんでした。リナさんもごめんなさい。婚約破棄、謹んでお受け致します」
こうして私は、学園を卒業すると同時に王太子から婚約破棄されたのです。
ー…
家に帰ると、両親と兄が待っていた。この様子だと、すでに婚約破棄の件は知っているのだろう。
「アデール!あのボンクラがお前を捨てたって本当か!?」
「本当ですわ、お兄様」
「やったー!これでアデールが元に戻るー!ふー!」
「アゲアゲですわね、お兄様」
「だって、デブでブスなウシガエルみたいな妹なんて可愛くないだろ?」
「ぶっ飛ばしますわよ?」
「アデール。これは王家の方から持ちかけられた婚約だ。慰謝料はたっぷり搾り取るから、それを使って元の美貌を取り戻しなさい。お前ほどの美女なら直ぐに良い相手が見つかるだろう」
お父様は私をウシガエルと罵ったお兄様の頭を思いっきり叩くと、私の頭を撫でながらそう言った。
「今は良くてヒキガエルみたいな見た目だけどな」
お兄様のお腹にパンチ。お兄様は蹲った。乙女の見た目をバカにしてはいけません。
「アデールちゃん…あのボンクラ王子に見初められたばかりに、可哀想に…直ぐに元の美女に戻りましょうね」
蹲った兄には目もくれず私を抱きしめてくれるお母様。
お父様もお母様もお兄様も、みんな美形。クレマン王国でも一、二を争う絶世の美男美女。私も元はそうだった。
では、何故今私がお兄様にウシガエルと罵られるほどデブなブスになったのか。それは、王太子妃教育の賜物であった。
私の受けた王太子妃教育は、過酷だった。学園から王宮に通って勉強、勉強、また勉強。それは深夜まで続く。寝る間を削って、運動もせずずっと机に向き合って。そして暗殺対策に色々な種類の毒を少量ずつ毎日飲んで慣らして。そんな生活を三年間続けていれば、どんな美女だって吹き出物まみれの脂ギトギトの不細工なデブになるというもので。その間に、あのボンクラはリナさんと浮気してくれやがりました。まあ、私は悪くないとは言えないけど、さあ…。
せめて幼い頃から少しずつ勉強出来ていれば違っただろうけれど、あのボンクラが婚約者を決めたのは三年前。一人息子であるノア殿下を可愛がる王妃様が甘やかして、婚約者をノア殿下本人に決めさせると宣言したのが悪かった。まあ、もしかしたら王太子妃に選ばれるかも、なんて婚約者を決めなかったのはウチも同じだからなんとも言えないけれど。なお、第二王子殿下、第三王子殿下は側室の子であり王位継承権はものすごく低い。うん、なんだかなぁ。
まあ、この三年間で失ったものは直ぐに取り戻すつもりだし、逆に詰め込み教育のおかげで教養は並みの公爵令嬢には負けない。うん、ポジティブにいこう。さっさと痩せて新しい誠実な婚約者を掴むぞー!
ー…
半年が経った。私は王家からの慰謝料を全部エステに注ぎ込み、無事に元の美貌を取り戻した。肉割れは、ダイエットの勲章ということでお願いします。はい。で、それを見たボンクラ王子は私に復縁要請をしてきた。舐めてるの?もちろんお断りした。
一方でリナさんはというと、憧れの宮廷に入って最初はめちゃくちゃ頑張っていたそうだけれど、私と同じくその可愛らしい容姿は段々と崩れていったらしく。ボンクラ王子が早々に私に復縁要請をし、絶望しているらしい。それでも王太子妃教育を頑張っているのは、意地なのだろうか?平民にしては頑張っているとも聞く。頑張れ、超頑張れ。
ボンクラ王子はというと、どうも国王陛下が一連の流れをみて、流石に甘やかし過ぎたと気付き再教育を開始したらしい。内容は伏せられているものの、かなり過酷らしい。一説には、国王陛下自らがボンクラ王子をしごいているとか。国王陛下、戦争でも常に前線に立つ脳筋だからなぁ。ボンクラ王子にはきついんじゃなかろうか。
さて、美貌を取り戻した私だが、ある男性から声を掛けられている。その相手は、ボンクラ王子に見初められるまでは私の婚約者候補の一人だったルイ・ヴィクトルという男性だ。幼馴染でもある公爵令息の彼は、私が諦められず婚約者を選ばないで待っていてくれたらしい。でも、それってボンクラ王子との破局を願っていたってことでは…。まあ、いいか。うん、過ぎたことだもの。うん。
「アデール」
「ルイ、どうしたの?」
「そろそろいいかなと思って」
「何が?」
「僕と結婚してください」
ルイの手には結婚指輪。
「…私、太るとウシガエルのようになるんだけど、いい?」
「その頃の君も諦められなかった僕にそれを聞く?」
「貴方、変わってるわ」
「それだけ君が好きなのさ。お返事は?」
「喜んで!」
虐めの件は自作自演だった模様。リナさん強い。