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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

きゅうめい!~頭チンパン殿下はヒロインいじめの首謀者を見つけたい~

作者: 山納言


 スートッカ王国にある貴族学園。

 文化祭の打ち上げパーティー会場の講堂にて。


「レベッカ・ジャスティーヌ公爵令嬢! 君がこのモモカにしたイジメの数々はけっして許すことのできるものではない! よってこの僕、トゥール・スートッカの名において君との婚約は破棄し、悪役令嬢である君は修道院送りの刑に処す!」


 すこぶる頭の悪いことで有名な残念イケメンの王太子トゥール・スートッカが、婚約者であるレベッカ・ジャスティーヌ公爵令嬢に婚約破棄を言い渡した。

 トゥールの脇では、頭髪がピンク色なモモカ男爵令嬢がひどく怯えた表情のまま固まっている。


 一方、修道院送りの処分を突きつけられたレベッカ。

 彼女は口元を扇で隠し、小さくため息をつくとともに、隣に立ち並んでいる人物へと視線を投げかける。

 

 レベッカの隣にいるのは、彼女の無二の親友であるマチルダ侯爵令嬢だ。

 マチルダも己同様、トゥールの愚行に呆れてくれていることを期待し、レベッカは「また殿下がご病気を発症なされましたわ……」と無言の愚痴をこぼしてみせた。


 すると、マチルダは目を見開いたあと、すぐさま弾かれたようにばっと右手を挙げた。


「殿下! 違うのです! レベッカ様にモモカ様をイジメるように指示したのは私なのです!」

「なに? では君がイジメの首謀者だったのか?」

「はい! 私が首謀者です! モモカ様へのイジメのすべては私の指示によるものです!」


 マチルダの告白を受け、にわかに会場内がざわつきはじめる。

 たとえ親友の仲といえども、侯爵令嬢が格上である公爵令嬢にイジメをさせていたなど許されるはずがない。

 また前代未聞の話でもあった。


(レベッカ、まさか乙女の秘密を盾に罪を擦りつけようとしてくるなんて……!)


 一方、レベッカからの「なぜ?」という疑問の視線に気づいていないマチルダ。

 彼女は、自作のホモ小説――手書きの生々しい挿絵入り――をレベッカに見せたことを心から悔やんでいた。

 二人一緒にキャッキャウフフと盛り上がった、あの青春の日々は幻のものであったのだと。


 身代わりにならなければホモホモしい秘密を暴露するわよ。

 秘密を分かちあった親友から、そんな風に視線で脅されるとはマチルダは夢にも思っていなかった。

 なお修道院送りの刑や侯爵家の凋落より、己の名誉のほうが遥かに大事でもあった。


 マチルダはうつむき、悔しさから握りしめた拳を太ももに軽く叩きつけ、「スン」と小さく鼻をすすった。


 すると、近くにいたエミリー伯爵令嬢がビクッと身をすくませるや、ものすごい勢いで右手を挙げた。


「殿下! 違いますわ! マチルダ様にイジメをするように強いたのは私なのですわ!」

「ん? レベッカでもマチルダでもなく、君が首謀者であったと?」

「ええ! 本当の首謀者は私! モモカ様へのイジメのすべては私の指示によるものなのですわ!」


 エミリーの告白を受け、さらに会場内がざわめく。

 伯爵令嬢が格上の侯爵令嬢を通し、より格上の公爵令嬢を陰で操っていたというのだ。

 前代未聞どころの話ではなかった。


(マチルダ様、まさか私の小遣い稼ぎのことを存じていらしたなんて……!)


 一方、マチルダからの「なんで?」という疑問の視線に気づいていないエミリー。

 彼女は、法で禁止されている麻薬生産でもって荒稼ぎしている悪事を、マチルダに知られていたことに驚きを隠せないでいた。

 うつむいて握り拳を太ももに軽く叩きつけ、「スン」と小さく鼻をすする。

 その一連の所作はエミリーがご新規様と取引する際に用いる秘密の合図であったのだ。


 秘密をばらされて処されたくなければ身代わりになれ。

 同級生からそんな風に脅されるとは夢にも思っていなかったエミリーだが、背に腹は変えられない。

 麻薬生産に科されるであろう罰の重さを考えれば、修道院送りのほうがよほどマシであった。


 エミリーは懐からハンカチを取りだし、口元を入念にぬぐう仕草をしてみせる。


 すると、近くにいたゴードン子爵令息が「んぁ!」と裏返った大声を発したあと、慌てふためいた様子で右手を挙げた。


「で、殿下! ぼ、ぼぼ、僕が首謀者ですぅ!」

「んん? 今度は君が首謀者だって?」

「そうなのですぅ! すべては僕が企てたものなのですぅ!」


 ゴードンの告白を受け、額に汗してキョドっている彼へと視線が集められる。

 唐突に気色悪い鳴き声を発したゴードンを、令嬢を主に多くのものが気持ち悪がっていた。

 家格がどうのこうのは二の次だ。


(エミリーめ、ハンカチガン舐め王子なんて末代の恥どころの騒ぎじゃないぞ……!)


 一方、エミリーの「さっさとしろ変態」という催促の目で睨まれているゴードン。

 彼は、目をつけた令嬢のハンカチを盗んでは隠し持ち、放課後にその子の椅子に座って舐めまわすという特殊な性癖の持ち主であった。

 「ハンカチガン舐め王子」とはゴードンの秘密をたまたま知ったエミリーが彼に名づけたあだ名だ。


 お前がハンカチガン舐め王子なことバラすぞ。

 いつかそんな風に脅される日が来るだろうとはゴードンも思っていたが、まさかこんな形で訪れるとは夢にも思っていなかった。

 また、さすがに性癖をバラされるのだけは勘弁でもあった。


 ゴードンは緊張から喉が渇き、「ウボフッ!」と奇妙な咳払いをしてしまう。


 すると、近くにいたガルダ男爵令息が眉をぴくりと動かしたあと、堂々と右手を挙げた。


「殿下。僭越ではありますがモモカ嬢に対するイジメの首謀者は俺です」

「なんだって? 一体どういうことだ?」

「なにもかも俺の責任だということです」


 さすがにこれはおかしいと、トゥール以外の全員が不審に思う。

 いい加減、各々が前者の身代わりにさせられていることは明らかであった。

 いまだに馬鹿正直に各々の言い分を信じつづけているものは、イジメの首謀者探しに躍起になっているトゥールくらいなものだ。


(ゴードンめ、俺が猟奇殺人鬼ウボフであることを知っていたのか……!)

 

 一方、いまだ咳きこんでいるゴードンの横顔をにらみつけるガルダ男爵令息。

 彼は、いま巷を賑わわせている殺人鬼その人であり、殺した人数は五十人をゆうに越える凶悪な犯罪者であった。

 なお「ウボフ」という名は、彼が心の中でのみ自称している二つ名のようなものだ。

 よって公になっているわけでもなければ、人前で口に出したこともかつて一度たりともない。


 身代わりにならなければ貴様の正体をバラすぞ。

 完全犯罪を犯しつづけてきた自負があるガルダは、あんな気色悪い鳴き声を発するゴードンに正体を気取られているなど信じたくなかった。

 ともあれ、ウボフであることがバレれば極刑は免れないため、ここは大人しく身代わりになるよりほかない。


 ガルダは不安を少しでも紛らわそうと、右手を口元に添えてから頬をかき、耳たぶをきゅっとつまんでから少し引っ張って離し、最後に後頭部をぼりぼりかいた。


 すると、壁際に控えていたメイドが無表情のまま、するりと左手を挙げた。


「殿下。どうか発言をお許しください。真の首謀者は私なのでございます」

「む? 今度はメイドの君か」

「はい。恐れながら私めが真の首謀者にございます」


 とうとう生徒以外に責任が移されてしまった。

 いつまでこの流れが続くのかと、すでに大半のものが白けはじめている。

 いまだ真剣なものはやはりトゥールくらいなものだ。

 「頭チンパン殿下」の異名は伊達ではない。


(あの坊や、私がスパイであることを知っていたのね……!)


 一方、いまだ落ち着きのない様子でいるガルダを冷静に観察しているメイド。

 彼女は、かつてこの国から無実の罪で追放されたと嘆く元子爵令嬢の母をもつ、この国に復讐することを生きがいとする隣国からのスパイであった。

 また王国の国家転覆計画の一端を担ってもいた。

 

 計画をバラされたくなければ身代わりになれ。

 スパイ独自のハンドサインでそう呼びかけてきたガルダに驚愕しつつも、メイドは粛々と受けいれる。

 計画を妨げることだけはあってはならないと。

 なお、実のところ彼女の母はゴリゴリの重犯罪者であるのだが、幸か不幸か、メイドはいまだその事実を知らないでいる。


 メイドはトゥールの前まで大人しく歩いていく。


 すると、出入り口の扉が勢いよく開き、姿を見せた下っ端の衛兵が緊張した面持ちで左手を挙げた。


「お、お待ちください、殿下! そしてなにとぞ発言をお許しください! 一連の首謀者は俺なんです!」

「なんだと? 君が首謀者だって?」

「は、はい。その人は俺の指示に従って動いただけなんです!」


 自称首謀者の社会的地位がどんどん下がっていく。

 トゥールと自称首謀者たち以外は、このやりとりから完全に興味を失いかけていた。

 すでにパーティーの続きを楽しみはじめたものもちらほらと見受けられる。


(姉さん、あなたを死なせるわけにはいかない……!)


 一方、メイドからの「てか誰?」の視線を真っ向から受けとめる下っ端の衛兵。

 彼は、スパイであるメイドを生き別れの姉と思いこんでいる自称弟であり、彼女の復讐を陰ながら見守ってきた自称理解者にして、素で頭が少々ラリってる変人であった。

 当然メイドからはまったく認知されていない。

 完璧な赤の他人である。


 どうして私の身代わりになろうとしてくれるの。

 メイドから向けられている「てか本当に誰?」の視線を、そんな風に都合よく解釈した下っ端の衛兵は「これでいいんだ」と悟った顔で首を振る。

 生き別れの姉ではないメイドの心情を盛大に勘違いしたまま。


 下っ端の衛兵は自ら率先して近場の牢獄に向かい、トゥールがその後ろをのこのことついていく。


 すると、二人が廊下に出たところで、野菜の配達に来ていた八百屋のおじさんが神妙な面持ちで右手を挙げた。


「すみません、王子様。信じられないかと思いますが、実は首謀者はあっしなんです」

「む? あなたが?」

「はい。そこの衛兵さんは悪くないんです。悪いのは全部あっしなんですよ」


 ついに舞台はパーティー会場から移された。

 廊下に三人以外の人気はない。

 またパーティー会場から追いかけてくるものもいなかった。


(下っ端の衛兵さんよ、悪いけど修道院送りにされるのはあっしだぜ……!)


 一方、下っ端の衛兵からの「あなた誰ですか?」の問いを無視する八百屋のおじさん。

 彼は、酒と女とギャンブルで首が回らなくなった借金生活から逃れようと、たまたま聞こえてきたうまそうな話にのっかっただけであった。

 修道院送りにされたらシスターを抱き放題だとすら妄想ならびに確信していた。


 じゃあとりあえずやっぱり近場の牢獄に向かいましょうか。

 なんとなくまとまったそんな雰囲気から、三人は外に向かって廊下を歩いていく。

道中の会話は一切ない。


 校門を出たところで、八百屋のおじさんがおもむろにトマトをかじった。


 すると空から、ほうきにまたがった魔女っ子が舞い降りてきて着地し、おずおずと右手を挙げた。


「お、王子様、突然ごめんなさい。でもどうしても伝えたくて。モモカ様に対するイジメの首謀者は私なの」

「え? 君なの?」

「は、はい、私です。だから私を修道院送りにしてください。あと婚約破棄の話を魔法で盗み聞きしてごめんなさい」


 ふいにメイドの顔を拝みたくなった下っ端の衛兵が学園内へとこそこそ帰っていく。

 八百屋のおじさんも、二人の愛娘を娼館に売りとばすという起死回生の金策を思いつき、そそくさと退散していった。

 残るはトゥールと魔女っ子の二人。


(八百屋のおじさん、いい加減にそろそろあなたを救ってみせるから……!)


 一方、すでに離れた場所にいる八百屋のおじさんの背を真剣に見つめる魔女っ子。

 彼女は、最終的には毎回どこかで突然死してしまう八百屋のおじさんを救おうと、タイムリープを何度も何度も繰り返していた。

 特に恩も恩恵もあるわけではないが、ただクリアを目指して意地になっているところだ。


 どうしてほうきにまたがった状態で空を飛んでいたのだろうか。

 トゥールは魔女っ子のほうきをしげしげ眺めつつ、そんなことを漠然と考えていた。

 なんとなく疑問を覚えてならなかったのだ。


 トゥールの不躾な視線に気づいた魔女っ子が「視姦キモッ!」と悲鳴をあげるや否や、大空に向かって空飛ぶほうきで勢いよく飛び立っていく。


 すると物陰から、薄汚い格好をしたホームレスの老人がのそりのそりと歩み寄ってきた。


「話は聞かせてもらいました。いと慈悲深き聡明なる次代の王よ。そなたが此度の事件の真相を究明し、この王国に永久なる繁栄をもたらす礎を築かんことを私は願おう」

「むむっ、あなたは一体……?」

「ライアー・スートッカ。そう言えばわかるかな?」

「ライアー・スートッカだって……まさか! あなたは僕の叔父にあたる王兄なのですか!?」

「いかにも」


 嘘である。


(魔女っ子、今日のパンツの色は黒だったなぁ……!)


 一方、魔女っ子のパンツを思い浮かべてにやけるホームレスの老人。

 トゥールからの問いに、さも偉そうな感じで頷いたホームレスの老人の正体は、息を吐くように嘘を吐くことが生きがいの大嘘吐きであった。

 前職は詐欺師であり、すったもんだの末にホームレスにまで転落した経緯をもつ、畜生にも劣るクソにすぎない。


「ふふ、かつての王族もいまや地に堕ち、このざまにございます……トゥール様、どうか私の話を聞いてくださいませんか――」


 そして、ホームレスの老人はトゥールにテキトーにでっちあげた作り話を言い聞かせていく。

 その世迷言に真剣な顔つきでもって耳を傾け、ときに的外れな質問をせっせと投げかけるトゥール。

 なんのためにもならない、馬鹿二人による世界一無駄な話し合いは小一時間にも及んだ。


 やがて話し合いを終え、「そろそろ残飯を漁る時間ですので」と言い残して去っていくホームレスの老人を見送ったのち、トゥールは貴族学園のパーティー会場へと急ぎ戻った。


 すると、諸事情から遅れて参加していた来賓の国王スートッカ三世が、「家に帰るまでが文化祭です」とちょうど締めの挨拶をしていたところであった。


 トゥールは父である国王スートッカ三世の前に躍りでるや、ビシッと指先を突きつけた。

 たとえ実の父であろうと、もはや許すことはできない。

 義憤にかられたトゥールが声を張りあげんとする。


「国王スートッカ三世! あなたがモモカのイジメの首謀者であったのですね! さらには己が王位に就くために血をわけた兄であるライアー様を不当に貶めた罪……それらは王にあるまじき悪行であり、けっして許すことのできるものではない! よってこの僕、トゥール・スートッカの名において、悪役国王であるあなたは修道院送りの刑に処す!」


 異様な静けさに包まれるパーティー会場。

 その中でトゥールのやけに荒い鼻息だけが耳障りな音を立てていた。


 たっぷりと間を置いた後。

 国王スートッカ三世が、これ見よがしのクソデカため息を長ったらしくついてみせる。

 それから、酔っ払いがゲロを盛大に吐き散らかしたあとに浮かべるような、変にすっきりとした清々しい笑みを浮かべてもみせた。


「廃嫡」


 そうして発せられた短い一言。


「――へっ?」

「『へっ』じゃなくて。廃嫡。わかる? 廃嫡だって言ってるの」


 素っ頓狂な声をあげたトゥールに対し、国王スートッカ三世が開き直った感の満載な口調で偉そうに語りかける。


「それでもって逆に修道院送りの刑に処すから。だから修道院に行くのは儂ではなく、トゥール、お主だ」

「そ、そんな馬鹿な! なぜ僕が修道院に行かなければならないのですか!? おかしいでしょう! 絶対におかしい! そんなおかしな話がまかりとおるはずがない!」

「いや、普通にまかりとおるし。ていうか本当に今さらだけど、そもそもおかしいのはお主の頭だから。いい加減にもう擁護できぬわ……衛兵! こやつを連れていけ!」

「はっ!」


 下っ端の衛兵がどこからともなく現れ、トゥールに腹パンをかまして気絶させ、ぐったりとさせたところで肩に乱暴に担いで立ち去っていく。


 その後、国王スートッカ三世が改めて締めの挨拶をし、文化祭の打ち上げパーティーは晴れてお開きとなった。


 かくして、「頭チンパン殿下」ひいては「稀代の頭クソチンパン王太子」と不名誉の極まる称され方をしたトゥールは修道院送りの刑に処され、その生涯を僻地の修道院で終えることとなる。


 では、はたしてモモカ男爵令嬢に対するイジメの首謀者は一体誰であったのか。

 当然、流されるままに証言を鵜呑みにしていたトゥールが導き出した答えは論外だ。

 国王スートッカ三世はイジメ云々には一切関与していない。


 その答えについて、のちにモモカ男爵令嬢の口からこう語られている。


「私が誰かにイジメられていたというのなら、それはあの方――トゥール様ご本人です。なぜか私がトゥール様をお慕いしていると勘違いされ、レベッカ様にイジメられているとも思いこまれ、私に四六時中付きまとわれたのですから。なにを言っても聞く耳をもってくれず、まったく話が通じなかったので恐怖しか感じませんでした……」


 とモモカ男爵令嬢は証言し、こうも続けている。


「また恐らくですけど、トゥール様は巷で流行っている恋愛小説の設定と、現実とを混同なされたのだと思います。このピンク色の頭髪のせいで、私はヒロイン扱いされてしまったのではないでしょうか……」


 王太子と恋仲になったヒロインが悪役令嬢にイジメられ、それをきっかけに王太子が悪役令嬢との婚約を破棄し、最終的にはヒロインと添い遂げる。

 そんな創作の中の話をトゥールは真に受けてしまったのではないかという推測を、被害者であるモモカ男爵令嬢がしたことは広く知られており、定説ともされている。


 そして事実、その推測は的を射ているのだが、真偽のほどについては公表されていない。

 かりにトゥールに問いただそうとも、彼は早い段階で、秘密裏かつ迅速にシャブ漬けにされて廃人と化してしまったため、話を聞くことはままならなかっただろう。

 もっともトゥールに話を聞こうとする変わり者は一人としていなかったのだが。


 なお、愛娘をコケにされて憤怒の化身となったジャスティーヌ公爵から、「殺すぞ」と台詞ままに直球で詰められた国王スートッカ三世はこうも弁明している。


「正直、本当に申し訳なかったと思っている。でも一つだけ言い訳をさせてもらうなら、あそこまで馬鹿なものがいるとは普通、信じられないのではないだろうか。能ある鷹は爪を隠すというか何というか。私としても、実のところトゥールはうつけを装ったキレ者なのではないかとしか思えなかったのだ。ほら、ね? さすがに信じられなくない?」


 最後の聞き返し方がそこそこ軽かったため、ジャスティーヌ公爵はガチでブチギレ。

 対する国王スートッカ三世も盛大な逆ギレをかまし、旧知の仲である二人の言い争いは派手なリアル城内乱闘へと発展。

 さらに争いは周囲にまで飛び火し、派閥争いや各々の確執に他国の介入といった諸々をも燃料として激しく燃えあがり、やがてスートッカ王国は南北に二分される。

 後世「三百年と三日戦争」と語り継がれることになる大乱および激動の時代の幕開けとなった。


 ともあれ、一連の騒動はトゥールの修道院送りという結末で丸く収まった。

 最大の被害者であるモモカ男爵令嬢も、家格に見合った相手と結ばれ、その後は幸せな日々を過ごしている。


 また、騒動に関わったほかのものたちについても、やはり丸く収まった形だといえよう。


 レベッカ・ジャスティーヌ公爵令嬢は隣国の王太子と婚約し直して結婚、夫婦仲はとても良好で二男一女をもうけている。


 マチルダ侯爵令嬢のレベッカとのすれ違いは間もなく解決し、二人は親友の仲に戻る。

 

 エミリー伯爵令嬢はすぐさま高飛びし、他国でも麻薬密売人として一財をなした。


 ゴードン子爵令息はエミリーの置き土産により「ハンカチガン舐め王子」であることが皆にバレてしまい、独り身で生涯を終えている。


 ガルダ男爵令息は下っ端の衛兵の手によって捕らえられ、極刑に処される。


 メイドは真実を知り、スパイから足を洗って母親とも縁を切り、田舎の農家に嫁ぐ。


 下っ端の衛兵はメイドとの姉弟プレイに飽きてからは別の女性相手にラリり、それからも変わらずラリり続けた。


 八百屋のおじさんは突然死した。


 魔女っ子は八百屋のおじさんが生理的に受けつけなくなったところでタイムリープ生活を卒業。


 ホームレスの老人は魔女っ子のパンチラを拝んでいたことがバレ、彼女から鉄拳制裁ならぬ究極魔法制裁をされて木っ端微塵に吹き飛んだ。


 最後に。

 後に、魔女っ子に暇つぶしで召喚されてしまった日本人の陰キャ男子高校生はこの話を聞き、こんな感想を残したという。


「まさに名は体を表すってやつですな。トゥルーストーカー恐るべし……なんちゃって、なんちゃってぇ! ふひひっ!」


 このキモ陰キャが転生チートでもってイキり倒すのはまた別のお話。


 おしまい



お読みいただきありがとうございました!


ちょっとでも面白いと思っていただけましたら、下にある『☆☆☆☆☆』を目視、および「お、ここにも☆☆☆☆☆があるじゃん!」と指差し確認していただけましたら幸いです!

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[一言] ちょっ…エミリーあんた……!
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